採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥

第11話 決意

 30分か1時間か、それくらいの時間をかけて、僕はアルさんにあの日のことを説明した。

「話は理解した。それで、アキさんはそのまま続けることにしたんだな?」
「そのつもりです。……大事な友達もできましたから」
「……ふむ」

 シルフのことは、まだ話してはいない。
 アルさんが信頼できるとか、できないとかって話じゃなくて、今日すでにひとつ大きなことを話して迷惑をかけてるのに、さらにっていうのは、僕自身が嫌だったからだ。
 ……そのうち、タイミングを見て話せるといいなぁ……。

「アキさんは、このゲームの制作が発表されたとき、大規模な反対運動が起きたことを知っているか?」
「あ、はい。確か、ゲームでの暴力行為なんかが、現実での忌避感覚を麻痺させる、とかでしたよね?」
「ああ、そうだ。実際に武器を持ち、魔物や人型の相手を倒せる。そのことが、現実での感覚を麻痺させる事に繋がるのではないか、と問題になっていた。その件は、血生臭い表現や、PK行為に対する制限を加えることで、沈静化出来たみたいだが……実はそれ以外の問題点も指摘されていたんだ」
「暴力表現以外で、ですか?」
「そうだ。アバターと現実の身体能力の差を、脳が勘違いしてしまうのではないか、という意見が問題になっていたんだ」
「つまり、えっと……?」
「そうだな……。例えば、無制限にキャラメイクを可能にしてしまうと、現実では身長150cmの人が200cmのキャラを作成可能になる。その場合、腕や足の長さ、それに付随する行動に対しての身体の動かし方、力の入れ方なんかを、脳が勘違いしてしまうのではないか、ということだ。極端な話を言えば、現実では上手く身体を使えず、歩けなくなるような可能性すら出てくる、ということだ」
「そ、それって……」
「……脳の精神が肉体に与える力は、時に想像を絶する事をその身に起こす。まだフルダイブどころか、視覚と聴覚のみでもVRと呼ばれていた頃、こんな話があった。VR空間で死ぬと現実の身体に異変が起きた、という話だ。実際に死んだわけではないが、手足が震え、呼吸は乱れ、力も入らず……と。現実の身体には何もされていないのにも関わらず、だ。それほどに、精神は肉体に影響を及ぼす」

 ……性別の変更は原則不可能だ。
 原則っていうのは、心の問題でどうしても異性を使いたいという時のため、様々な書類を提出することによって可能になるから。
 けれど、それでも……身長なんかを極端に弄ることは出来ない。
 でも僕の場合は、身長が体感でも10cm近く……それこそ本来の加減量を超えて縮んでしまっている。

(……幸か不幸か、胸はほとんど無いんだけども)
(アキ様……)

 そ、それでもやっぱり男女の骨格や筋肉の付き方が違うからか、激しく動こうとすれば違和感は感じる。

「……もしこの身体の動かし方に慣れてしまって、現実で脳が勘違いしてしまったら」
「最悪の場合、骨格や筋肉の付き方が変化してしまうかもしれないな。それこそ、こっちの身体のように」

 それって、もしかすると僕が現実でも女の子になってしまうかもしれないってこと……!?
 ま、まずいんじゃ……。

「ただ、それは問題点として挙げられただけのことだ。不安なら現実での時間を増やし、こちらにのめり込まないようにすればいい。つまるところ、脳がどちらが主かを間違わないようにすればいいだけの話だ」
「な、なるほど……?」
「それに結局はアキさんが決めることだ。したいようにするといい」

 そう言ってアルさんは笑う。
 確かに色んな危険はあるのかもしれないけど……気を付けておけば、大丈夫なのかもしれない。

「……なにも無い可能性があるのなら、僕はこのまま続けようと思います。さっきも言いましたけど、大事な友達がいますから」

 僕にしか見えない状態で、僕の横に立つシルフへ、小さく笑いかける。
 忘れてないよ、明日も明後日も一緒だって言葉は。

「そうか。だったら俺からは何もない。ただ、困ったときには手助けくらいはさせてくれ。俺にとっては、アキさんが一番最初のフレンド、だからな」

 ただし、女の子の身体については全く手助けできないが、とアルさんは楽しそうに笑う。
 それにつられるように、僕とシルフも顔を見合わせて笑った。



「ところで、アルさんはなんで雑貨屋あそこにいたの?」

 お店に戻りながら僕はふと気になったことを、隣りを行くアルさんに聞いてみた。

「ああ、ちょっとポーションの数が減ってきたからな。補充のために行ったんだが……その際に少し相談があってな」
「相談? おばちゃんに?」
「ああ。薬の件でな」
「ポーションになにかあったの?」
「あー……。恥ずかしい話なんだが、聞いてくれるか?」

 少し照れるように、頬を掻きながらアルさんがそんなことを聞いてくる。
 お店に着くまで時間もあるし、特に話題もあるわけじゃないから……と、僕は頷いた。

「最近俺はパーティーを組んで街の外に出てるんだが、そのパーティーでの役割がタンク兼ダメージディーラーでな。あぁ、タンクは盾役で、ダメージディーラーは攻撃役という意味だ」
「うん」
「ただ、その2つを並行して行ってる関係でな、どうしてもポーションの消費が激しいんだ」
「なるほど……。つまり金欠?」
「いや、お金はパーティーで稼いでる分、余裕はある方だ」
「じゃあ材料とか?」

 雑貨屋はおばちゃん1人で調合とかしてるし、材料の供給より使用量が多かったら、どうしようもなさそうだし……。
 基本的にはどこかから買い付けとかしてるのかな?

「いや、材料の方も問題無い。買いに行くときは、薬草を採取してから向かってるからな。今じゃこれが、戦闘メインのプレイヤーでは、暗黙の了解みたいになってるんだ」
「そ、そうなんだ……」

 おばちゃんに誰か怒られたのかな……。
 そういえば、兵士のおじさんもおばちゃんのこと結構怖がってたような……。
 怒らせないようにしよう……。

「お金でも材料でもなかったら、なんなの?」
「味、だな」
「味……?」
「まぁ、俺が我慢すれば済む話ではあるんだがなぁ……」

 そう言って落ち込んだように息を吐いてから、アルさんは天を仰いで目を塞いだ。

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