プロローグ　勇者と魔王の災難　3

「見えてないの貴方たち？　あれが！？」
「何も見えるか！　空に突然穴が空いただけだぞ！！」
「そうだな。魔王の言う通り、その現象以外は何もみえない」

　自分の言葉に魔王と勇者がそう返した。まさか返事が返ってくると思ってなかったからそこにちょっとびっくりした。けど、二人もこれが異常事態だと思ってるらしい。あれ？　なんか二人がこっちに見つめて……あれれ？　二人して頷いて武器をまた構えたぞ？　

　てかやっぱり本当は仲いいでしょあんた等。なんか気が合ってる様にみえる。

「貴様の仕業だな！！」
「世界を壊す、魔王よりも邪悪な存在！！」

　なんか犯人自分にされてるんですけど？　なんでそうなった？　こいつらの思考が理解できない。いや、冷静に考えてみよう。二人はまず、世界最強の二人である。いわゆる光と闇の頂上だ。そこに自分という謎の裏ボスが登場。その裏ボスを相手取ってる時に、いきなり空が割れる。

　二人には空間をぶち破ったあの腕が見えてない。あれが見えれば、どう考えてもあれが空間を壊したと一目瞭然なんだけど、それがみえない二人は自分たちの攻撃が全く通らない私こそがその元凶だと結論付けた。うん、こうやって冷静に二人の目線で考えてみると自分が犯人になるね。なるほど、私が犯人だったのか……

「ってそんな訳ないから！　だからあそこにでっかい手があるんだよ！！　アレがやったの！！」

　自分は二人にそう抗議した。けど二人にはその手はみえてない。
　
「そうやって俺達を謀る気だな！」
「そもそも貴様はなんだ？　何者だ？」

　勇者が剣光を集め、そして魔王が目を光らせて何か言ってきた。一瞬何か頭がクラッとするような感覚があった。

『安心してください。精神干渉は受け付けません』
「そうなんだ……」

　機械音声がそういって何をされたか教えてくれた。多分魔王は自分の精神に作用する様な魔法か何かを使ったんだろう。魔王だし、そのくらい出来てもおかしくない。でも残念、どうやらそういう系の絡め手も効かないらしい。ぶっちゃけ自分、強すぎない？　

　だって正攻法でこの世界最強の二人を圧倒してるわけだよ？　これで絡め手も効かないって詰みじゃん。ゲームならクソゲーだよ。それに自分自身、何者なのかちょっと興味はあった。わけわかんない状況だしね。

「くっ、効かないか」
「魔王、融合魔法だ！！」
「ちっ、貴様などと……」
「こっちだって同じ気持ちだ！！　だがこいつを倒す為にはわかるだろう」
「ふん、貴様に指図されたからではないからな！！」

　魔王はツンデレなのかな？　てかだからそんな事をやってる場合じゃ――

『避けてください！！』

　――その声に自分は咄嗟に反応してた。魔王と勇者を両手で掴み、その場を離れる。二人が暴れてるが、そんなの意に介さない。空間が静かに裂けてそれが空から地上……そして地中にまで広がった。どうやら空間を壊してるからか、空も地上も大地もそこにあるものなんて関係ないようだ。

　という事はあれは防御無視の攻撃って事に……頭おかしい。魔王も勇者もさっきよりも広がった空間の裂けめに気づいて息をのむ。そうそう、これで自分が助けたっわかったでしょ？　

『☆▽◇〇』

　何かが聞こえた気がした。けどそれは音なのか思念波なのか、それとももっと別の何かか……わからない。わからないが……自分たちは感じ取った。今の声は魔王と勇者も気づいたのか二人の視線が避けた空間の向こうにくぎ付けになってる。そしてそれは自分も同じ……

（居る……）

　空間を裂いた空獣というその化け物かそこに……