危雪の淡夢
福寿草
花瓶に刺さった福寿草をそっとひと撫でする。
やはり墓石に福寿草はあまり合わない。しかし、だからといって薔薇を贈ることは俺にできないのだ。俺の岬への愛は、純粋だとはとても言い難いものだったのだから。あんな夢などに囚われず、彼女を慕う気持ちを真っ直ぐに届けられなかった俺には。
あれ以来、淡夢を見ていない。正確には、見ようと思ったこともあった。だが、いくら淡夢の条件が揃っていても、俺が見るのはいつも普通の夢だった。夢の中で、これは夢だと気付くこともない。意中の相手が存在しなければ、起こることのない現象なのだろうか。詳しいことは何も分からないが、もう淡夢を見ることはない。それだけは明確だった。
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