この転生が、幸せに続く第一歩 ~召喚獣と歩む異世界道中~

一色 遥

第6話 転生者は常識を知らない

 テトテト、ピッピと歩くこと十数分。僕はあの門へと辿り着いた。
 改めて見ても大きいなぁ……。こんなサイズの馬車とかあるの? 引ける気がしないんだけど。

「おや、お嬢さん。どうかしましたか?」
「……お嬢さんじゃないですけど、モーガンさんに用がありまして」
「なるほど。お呼びしますので、お嬢さんはこちらでお待ちください!」
「だからお嬢さんじゃないんですけど、わかりました」

 僕の言葉も聞かずに、守備隊の隊員さんらしき人が門の方へと歩いて行った。
 うむむ……僕はそんなにも女の子に見えるのか?

「よお、リヒト。クエストだって?」
「あれ? ご存じなんですか? あ、こんにちは、モーガンさん」
「ああ、こんにちは。さっきティアが来てな。“今日はリヒト用のクエストにしたから!”ってよ」
「ふむふむ、なるほど」

 つまり、ティアちゃんは僕と一緒に冒険者ギルドに行って、僕が頭の光を見たり、登録したり、説明受けたりしてた間にこっちにも根回ししたってことか。
 ぐぬぬ……お礼をせねばなるまい……三倍返しだ! 元ネタはしらない! そんな台詞が流行ったって昔聞いただけ!

「それで、そのカゴがクエストの品か?」
「あ、そうですそうです! 確認して、こちらの紙にサインお願いします」
「あいよ。ちょっと待ってろ」

 カゴと紙を受け取って、モーガンさんは門の方に。きっとサインするためのペンとかが無いんだろうな。
 待ってる間暇だったこともあり、夜空を腕に乗せ、頭を撫でたり喉のところをさわさわしたり……「ピィイィ……」って変な声が出るのが面白くて、何度もやってたら指をクチバシで挟まれた。痛い。

 そんなこんな遊んでいると、モーガンさんが門から出てきた。手には紙しか持ってないけど、カゴは持って帰らなくていいのかな?

「ほい、リヒト。これで良いんだろ?」
「あ、はい! でも、カゴは良いんですか?」
「ああ、カゴはいっつも俺が返してるからよ。気にしなくて良い」
「なるほど。でしたら大丈夫ですね」

 ひとまず、手渡して貰った紙を空間収納に入れてから、僕は道中、夜空と話していたことを訊いて見ることにした。
 そう、訓練とかの件である。

「あん? 訓練?」
「ええ。その、お恥ずかしながら……僕、あんまり動くのが得意では無くて……」
「それは見りゃわかるけどな」
「な、なんだってー!?」
「いや、リヒト。お前、歩くの下手くそだろ? 一昨日、門に連れてくる時点で気付いてたぞ?」
「そう、だったのか……」

 ガクリと肩を落とした僕に、夜空がペシペシと翼で頭を叩いてくる。
 ねぇ夜空。慰めてるの? それとも笑ってるの?

「それで? 少しでも動くのに慣れたいってことか?」
「そう! そうそう、それです!」
「うわっ……いきなり大声出すなよ……」
「あ、すみません」

 ガバッと顔をあげて同意した僕に、モーガンさんが素早い動きで距離を取る。
 なんて身のこなし……あの動き、僕にもマスターできるだろうか……。

「まあ、身体を動かすんなら毎日剣を振ったり、走ったりなんかでも次第に良くなっていくもんだぞ? 冒険者ギルドに訓練所があるから、今度訊いて見ればいいんじゃないか?」
「やっぱりギルドにはあるんですね」
「ああ。クエストをこなす上で大体のことは出来る用になってるはずだ。採取クエスト用に、素材の見分け方なんかも教えてくれたりするな」

 な、なんて親切設計……!
 登録から初めてのクエストまで、全部エスメラルダさんが担当してくれてるし、今度もまた彼女に訊いてみることにしよう!

「ま、今日のところは初めてのクエストってことで、訓練は明日にしとくと良いんじゃないか?」
「え、なんでです?」
「どうせ、ティアのやつが“初クエストおめでとー!”とか言って騒ぐだろ。体力残しとかないとあいつの相手は持たねえぞ?」
「あー……なるほどー……」

 「ピィ……」と、夜空もなんだか理解したみたいな声色で鳴いてるし、本格的な訓練は明日からにしといた方が良さそうだなぁ……。
 でも、そうなるとこれからの時間どうしよっか?

「なら教会でも行ってきたらどうだ? これからの冒険者生活が上手く行くように、神様に祈っとくと安心だろ?」
「教会! そうだった、教会! どこにあるんですか!?」
「だから声がデケェっての! あー……説明しにくいな。ちょっとこっちに来い」

 食いつくように反応した僕に、モーガンさんは対抗するように大きな声で諫め、僕の手を引いて門へと歩いて行く。
 そして、門の近くで門に沿う形で横に曲がると……目の前に階段が現れた!

「ほら、上るぞ」
「門の上に上がれたんですね!」
「魔物の襲来とかから、早く気付くためにな。だが、今回はそっちじゃなくて街の方を見ろよ?」
「はい!」

 階段を上りきると、正面には青い空と緑色の草原が広がっていた。
 僕が夜空に乗って飛んできた草原なんだけど……すごい! この高さで見ると、また違う絶景って感じだ!

「だから今回はそっちじゃねえって言ってるだろ」
「おっとっと。すみません」

 モーガンさんに言われて振り向いた僕と違い、夜空は肩から飛び立ち気持ちよさそうに空を飛び回る。そんな彼女に少し笑みを零しつつ、僕はモーガンさんが指さした方へと目線を向けた。

「いいか。あそこが“竜の羽休め亭”。であっちが“冒険者ギルド”だ」
「はい」
「それで“教会”は……あっちだ」
「宿のさらに向こう側なんですね」
「そうだ。宿の前の道を街の奥に向かうように進んで、途中何度か道を曲がる必要がある。迷いやすいんだが……そうだな、夜空に案内してもらうといい」
「良いですね、それ」

 自分の名前が呼ばれたからか、「ピィ?」と声を上げながら、彼女が僕の肩へと戻ってきた。そこで、僕は夜空に教会の位置を伝えつつ、道が難しいから途中から道案内してね、とお願いした。

「ピー! ピッピ!」
「胸を張ってるってことは、任せろ! ってことかな?」
「ピ!」
「うん。ありがとう」

 夜空の頭を撫でてあげれば、気持ちよさそうな声で「ピィ……」って鳴いてくれる。可愛い。

「しかし召喚獣ってのは、良いもんだな。夜空一匹だけでも、色んな事が出来るだろ?」
「そうですね。夜空は大きくなれば人も乗れますし、こうして小さければ道案内とかもお願いできますから」
「狼なんかの獣型だったら、匂いを辿ったりなんかもできるらしいしな」

 モーガンさんの話を聞けば、今まで数人程度は召喚魔法を持ってる人を見たことがあるらしい。それぞれに魔物を連れていて、鳥形の魔物を連れていた人もいたみたいだ。
 ただ、その人の魔物は大きくなっても人は乗れないサイズだったらしいけど。
 やはり夜空が特別大きい魔物ってことらしい。すごいね!

「まぁ、遅くなる前に教会に行ってくるといい。先にギルドに寄るのは忘れるなよ?」
「おっと、そうだった。忘れてました」
「……大丈夫かよ」

 門から直接教会に行こうと思っていた僕は、モーガンさんの言葉で、今がクエスト中だったことを思い出した。
 どんなにスムーズに仕事をこなしても、報告を忘れていたら意味が無い。
 前、看護師さんから聞いた言葉で、そうだ、ほうれん草だ!
 報告、連絡、相談! 思い出したのはいいけど、今は全く関係無かった!

「それじゃ、行ってきます!」
「おう、気を付けてな」

 モーガンさんに手を振って、階段をトントントンッと軽い足取りで下りて……あっ。

「――ったく、危なっかしいんだよ」
「す、すみません」

 バランスを崩して落ちそうになったところを、モーガンさんが腕を引いて起こしてくれた。
 よかった……落ちてたら教会に行くどころじゃなかったかも。

「ほら、気を付けて行ってこいよ」
「……はい」

 下まで一緒に下りて、そこで再度別れる。
 さすがに今回はちゃんと返事もして。



「はい。確かに受け取りました。これが報酬と引き換えできるあかしになります」
「あ、ありがとうございます!」

 ブランディさんとモーガンさんにサインしてもらった紙を、エスメラルダさんに渡し、引き換えに小さな紙を受け取る。
 そこには、“お食事一回無料!”と書かれていた。うん、わかりやすくていいね。

「まだお昼前ですが、本日は他にも何か受けてみる予定ですか?」
「いえ、今日はちょっと教会に行ってみようかと思います」
「教会、ですか? どうしてまた」
「モーガンさんに言われたんですけど、これからの冒険者生活が上手く行くようにって神様に祈っておこうかと」
「ああ、なるほど。良い心がけだと思います」

 エスメラルダさんが優しく微笑み、唐突に何かを思い出したように、紙にペンを走らせる。
 そして、その紙を筒状に丸めてから紐で縛り、僕に手渡してきた。

「これは?」
「昨日、回復魔法のことをお話ししたかと思います。教会のポルカという女性が回復魔法を使えるため、可能なら教えて貰えるよう紹介状を書かせていただきました」
「え、そんな……良いんですか?」
「ええ、もちろんです。回復魔法が使えれば、魔物との戦いで傷を負っても、生き残れる可能性がグッと高くなります。覚えておいても損はないでしょう」

 それからエスメラルダさんは、ポルカという女性について詳しく教えてくれた。
 僕と同じ金の髪を持った人らしく、ドンと胸があるらしい。ドンと。

「性格も優しく、子供達にも好かれている神官様といった方です。ただ、少し……抜けてるところがあるといいますか……」
「抜けてる……ですか?」
「ええ、まぁ会えば分かると思いますので」

 いつもハキハキと話すエスメラルダさんにしては、妙に歯切れが悪く……なんだか怖くなってくる。
 いや、でも優しい人って言ってたし……大丈夫、だよね?

 とりあえずお昼を食べてから向かうことにした僕らは、エスメラルダさんに再度お礼を言って、ギルドから外へ出た。
 お昼は教会に向かう途中の露店で何か買って食べようかな……良い匂いが漂ってきてるし。



「ピッピー!」
「ここを曲がって」
「ピ!」
「次はそこを曲がって……」

 高い位置を飛び、少し先行してくれる夜空の後を追いながら、迷路のような路地を抜けていく。
 これは一人だったら絶対に迷ってた。というか、地図があっても迷ったんじゃないだろうか?
 まったく、夜空様様って感じ。

「ピッ!」
「あとは道なりに真っ直ぐ?」
「ピィ……」
「うん、お疲れ様。ありがとね」

 疲れたーと言わんばかりに力なく鳴いて、夜空は僕の肩へと戻ってきた。お昼を食べた後っていっても、先を確認しつつ僕を案内しつつっていうのは結構大変だったんだろう。なにせ、夜空も知らない道だったんだし。

 でも夜空が頑張ってくれたおかげで、今僕の目の前には教会らしき建物が見えてきた。
 清潔そうな白い壁に、青い屋根。その頂点には十字を象った金の象徴シンボル
 まさしく教会って感じだ! でも、この建物……壁が白いし、他と違って木製じゃないのかな?
 十字架みたいなのもあるし、外観に何か決まり事があるのかもしれない。

「お邪魔、しまーす……」
「ピ、ピィ……」

 ギィー……と音を立てながら教会の扉を開くと、目の前に広がる荘厳そうな部屋。入口から真っ直ぐ開かれた道の先、中央奥に祭壇っぽいものが見え、道の両側には木製の長椅子が沢山置かれていた。
 ただの部屋のはずなのに、妙に神々しい雰囲気があるのはなんでだろう……。不思議だ。

「誰もいないのかな?」
「ピィ?」

 コツコツと音を鳴らしながら部屋の奥へと進むが、誰も出てこない。
 うーむ……みんなお昼を食べてるって感じなのかな? 誰もいないってなるとどうするかな……。

「先に神様にご報告がてら、お祈りしちゃおっか」
「ピッ!」

 そうと決まればすちゃっと祈ってしまおう!
 えーっと、たしかこういったことに詳しかった看護師さんに言われたのは……祭壇の前で両膝を付けて、両手を合わせて……。
 それで、祈る! だったはず!

 神様、転生させてくださり、ありがとうございました。おかげさまで僕はこの数日間、とても楽しく生活をさせ「アンタ何やってんの!?」……え?

「そんな祈り方があるかい! 全くどこの不届き者だい!」
「あ、え、その……」
「なんだい! そんな祈り方じゃヴォーキドン様には届かないよ!」
「お、おーき……?」
「ヴォーキドン様だよ! そんなことも知らないのかい!? 平凡種ヒューマンとエルフが信仰してる創造神様のことだよ!」
「は、はぁ……」

 まくし立てるように怒られて、何がなんだか分からない。
 ヴォーキドン? その神様が、僕をこの世界に転生させてくれた神様なのかな?
 それならお礼をちゃんと伝えたいけど……どうやって祈れば良いんだろう……。

「あの、お祈りって……」
「はぁ? アンタ、ホントに何も知らないのかい?」
「す、すみません……」

 本当に呆れたと言わんばかりに大きくため息をついて、突然やってきた年配の女性は「ほら、こうやるんだよ」と動きを見せてくれた。
 
 まず祭壇の前に立ち、右手を握って胸の前……いわゆる心臓の上へと持ってくる。そして、その姿勢のまま軽く一礼。
 その後、腕はそのままに左膝を地面に付けるように下ろし、片膝立ちの状態にしてから、両手を胸の前で組んで、顔を少し俯ける。
 そして祈り終わったら、逆再生のように最初の姿勢に戻って一礼、と。

「わかったかい?」
「はい。ありがとうございます」
「次からはあんな祈り方したらダメだからね! 天罰が下るよ!」
「き、気を付けます!」

 「まったく、若い人ってのは……」とぶつぶつ言いながら、年配の女性は教会から出て行く。
 その姿を見送ってから、僕は確認するように再度祈りの姿勢を取って、中断された祈りをもう一度捧げた。

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