想像力で空を飛ぶ

ふじゆう

プロローグ

 この町で一番背の高い鉄塔の上が、僕の特等席だ。
眼下に広がる無数の光の中で、同級生達は高校入試の受験勉強に追われていることだろう。
僕は勉強をする必要がなくなった。さて、今日は、どこへ遊びに行こうか? この町は、ほぼほぼ見尽くしたし、いっそ海外にまで行ってみようか。
 僕には、そんな勇気はないのだけれど。
 頭上を見上げれば、なんの隔たりもなく、無数の星々と無限の夜空が広がっている。どこまで行けるのか確かめたくなって、輝く星に手を伸ばしたこともある。しかし、地上から離れ、星に近づけば近づく程、輝く点は逃げて行った。限りなく上空まで飛ぶと、次第に好奇心は恐怖心へと姿を変えて、僕は全速力で帰った。真っすぐ飛んでいたはずなのに、下に降りると見たこともない場所に降り立った。その日は、明け方にようやく自宅に到着し、不眠で登校した。あの日から、無暗に高く飛ぶことをやめたのだ。
 鉄塔の上は風が強い。体感ではなく、音でそう感じるのだ。暑さも寒さも感じない便利な体だ。僕がこの便利な体を手に入れたのは、夏休みに入ってすぐのことであった。どん底の恐怖心と逃亡への渇望がそうさせたのか。とにかく、一人になりたかった。あんなにも孤独を恐れていたはずなのに。
 そして、今、僕は念願の孤独を手に入れたのだ。誰も僕とは、目を合わせようとしない。
 きっかけは、いたってシンプルだ。自宅の二階にある僕の部屋の窓。その窓のカーテンレールにベルトを通して、輪っかを作った。踏み台に乗って、輪っかに頭を通し、台を蹴り出したのだ。不思議と苦しみはなく、意識が抜けていく感覚があった。次第に目尻から涙が零れてきたが、なんの涙なのか理解できなかった。薄目を開けると、目の前にぶら下がった僕の体があった。
「ああ、これが、死ぬってことなのか」
 鉄塔の上から飛び降り、風に乗る。僕は誰よりも自由で。世界の支配者にでもなったかのようだ。誰も僕に逆らえないし、咎めることもできやしない。人間の生活範囲まで高度を下げ、辺りを見渡す。獲物の物色だ。
 さあ、今日は、誰と遊ぼうかな?

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