狐耳の少女は現代では変ですか?

ピタゴラス

幼なじみと陰陽寮長悪鬼化事件


ルナシーたちと出会う前の紅月冬馬の過去回想である。
当時まだ8歳の紅月冬馬は、最年少で十二天将第一位の騰蛇とうだ入りを果たし、陰陽師の世界では、誰もが知る存在となった。
と、同時に誰よりもうらまれ、嫉妬しっとされる存在でもあった。
それから2年後に陰陽寮という陰陽師を育てる機関が各地方ごとに設置され、そこに首席入学、近年稀に見る素晴らしい成績で入学してきた紅月冬馬と次席で入学した紅月家分家の赤橋家の長男赤橋将太あかばししょうた、長女赤橋麻琉あかばしまひるの3人の陰陽寮内では、彼らのうわさでもちきりだった。
「お久、将太と麻琉」
「よ! 冬馬 」「冬馬君も中部地方の陰陽師に入ったんだね。」
「うん、お父さんが、伊勢神宮の大宮司になったからね。」
「さすが、紅月一徹あかつきいってつ神社本庁総長やね。神道政治連盟に圧力かけたんじゃね?」
「それでなったんではないと思うやけどなー 大人の事情って言うやつでお引越しは、秘密扱いやからなー」
「前の大宮司だった小松さんが、邪神にやられて、悪鬼化した事件で、伊勢神宮の本殿が壊れちゃったんでしょ?」
「うん、壊れたところは、国と県から支援金貰って建て直すらしいけど、小松家は、神社本庁の意向もあって、刑事事件として、捜査されるみたいだよ。」


神社本庁とは、伊勢神宮を本宗とし、日本各地の神社を包括する宗教法人である。
「宗教法人としては、民事訴訟と刑事追訴を求めたわけか。」
「なんで、小松家を立件させたいの?」
「まぁ何となくわかるよね? 国民に不安が広がりつつある。小松家を刑事追訴することで、一応、今回の騒動については、解決させたい国と神社本庁の見直しを進めたいおじいちゃんの思惑おもわくがあって、こういう形にしたんだろうね。」
「一番初めに中部地方統括の陰陽寮設置案を推し進めたのもそれだろうし、僕がここに首席入学という形で入ったのもおじいちゃんの考えだね。まぁどっちでもいいけどね。」


北海道・東北地方統括の陰陽寮、関東地方統括の陰陽寮、中部地方統括の陰陽寮、関西地方統括の陰陽寮、中国地方統括の陰陽寮、四国の陰陽寮、沖縄・九州地方統括の陰陽寮 合わせて、7個の陰陽寮が設置され、そこの生徒の多くは、神主や宮司、禰宜ねぎなどの神職を務めている家系や民間陰陽師を伝承している家系を中心に警察官や自衛官なども含めて毎年約4万人程の10歳から25歳までの人が集められ、陰陽術や護符の使い方、おはらいのやり方などの基礎を学ばせ、悪鬼を祓える陰陽師を輩出はいしゅつさせる機関として日本政府の目玉政策として、進めていくが、ある事件が起きてしまうのである。


「うーん ちょっとやばいね。」
「どうしたの? 冬馬君、」
「前田寮長が、悪鬼化する。 」
「え? どういうこと?」
相手を見るだけで相手の過去と未来が見えるのと相手の能力(陰陽術)をコピー出来る神目しんもくは、紅月家のみが使える能力で、永年、この能力は発現しなかったが、冬馬だけ発現し、2歳の時に、この能力が発現したことが分かり、以降、この能力の存在は、紅月家と分家のみの一部にしか知らされず、未来予知能力のことは、神社本庁の幹部と内閣にしか知らされなかったのである。



「もしかして、未来予知?」「うん、前田寮長の未来は、確定してる。 変えられない…」
「変えられない未来っていうこと?」
「うん」
「将太には、言わないと」
「そうだね。でも、麻琉は、将太と共に全員を外へ逃がすんだよ。僕一人で対処出来るから。これは、絶対だから」
「どうして… まさか… 冬馬君以外全滅するの?」
「そういうことだね… それは、変えられる未来だから…ね?」



「分かった。でも、無理はしちゃダメよ…」
「分かってるさね さぁ早く行ってもうすぐ、悪鬼化した前田寮長が来る。」
麻琉は、走り出したと同時に人払いの護符が貼られ、次元が違う空間に閉じ込めた冬馬は、式神を展開した。



「式神 天照大神あまてらすおおみかみ 」
「やぁ 天照大神様 ご機嫌いかがですか?」
「堅苦しい挨拶はいらないわよ」
「案件としては、陰陽寮寮長の前田悟寮長まえださとるりょうちょうが、悪鬼化し始めている。」
「人間が、悪鬼化するのは、まさか 丑の刻参りうしのこくまいりをしたの?」
「多分ね。」
「バカね 丑の刻参りは、確かにのろいをかける儀式ぎしき)だけど、それを行えば邪神を引き寄せ、邪気じゃきにあてられて、悪鬼化することになるのに」


「性格上、あの人はいつかは悪鬼化するだろうとは、思ってたけどね。」
嫉妬深しっとぶかい性格で、僕や麻琉、将太に対しての嫉妬心しっとしんが強くて、当たり強くやってきたけど無視して、文科省にすぐさま、寮長の変更を求めたんだけど、前田悟寮長を推す声も多くて、変えられないと断られたけどね。」
「悪鬼化したら、元の人間には戻れなくなるし、邪気を祓えば、悪鬼化した人間は、地獄に落とされることになるのにそれをわかってるのかしらね」
「人の事よりも、国のことを優先するのも悪くは無いとは思うけどもう少し人の命の重みを知らない閣僚なんてクビだね。」


「もう既にもう一人のおじいちゃんには、伝えてあるのね。」
「杉澤文科大臣と陰陽頭の2人は、クビ 文科省から独立した省庁の設置とそこに宗教法人の神社本庁を合併させて、警察と自衛隊に新しく悪鬼対策本部が設置される法案が提出されて、可決される見通しだからね。さすが、おじいちゃんだよ。」
「で、前田はいつ来るのかしら?」
「もうすぐ来るよ。僕の力に気づいていたみたいだけどこのことは、陰陽頭から聞いていたんだろうね。」
「神や妖怪、死んだ歴史上の人物を具現化させ、式神として携帯けいたいさせる能力 実化じっかをね。」
「なるほど この能力を奪うつもりで丑の刻参りを行っていたのね。」


「まぁ実際には、奪えなかった。何故なら、未来予知によって分かっていたから特殊な護符 守呪しゅじゅの護符を部屋にあらかじめ貼っておいたから効かなかったし、元々、陰陽寮には、悪鬼を入れなくする結界を貼ってあったからそれで呪いの効果も薄れていたからね。」
「邪気にあてられ過ぎたのと人間の嫉妬によって悪鬼化してしまったと、おろか者めが」


「さてさて、ようやくお出ましだよ。」
「確かに、強い邪気ね。どれだけ嫉妬していたのか分かるわね。」
「まぁ一発でりを付けるのもありかとは思ってたけど、少し遊んでみよう。」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 急急如律令」
「身体能力強化、防御力強化、式神超強化、魔弾威力強化の4枚の護符を持って上に投げて、清明紋を空中に描けば、これで準備OKだけど」
「私も大丈夫よ。護符の効果も出て来てるしね。」
「最初は、紅月流陰陽術光竜魔弾こうりゅうまだん


「手に当たるようにしたから」
ギャアーーーーーというおそろしい叫び声と共に独り言のように何かをつぶやいている。イタイ テナクナッチヤッタ デモ サイセイデキル ボクアタマイイ 
「まだ、完全な悪鬼にはなっていないみたいだな」
「あの攻撃を受けたら普通の人があんなのまともに受ければ、即死よね。でも、悪鬼は、あんな攻撃じゃ倒せないわね。」
「悪鬼祓いは、言っちゃえば人殺しと同じ でも、それでもやらねば、たくさんの命を失うことになる。それで後悔するなら悪鬼祓いをし続ける方がもっとマシさ。」
「喋れるのね。人間が悪鬼化したら」
「うん、喋れる。でも、理性は完全に失われてるし、人間を捕食対象としてしか見てないからあんなの外に出すわけには行かないよ。」



「さて、次は、足を撃ち抜いてみようかな」
「赤橋流陰陽術 聖光剣舞せいこうけんぶ
指をパッチンと鳴らすと、光の剣が沢山現れ、悪鬼を取り囲む そしてもう一回指を鳴らすと、光の剣が手足や胴体にさり、動けなくした。
ギャァーーーー ウゴケナイ イタイヨ タスケテ へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ ニンゲン ホショクシタイへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ
くるった人形のように意味不明な言葉をさけびながら、必死に抜け出そうとするも、胴体に刺さった剣が、どんどん奥深くに入り込んで行く。
「もう抜け出せないさ これで終わりだよ。」
「紅月流陰陽術 八咫烏やたがらす


悪鬼化した前田悟寮長よりもはるかに大きい鳥が現れ、食べられる。お腹の中で、邪気がどんどん吸収されてなくなり、最後には、悪鬼化した人間を地獄へと送り出していくこの術式は、天照大神か安倍晴明のどちらかを式神として召喚させないと成立出来ない術式を使ってほうむった紅月冬馬は、人払いの結界を解くと、そのまま寝てしまった。
「そりゃそうか、人払いの空間を維持しつつ、あれだけの呪力を使って 全く仕方の無いやつだな。」
そうして、陰陽寮の騒動は解決され、杉澤文科大臣と安倍東明あべはるあき陰陽頭は、更迭
事実上のクビ  そして、陰陽寮寮長は、新しく設置される陰陽庁と特別地方公務員、特別国家公務員の陰陽官と陰陽博士から選任されることになり、文科省から陰陽頭の役職も陰陽庁に移り、土御門有之つちみかどありゆきが陰陽頭に就任 以降、その官職は、土御門家の世襲制となった。


無事に、終わった陰陽寮寮長悪鬼化事件の反響はすごく、各都道府県に陰陽師協会が設立、全国陰陽師協会連合総会というもの同時に発足し、悪鬼祓いは、各協会に委託され、各陰陽寮の生徒たちと陰陽官、陰陽博士、各都道府県の警察本部生活安全部悪鬼対策室と統合幕僚監部悪鬼対策部の設置が決まり、紅月冬馬は、国民栄誉賞と天皇からは、菊花賞を受勲じゅくんすることになったわけで回想が終わる。







コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品