この転生が、幸せに続く第一歩 ~召喚獣と歩む異世界道中~

一色 遥

第3話 宿で出会った女の子……?

 モーガンさんと並んで歩くビスキュイの街並みは、活気があって、とても明るい雰囲気で満たされていた。
 建物は基本的に木製だけど、二階建てや三階建ての建物も多く、夜空に乗って見えていたイメージよりも、大分発展した街のイメージだ。

「でも……なんだかすごい目立ってませんか?」
「まぁ、そりゃあ……なぁ……」

 僕とモーガンさんが進む度に増えていく視線。それはまるで、突き刺さっているみたいに感じるほど。

「僕がエルフだからですか?」
「いや、この街にもエルフやドワーフ、ホビットといった精霊種の人は良く来るからな。普通のエルフなんかじゃもう見慣れてるだろう」
「じゃあなんでですか? 夜空がいるから、とか?」
「それもあるんだが……」

 モーガンさんはチラっと僕の方に視線を投げて……大きくため息をいた。

「ま、気にするな。そのうち慣れるだろうよ」
「そういうものなんですかね……?」
「そういうものだ。ほら、ついたぞ」

 言って、カタンと音を立てながら建物へ入っていくモーガンさん。軒先に吊されていた看板に目を向けると、見たこともない文字で“竜の羽休め亭”と書かれていた。
 すごい! こんな文字、見たことないのにわかる……!

「おーい、早く入ってこいよ」
「あ、はーい!」



「リヒト。紹介する、この人が竜の羽休め亭の店主、ケッツン。それから、隣りにいるのがケッツンの奥さんでブランディさんだ。二人とも、こいつがリヒト。この街に来たばかりだから、良くしてやって欲しい」
「僕はリヒトです。よろしくお願いします」

 モーガンさんの紹介に合わせて名を名乗り、ぺこりと頭を下げた。
 よく焼けた筋肉に身を包んだケッツンさんと、歴史を感じさせる妖艶な雰囲気のブランディさんも、それに合わせるように「よろしく」と、僕を迎え入れてくれた。

「あともう一人、紹介したい子がいるんだが……」
「先ほど言われてた、僕と同じくらいの歳の方ですか?」
「そうそう。ブランディさん、ティアちゃんは?」
「あの子なら今は部屋の掃除だね。そのうち来るだろうし、今のうちに受付しとくかい?」

 「お願いします」と、僕は前に立つモーガンさんを抜いて木製のカウンターへと近づき、対応のためカウンターの向こうに立ったブランディさんに注意事項を教わりつつ、お金を支払った。
 どうやら一泊寝るだけと、一泊朝食付きのパターンがあるらしく、さらに何日か連泊でお願いすると一泊分が多少安くなるシステムみたい。

 僕はひとまずモーガンさんの勧めもあって、十日間の朝食付き連泊をお願いすることにした。
 料金は全部で四十ジル。ちなみに、先ほど門を通るためにモーガンさんに支払った通行料は五ジルだった。

 門でモーガンさんに教えて貰ったことだけれど、銅貨一枚が一ジル、銀貨一枚が百ジル、金貨一枚が一万ジル。銅貨と銀貨の間に、半銀貨。銀貨と金貨の間に半金貨があって、金額は五十と五千。さらに金貨の上もあるらしいけど、モーガンさんでも生きてきて見たことはないってさ。

 神様が空間収納に入れてくれていたお金は、銅と銀……半銀貨なんかも混ざって、全部で五百ジルあった。宿代が十日で四十とすると、これだけあれば当面困ることはなさそうだ。
 よかった、よかった。

「部屋は後でうちの子に案内させるね。……ほら、噂をすれば来たみたいだよ」
「お母さん、お部屋の掃除終わったよー?」
「ティア、ちょっとこっちに来なさい」
「……?」

 見計らったかのようにベストなタイミングで、どこからか女の子の声が響いてきた。
 そして、ブランディさんの声に従うように、僕の右側に伸びていた廊下から女の子が歩いてきた。

 歩く度に肩の上で揺れる髪は、僕がこの世界にやってきて一番に見た空の色。……いや、それよりも若干薄い色かな? 清潔そうな薄手のシャツと、ショートパンツを身につけているからか、妖艶な雰囲気溢れるブランディさんとは違い、どちらかというと清純派って感じがした。

「ティア、この子はリヒトさん。今日この街に来たばっかりみたいだから、何かとフォローしてあげてね」
「リヒトです。ティアさん……ですか? よろしくお願いします」
「はい! 私はティアっていいます。何かあったらいつでも頼ってくださいね! それと……多分年齢も近いと思うので、さん付けじゃなくて、呼び捨てで大丈夫だよ」
「えーっと、じゃあティアちゃんで。そっちこそ呼び捨てで良いよ」
「むぅ……」

 むくれるティアちゃんに対し、僕はとりあえず笑って誤魔化すことにした。
 そもそも、女の子を呼び捨てとかちょっとハードルが高いからね……。前世でも自分と同い年くらいの子と接した事なんて殆どなかったわけだし。

「……ピィ」

 そんなことを考えていた僕の左側から、聞き慣れてきた声が飛び込んできた。
 あー夜空はその……女の子だって忘れてたわけじゃないからね?
 なんていうのかな、ほら、その……そう、家族みたいな!

「ピー……」

 取り繕うみたいに頭を撫でた僕に対し、何か思うところがあったのか、夜空はジーッと僕の方を見つめ、いつもより数段低い声で鳴いた。
 そんな僕らのやり取りを見ていたティアちゃんが、まるで助け船を出すように、僕へと話を振ってくれる。

「ねえ、リヒト。この子は?」
「あ、うん。夜空って言ってね、僕の召喚獣なんだ」
「召喚獣!? すごーい! ね、ね! 撫でてもいいかな?」
「夜空が良いなら、僕は構わないけど……」

 僕の言葉を受けて、ティアちゃんが夜空へと手を伸ばす。
 しかし、夜空はティアちゃんの手を逃れるように、僕の左肩から右肩へ移動し、追いかけてきたティアちゃんの手を避けるようにまた左肩へ。あ、これはダメですね。

「ティア! 遊んでないで、さっさとお客さんを案内してあげな!」
「ひゃい!」

 逃げる夜空と、諦めず手を伸ばすティアちゃん。そんな、僕の肩を使った激しい攻防は、突如放たれた怒声で幕を閉じた。さすがにブランディさんの怒声を聞いては続けてられないと思ったのか、ティアちゃんはすごすごと夜空から手を引くと、僕に背を向け「こちらです」と歩き始める。
 そんな彼女に苦笑しつつ、僕は案内してくれたモーガンさんにお礼を言ってから、ティアちゃんの後を追いかけた。



「ここがリヒトの部屋ね。基本的には自由に使ってくれて大丈夫だけど、壊したりしたら弁償してもらうことになるから、そこだけは気を付けてね」
「うん。その辺りはブランディさんにも聞いたし、大丈夫」
「なら良かった。私は受付か併設してる食堂のあたりにいることが多いから、何かあったらいつでも声を掛けてね」

 それじゃ、と僕や夜空に手を振って、ティアちゃんは部屋から出て行った。
 見た目は清純派っぽいのに、結構勢いも強いし、ぐいぐい来る感じで面白い子だったなぁ……。

「ピー……」

 あっ、夜空が一番可愛いから大丈夫だよ! なんて、微妙に機嫌の悪そうな夜空に弁明しつつ、僕はこれからどうするかを考えることにした。
 まず、持ち物のチェックと……やれることの確認が一番大事かな?

 そこでまずは空間収納に入っているものを全て取り出すことにした。
 イメージで箱を作り出し、ズボッと腕を虚空へ突き出せば、肘から先が不思議空間に飲まれて見えなくなる。うん、やっぱり何回見ても不思議な光景だなぁ……。

 入っていたのは神様から貰ったお金に、小振りながらも鋭い刃がついた剣。それに、なにやら紐で巻かれた紙がひとつ。
 それ以外にはなにも入ってない感じだ。

 僕はその中から紙を手に取って、封を解く。ペラっと音がして開かれたソレには、神様からの助言がつらつらと書いてあった。
 まず魔法についてのこと。生活魔法の使い方や、召喚魔法の細かいところについてが記載されていて、実際に生活魔法を使ってみると、手のひらの上に小さな火を灯すことが出来た。
 呪文はなくてもいいみたいだけど、あった方がイメージしやすいらしく、大体の人は詠唱したり、魔法名を口にして発動することが多いらしい。

 また、召喚魔法は、召喚獣を呼び出している間、ずっと魔力を消費するらしく、あまり出し過ぎていると精神的に疲れが溜まるかもしれないってさ。
 全然そんな感じはしないんだけど、気を付けておこうかな。

 次にお金のことが書いてあったが、これはモーガンさんの説明で大体問題がなかったみたいで、読み飛ばすことに。そしてそのまま読んでいくと、これからの生活について、神様からのアドバイスが書いてあった。

 そこには、お店に雇ってもらい、お金を稼いで街で暮らす方法と、冒険者ギルドに登録し、クエストをこなして生活していく方法が書かれていた。
 安全なのは勿論お店で働くことらしいけど、僕が神様に言った願い――それを叶えるなら、冒険者の方が良いみたいだ。もちろん危険はあるけどね。

「そうなると、冒険者ギルドに登録しないとね」
「ピッ!」

 夜空は、読みながら呟いた僕の肩に乗ると、まるで頷くように小さく鳴いた。
 そんな彼女の頭を撫でつつ、さらに読み進めていけば、一番最後にこんな言葉が書かれていた。

 ――今度の君の生が、より良いものになるよう。私も願っているよ。

 と。
 その言葉に嬉しく思うと同時に、僕の心に罪悪感が訪れる。
 死んで生まれ変わったという事実……それはつまり、あちらの世界でお世話になった人達を置いて……死んでしまったということだ。

「父さん、母さん……ごめんなさい」

 脳裏に浮かぶのは、毎日のようにお見舞いに来てくれた両親の笑顔。汗っかきだから年中汗をかきながらも色んな会社に営業をかける父さん。それに、少し色白だけど実は結構アグレッシブな母さん。二人の笑顔を見れるのが、生まれたときから寝たきりを続けていた僕にとって……凄く嬉しいことだった。

「ごめん……何も返せなくて……」

 歳を重ねる毎に悪化していく病状……それでも二人は絶えず僕の病室に来て、いろんな話をしてくれた。母の目が腫れてるように赤かった日もあった。父の言葉の歯切れが悪いこともあった。
 それでも二人は、ほぼ毎日……僕に笑顔を見せてくれた。

「ピィ……」

 パタパタと、慰めるように夜空がその翼で僕の頭を叩く。
 そんな彼女の鷹特有に厳つい目が、なんだか少し心配してるような色をたたえていて……僕は安心させるように、その頭を優しく撫でた。

「大丈夫。大丈夫だから」
「ピー……」
「あはは……ごめんね。完全に大丈夫ってわけじゃないけど、考えてももうどうにもならないことだから、極力考えないようにするよ。それより夜空、そろそろごはん食べに行こっか! 色々あってお昼も食べてないし、気付いたら日もかなり傾いちゃってるみたいだしさ」
「ピ!」

 バサッと翼を広げて、僕の周りを飛び始めた夜空に、少し苦笑しつつ、出した道具やお金……そして神様からの手紙を空間収納へと仕舞う。
 そしてご飯を楽しみにしてる風な夜空と連れ立って、部屋を出た。



「あー……美味しかった……」
「ピー……」

 ぐったり、という表現が似合いそうなほどに、夜空と二人、ベッドに転がる。
 この世界で初めて食べたご飯は、病院で食べていた料理よりも色んなスパイスが含まれていて、僕の味覚を蹂躙してくれた。

「お肉食べたら、肉汁がじゅわぁって……」
「ピィ……」
「スープもちょっと濃いめの味付けだったけど、ピリッと辛みが舌にはしって美味しかった……」

 思い出すだけで涎が出そうだけど、今はもう要らないかな……。お腹いっぱい過ぎて動く気も起きないわけだし。

「ねぇ夜空。今日はもう寝ちゃおっか」
「ピ!」
「色々あって疲れたし。ね?」
「ピィ」

 同意するように短く鳴いて、夜空がバサリと宙に浮く。
 そんな夜空に腕を差し出せば、止まり木のように腕に脚を乗せ、その翼を畳んだ。

「それじゃ、おやすみ。夜空」
「ピッ!」

 彼女の返事を聞いてから、夜空を送還すれば、腕から重みが一瞬で消える。
 なんというか……魔法って凄いなぁ……。
 そんなことを考えながら、改めてベッドで横になれば、急激に眠気が襲いかかってくる。
 特に抗う理由もなかった僕は、その眠気に導かれるまま、夢の中へと落ちていった。



 暗闇の中、不意に何かの物音が聞こえた気がして、僕は目を覚ました。
 なんだろう……衣擦れっぽい音……?

「あ、起きちゃいました……? リヒト」
「んぅ……誰?」
「ティアです。あ、リヒトは起きなくて大丈夫ですよ」

 そんなことを言いながら、なぜか部屋にいたティアちゃんは僕のベッドへと入ってくる。
 あー……これ、夢かぁ……。
 なんでそんな夢を見ているのかは全く分からないけれど、夢ならまぁ……なるようになるんだろう。

「これからリヒトにするのは、私自慢のマッサージ。私の魔力を注ぎ込んで、気持ち良くスッキリしていただくサービスです」
「なるほどぉ……」
「だから力を抜いて、私のモノを受け入れてね……」

 ススッと僕の肌の上を滑るティアちゃんの指がくすぐったくて、変な声が出そうになる。
 夢なのに、なんだかすごい……触られてる感触がリアル……!
 ティアちゃんの指って、こんなに細くて気持ちいいの……?

「リヒトを一目見たときから、私の……ううん、ボクの魔槍が滾っていたんだ」
「……ん?」
「そう……ボクのグングニルが、君を穿ちたがってるんだ……!」

 胸元から滑っていったティアちゃんの指が、遂に腹を過ぎて腰にまで進む。
 え、これって夢……だよね? 夢で良いんだよね!?

「リヒト。君のココ……に……?」

 ぐにって、ぐにって触られましたね。
 うん、今分かった……。これ、夢じゃない!!

「え、え? リヒト……え? ボクと、同じ……男?」
「うん、僕は男だけど……ってえぇぇぇぇぇ!? てぃ、ティアちゃんって男の子おぉ!?」

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