この転生が、幸せに続く第一歩 ~召喚獣と歩む異世界道中~

一色 遥

第7話 教会の爆睡神官(女性)

 祈りを捧げていると、突然周囲の雰囲気が変わった気がした。むしろ変わってた。
 顔をあげても見える景色は同じ……同じ過ぎて、これたぶん時間が止まってる?

「こんにちは、リヒト君」

 後ろから聞こえた声に振り替えると、見覚えのあるお爺さん――もとい、神様が椅子に座っていた。
 なんだかそうして座ってると、ただのお爺さんにしか見えないのが不思議な感じだ。

「神様。こんにちは」
「ちょうど時間が空いたタイミングで君の声が聞こえてね。様子を訊きに来たんだよ」
「なるほど。ベストなタイミングだったってことですね」

 そもそも神様に空き時間っていうのがよくわからないけど……あれかな、神様って父さんみたいな会社員なのかな? 神様を雇う社長って、もはやなんなのかわからないけど。

「それで、どうかな? こっちの世界は」
「とても良い人たちばかりで、毎日楽しく過ごさせていただいてます。時折、知らないことがあったりして困るんですけどね」
「そればっかりは仕方ないね。生活しながら覚えていくと良いと思うよ」
「はい。そうしてみます」

 話が途切れたところで、僕はふと気になった事を訊くことにしてみた。
 むしろこれは、一番最初に知っておくべきことだったのかもしれないけど。

「あの、神様。神様ってヴォーキドンって名前なんですか?」
「そういえば名乗ってなかったね。そうだね、この世界ではヴォーキドンと呼ばれているよ」
「この世界でってことは、別の世界では……」
「君の元いた世界も担当していてね、そっちではまた別の名前で呼ばれているよ」

 担当って……ますます会社員説が有力になってきたぞ……。

「そうだ、リヒト君。君に伝えておくことがあったんだった」
「伝えておくこと、ですか?」
「うん。わかっているとは思うんだけどね、一応伝えておかないといけなくてね」

 神様は微笑んでいた顔を、少し真面目な顔に戻し、僕をしっかりと目で捉える。
 急変した雰囲気に、ゴクリ……と喉が鳴ったが、僕は目をそらさずしっかりと神様と視線を合わせた。

「君は元いた世界で死んで、こっちの世界に転生した。これは本来、特別なことなんだ」
「はい。理解しています」
「だから二度目は無い。この世界で君が死んだとき、君の生はついえる。そのことだけは忘れないでほしい。無理や無茶はしないこと。死んでしまったら終わりだからね」
「いのちをだいじに、ですね。大丈夫です。僕だってまた死にたくは無いですし、今日もそのために回復魔法を教えてもらおうと思ってますから!」

 胸を張って僕は言い切る。
 死んだら終わり、だからガンガンいこうぜ、はお勧めしないってことなんだろうな。

「うん。それを聞いて安心したよ。回復魔法、使えるようになるといいね」
「はい! がんばります!」
「まあ、魔法の適正は充分あると思うから、あとは努力次第かな。しっかり勉強してね」
「が、がんばります……」

 努力次第ってことは、僕が頑張ってるかどうかは見たらわかるってことじゃないですかー……。
 ぐぬぬ……期待を裏切らないように頑張らねば……。

「それじゃあ、私はそろそろ戻るとするかな」
「あ、あの……その……」
「ん? どうかしたのかな?」

 立ち上がった神様に、咄嗟に僕は声をかける。なんでかは分かってる……けれど、これは訊いてもいいことなんだろうか? 神様が話さないってことは、訊かない方がいいことなんだろうか?
 もちろん気にはなってる。神様が元の世界も担当してるって言ってから、その感情は強くなってる。でも……。

「……言わなくてもわかっているよ。やっぱり気になっているんだね?」
「はい……」

 父さん、母さん……二人は、大丈夫だろうか。
 何度も目を腫らして、それでも笑ってくれていた母さんだ、また泣いていたりしないだろうか。
 話すのがそんなに得意じゃないのに、なんとか話そうとしてくれていた父さんも、落ち込んでいたりしないだろうか。

「二人は……僕の家族は、どうなっていますか……?」
「そのことはね、伝えるべきかどうかは悩んでいたんだ。もし君が、この短期間ですでに折り合いをつけていたら、言わないでおこうと思ってもいたんだ。でも、そうじゃないんだよね?」
「……はい。感謝を忘れないようにしつつ、気にしすぎないようにと、あまり思い出さないようにはしていました。昨日、冒険者登録をして、この場所で頑張っていくと決めた時に、折り合いを付けたつもりでした。でも、やっぱり心配なんです」

 泣かないようにゆっくり話す僕に、神様は「そうか、そうだよね」と優しく頷いてくれる。
 そして、僕の話が終わってから、神様は静かに口を開いた。

「実はね、ついさっきまで、君のご両親への対応をしていたんだよ。とてもじゃないけれど、見ていられなかったからね」
「それって……」
「大丈夫。確かに、君が亡くなった日から昨日にかけては、お母さんは自分を責めて泣き続け、お父さんも写真を見ては泣いていたよ。でも、今日はもう……そんなことは無い。二人とも前を向いて、頑張ろうとしてくれている」
「神様が二人に何かしてくれたんですか?」
「ちょっとした手助けだよ。夢を使ってね、君の最後の言葉を伝えて……この世界の君の生活を少し見せてあげたんだ。ホントはこれ、やっちゃダメなんだけどね」

 そう言って神様は少し笑う。
 でも、どうしてそこまで……。

「最初にも言ったけど、見ていられなかったんだよ。それに、君はきっとご両親の事を心配する子だと思っていてね。君がこの世界で楽しく生きることを、ご両親も望んでくれていると知れば、きっと君にもプラスになると思ったんだ」
「ありがとう、ございます……!」
「だから君は、こっちの世界で……幸せに生きないといけない。それが、ご両親の今の願いだからね」

 微笑みながら、僕の目を見て、神様はそう締める。
 知らず知らずのうちに、目から涙がこぼれ落ちていた事に気づき、僕は手でそれを拭った。

「神様、僕をこの世界に転生させてくれて……本当にありがとうございました」
「うん。これからも頑張ってね」
「はい!」

 僕の返事に頷いて、僕の頭を少し撫でてくれる。
 そして、次第にその感触が薄れ……いつしか、僕の視界から神様の姿は消えていた。



「ピー……?」

 気付くと夜空が僕の頭の上で、鳴いたり髪を啄んだりしていた。どうやら元の時間軸に戻ったみたいだ。……夜空、ハゲるからあまり髪を引っ張らないように。

「さて、お祈りも終わったし、ポルカさんって人を探さないとね」
「ピッ」

 身体を伸ばし伸ばし……あ、いま肩がペキッていった。無理はしないようにしておこう。
 ひとまずポルカさんに渡りを付けようにも、ここに誰もいな……いや、いる?
 入口にいたときは影になってて気付かなかったけど、椅子で寝てる人がいる!?

「ね、ねぇ夜空……そこに人がいない?」
「ピ……ピッ!?」
「すごい綺麗に隠れつつ、見事に寝てるよね……」

 長椅子に寝転がって、気持ちよさそうに寝てるけど……風邪引いたりしないのかな?
 体型とか服装的には女性みたいだけど。

「でも、このまま寝かせとくのも怖いし、起こすべきかな」
「ピー……」
「でも、触ったらさすがに怒られそうだし……よし! 夜空、頼んだ!」
「ピィ!?」

 いや、別に怖いとかじゃないんだよ? ホントだよ?
 ただ女性に男の僕が触ったり近づいたりはやっぱりなんていうかあまり良くないというかですね。

「ピッ! ピッピー! ピピピーピー!」
「よし、そこだ、やれ! やってしまえ!「ピ!」あいたっ!」

 女性の顔近くを飛びながら声を掛ける夜空を応援してたら、夜空が急にこっちに飛んできて翼で叩かれた。
 なんてひどい子だ。

「ん、んぅ……」
「あ、起きそうだよ」
「ピィ!」
「ん……スヤァ」
「そこで寝るのー!?」
「ッ!? わきゃ!?」

 微妙に目を開けたと思いきや、そのまま夢の世界にダイブしていく。その華麗なスルー力に僕が驚いて叫んだら、それに驚いて彼女は椅子から落ちた。ごめん。

「あの、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。よくあることなので……」
「よくあるんですね」
「座ってお祈りしてると、ぽかぽかしてきて……気付いたら、はい」

 うん、この人、すごく自由な人だ。僕と同じ金の髪をしてるからちょっと親近感がわきそうだけど、さすがにこの自由っぷりには親近感がわきそうにない。
 あれ? 金の髪?

「あの、すみません。もしかしてポルカさんですか?」
「ええ。そうですけど……どうして私を知ってるんですか? まさか、うちの子達がまた何かやらかして、弁償しろとか商品代払えとかですか!? ごごごごめんなさい! お金はないです! 帰れ!」
「これは酷い!」

 まさか名前を確認しただけで睨まれて帰れと言われるとは思わなかった……。エスメラルダさんからは“少し抜けてる人”って聞いてたけど、どちらかというと飛んでる人ではないだろうか? その辺、また今度確認してみよう。

 そんなことを現実逃避気味に考えていても、ポルカさんの顔は僕から動かない。そう、顔は・・動かない。

「スヤァ……」

 目は閉じられていて、彼女自身は夢の国に旅立っていた。



「すみませんでした……」
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ誤解が解けて良かったです」

 教会の床に両膝付いて、見事なまでの土下座を披露するポルカさん。
 なんだろう……この世界って謝罪するときは土下座がスタンダードなんだろうか。

「あの、どうかしましたか?」
「あーいえ……美しい土下座だな、って」

 ポルカさんを見たまま考え事をしていた僕に、そのポルカさんが首を傾げつつ問いかけてきた。
 ごくごく普通の問いかけだったはずなのに、何故か僕は土下座を褒めていた。意味が分からない。

「美しいですか? そうですね、土下座には慣れていますので」
「土下座に慣れてるってなに……?」
「私はどこか抜けているみたいで、よく神官長様に叱られてます。初めの方は、夜に自室に訪ねられてこられて叱られていたのですが、最近ではどこにいてもお構いなしに叱られてしまいますので……土下座の速度と完成度が上がりましたね」
「最後ので台無しだよ」
「今なら、神官長様の姿が見えた瞬間、頭を地面に付けることも出来ると思いますよ」
「それは自慢にならないよ……。むしろ自慢しちゃダメなことだよ……」

 大きくて目を引く胸を張って、本当に自信があるみたいにドヤ顔を見せてくるポルカさんに、僕はため息を吐くことしかできなかった。

 エスメラルダさんからはこの人に回復魔法を教えてもらって、と言われたけど……本当にこの人で大丈夫なんだろうか? いろんな意味で不安なんだけど。

「それで、リヒトさんはどんなご用件で教会に? 自慢じゃないですが、この教会にお金はありませんよ?」
「ナチュラルに人を強盗にしないでください。教会には祈りに来たんですよ」
「それは良い心がけですね。それで、お祈りは?」
「もう終わってます。だから今はそれ以外の用事ですね」

 言いながら空間収納に手を突っ込んで、エスメラルダさんに作ってもらった紹介状を取り出して、ポルカさんへと手渡す。
 急に紙を手渡されたからか、彼女はキョトンとした顔を見せつつも、いそいそと封を開き、中の文章を読んで「え、えぇ……」と困惑した声を出した。

「あの、これに、あなたに回復魔法を教えてあげなさいって書いてあるんですけど」
「はい。僕も、冒険者ギルドのエスメラルダさんから同じように聞いてます。もしかして、ダメですか?」
「ダメじゃないんですけど……」
「なら教えていただけると嬉しいんですが……」

 ポルカさんは僕の言葉に渋い顔をしつつも、紹介状を見て小さく「エスメラルダちゃん怒らせると怖いし……」と呟いていた。
 なるほど。エスメラルダさんを怒らせると怖いらしいので、僕も怒らせないようにしよう。

「あのね、回復魔法を教えるのは良いですけど、その場合は少し寄付をいただく事になってまして」
「寄付、ですか?」
「はい。この教会の裏手に孤児院があるのは知ってます?」
「すみません。この街に来たのが、ついこの間で……」
「じゃあそこから説明しますね。そもそもこの教会というのが――」

 ポルカさんの説明によると、教会というのは、まず人々の心の拠り所になるために立てられているものらしい。
 その最たる理由は、魔物の存在。魔物は人に害をなす存在とされていて、街から街へ移るだけでも命の危険を覚悟しないといけないくらいに、人々には恐怖の対象なんだとか。
 だから、人々には神様が必要で、お祈りしたりして心に安寧をもたらすために、教会が建てられている、らしい。
 回りくどいけど、なんとなく理解はできる……かな?

「そんな教会なんですが、同時に魔物によって親を亡くしてしまった子達の受け入れも行っているのです」
「それが孤児院ですか?」
「はい。孤児院の管理は協会が行っているのですが……元々慈善事業のようなものですので、常に大赤字でして……」
「ああ、なるほど。それで寄付金を集めて、そっちに回してるってことなんですね」
「はい……」

 ちなみに寄付金以外でも、孤児院に入っている子供達が、冒険者ギルドで街中のクエストを請け負ったりしているらしい。
 つまり、白ランクムーンのクエストが危険がなく報酬が安いのは、孤児院の子達向けに設定されているからなんだろう。よく考えられてるなぁ。

「それで、回復魔法を教えていただくための寄付金は、いくらなんですか?」
「五十ジル……です」
「おぉう……」

 五十ジル。それは半銀貨一枚の金額ではあるものの、非常に高いと言わざるを得ないだろう。
 まず、この街――ビスキュイに入るための通行料は五ジルだったし、露店で買えるご飯なんかは高い物でも七ジルもいかない。
 それに、僕が泊まってる宿ですら、朝食付き連泊十日間で四十ジルだったり……。
 ぐぬぬ、一応神様に貰ったお金はまだあるんだけど、使いすぎるのもあまり良くないし……。というか、この三日間は稼ぎ無しなわけだし、減る一方なんだよね。

「でも、背に腹は代えられない!」
「はい。確かに頂きました。ありがとうございます」

 そう言って頭を下げるポルカさんの姿は、本当に感謝していると言ってるみたいで、僕も少し嬉しくなった。
 ともあれ、これで回復魔法を教えてもらえるだろうし、きっちりマスターしてお薬代を浮かせるぞー!

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