運命という世界線を壊せ　635

ヌメリアさんと見つめ続ける勇者。いつもなら、こんな見つめ合ってたら既にきっとベロチューとかしまくって口の周りがべっちゃべっちゃになってておかしくない。だってヌメリアさんはその魅力で男を魅了して、性を集めてるんだからね。これだけ見つめ合ってたらそこらの男なら、その欲求に抗えずにきっとそうなる。

ニコっとヌメリアさんは微笑んだ。きっと頬をつかんでるのに動かない勇者に業を煮やしたんだろう。本当ならとっくにベロチューからその行為が始まってておかしくないからね。しょうがないから彼女の方から動き出したみたいだ。けどそこで勇者は頬から手を離して、今度はヌメリアさんの額に置く。すると彼女がピタッと止まった。ちょっと腰を浮かして勇者に近寄ろうとしてたと思うけど、なんかソファーに縫い付けられたように動けないような感じになってる。だってちょっとだけプルプルしてるからね。そうなのかなって……

「お前は何なんだ？」

「私と、おしゃべりしたいの？　それなら体を重ねながらでも出来るわよ？」

　どうやら今のヌメリアさんはどうあってもそういうことをしたいらしい。性を集めるって事がやっぱりこの人格の存在意義なんだろうね。

「その必要はない。自分はただ、話がしたいだけだから」

「そんな訳はないわ。私の事、もっとよく見て」

　そう言って彼女は勇者と目を合わせてる。すると不思議な光がその目に宿ってる用に見えた。魔法か……その目は男を虜にする術式を展開してる。いや、厳密に言うと別に男を虜にする訳じゃないと思う。ただ好意？　を湧き上がらせる様な……そんな感じの魔法が発動してるようにみえるよ。

　まあ私は魔法のことなんてからっきしだからね。そこは全てドローンを通してみてるG-01の情報である。なんか魔法陣とかから、その魔法の術式を解析できるらしい。勿論百パーセント合ってるかと言われると、そうでもないみたいだけど……それでもG-01が解析した結果だからね。完全に外れてるってこともないだろう。

　勇者はそんな魔法を食らってるが、別段普通である。勇者はどうやらヌメリアさんの魔法をレジストしてるみたいだ。まあそうじゃなかったら、今頃勇者はヌメリアさんと絡み合ってるだろうからね。

「あなたは一体？」

　いつまで経っても襲ってこない勇者を訝しんだのか、ヌメリアさんはそういうよ。

「貴方の魔法は自分には効かない」

「あっそ。もしかして男が好みだったり？」

　衝撃的なことをいいだしたな。それには流石に勇者もちょっと反応しそうになってた。けどそんな余計なことは言わないようにぐっと我慢して、勇者は彼女……ヌメリアさんを乗っ取ってるその人格に語りかける。

「もう一度言う。お前は一体誰だ？　どうして彼女に化け物を産ませようとしてる？」

「ふふ、そんなのは簡単。それが私の存在意義だから。私はただ、この体を使ってたくさんの子供達を生む。それだけよ」

「それは教会の命令か」

「ええ。この子は美してく、そして可愛かったからとても都合が良かった。たくさんの子供達を産めたわ」

　そう言って楽しそうに笑う。ヌメリアさんであってヌメリアさんでないその人格はやっぱりだけど教会から生み出された産物らしい。

「教会はその人に砂獣を産ませて、何をしようとしてる？」

「大津波」

「なに？」

「教会は、この世界から旅立とうしてるの。だからそのために育んだ世界を差し出さないと。太陽へと到達して、世界は大津波に飲まれる。そして選ばれた者たちは方舟によって太陽の世界へと導かれるわ」

　なにやらとても重要なことをこいつは喋ってる。それはなんか伝わってきた。どうやらこのサーザインシャインインラを波に飲ませるは前哨戦みたいな？　波で終わらせる気は教会はなくて、それを大津波へとするのが目的らしい。それが一体どんな規模なのか……想像もできないが、そのまま放っておくなんてしちゃ駄目なんだってことは確実だろう。