転生したらロボットの中だった(ただし、出る事はできません)

ファーストなサイコロ

運命という世界線を壊せ 640

「全てを忘れられる瞬間、それは確かに幸せなのかもしれない」

 そういった後、勇者はヌメリアさんを……いや、その奥にいる存在を見据えるような目をしてる。そしてその存在に向けてさらにいうよ。

「でも……いつだって後悔はやってくる。そしてそれを少なくするのも大きくするのも自分の行動次第なんだ。だからこそ、責任が取れない行動はしない。それが自分自身の覚悟だ」

 そう言って勇者とヌメリアさんは少しの間見つめ合う。それを言い切ることが出来る勇者は、やっぱり勇者なんだなって思った。普通はそんなに考えてないから。私はそこまで考えてないし……責任とかからはなるべく逃れたい。でも勇者はその立場にきっと自覚があるんだろう。

 それこそ勇者として生きてきたから、たくさんの物を背負ってたみたいだし、私とは覚悟が違うよね。でもそんなのもう関係ないんだけどね。それでも誰かと関わると助ける側に回っちゃうのが勇者だよね。

「強いんですね。でも誰もが貴方のように強いわけじゃないし、貴方のような強い人にも、癒やしは必要ですよ。頼られるから誰にも頼れないんじゃないんですか? 私が受け止めますよ」

 何を言ってもそっちに持っていこうとするその気概はもう素晴らしいというほかない。流石に勇者をヌメリアさんが誘惑できる……とはもう既に思えないんだけどね。だってヌメリアさん……の人格を乗っ取ってるそれはもう既に全てを切ってる。裸になってるし、いちばん大事な部分も見せてる。

 隠してるところなんてもう無いよ。あとはもう直接触るとか、無理矢理押し込む……とかしかないが、多分だけど今のヌメリアさんは魔法を使えるが、だからって超人になるわけじゃないだろう。

 それに精神系みたいだし、フィジカルで勇者に勝てるとは思えない。つまりはもう詰んでるのだ。その魅力と、そして魔法、その2つでも勇者の理性が破壊できなかった時点で、やつにはもう芽はない。勝利の目ね。なんとか言葉巧みに……と思ってるんだろうけど……それに付き合う気は勇者はない。

「結構ですよ。ただその格好は刺激が強すぎるので、自重してください。今はそんなことをしてる場合じゃないですから」

 そう言って勇者はなにやら魔法を使った。なんかヌメリアさんの体が光に包まれて、裸が見えなくなった。そして動けなくなったのか、体がまっすぐに伸びる。そもそもソファーにいたから、その状態でソファーに横になってるって感じになった。

「あらあら、女性にひどいと思いませんか?」

「貴方はすぐに誘惑するでしょう」

「危機だからこそ、種を残そうしてるんですよ。これは生物の生存本能です。悪意はありません」

 いい笑顔でそういうヌメリアさんの中の人格。でもその生存本能で生まれるやつを考えろよ――と思うよね。そしてそれは勇者も思ったようだ。

「貴方とやったとしても生まれるのは砂獣でしょう」

「それもそうでしたね」

 お茶目を装ってるが、この人の場合は全部確信犯だからね。このサーザインシャインインラが危機とかなんとも思ってないだろう。ただ本当にただ、この人格は性を集めたいだけ。そして砂獣を生み出したいだけだろう。

 これはやっぱりこっち側に立たせるって難しいかな? どうにかしてこの人格そのものをいじれれば……なんかマッドな事を考えてるね私。

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