現代社会にモンスターが湧いた件〜生き残るために強くなります〜

S・R

82話 戦いの後2

「くそっ……!!」

 少女が壁を殴ると、大きな音を立てながら崩れた。
 見た目は可憐な少女ではあるが、その細腕に宿る力は常人を遥かに超えるものだった。

 もはや、運動音痴という短所も改善されつつある。

「荒れてんなぁ……嬢ちゃん」

 音もなく現れたのは、左腕と顔の右半分が欠損してしまった真情。
 さらに、右腕は包帯に巻かれており、使い物にならなくなっている。

 その姿を見ると、生きているだけでも不思議に思えるが、そこら辺は自称天才美少女錬金術師の力によるものだ。

「おじさん……ちょっと機嫌悪いから、ほっといてくれない?」
「ちょっとじゃねぇよな?」

 壁があった場所をチラッと見ながら言った。
 確かに、これはちょっと所ではない。

「お前は自分を責めてんだろうが、そんなことを言ったら俺も同罪だ……なんせ、ソラが攫われたのは俺の力量不足のせいだからな」

 血が滲むほど、拳を強く握りしめながら呟いた。

「うん。その通りだよ」
「お、おう」

 まさかの開き直りに戸惑う真情。
 しかし、これがソフィアだ。

「でも……」

 一番の責任は、僕にある。
 田村さんの頼みなんて聞かなければ、こんなことにはならなかった。
 いや……ソラ君を狙ってたとも言ってたから、いずれ出会うことになっていたかな。

 他の人たちの力は、はなからアテにしていなかった。
 つまり、単純な話、僕が弱かっただけ。

 そして……一人でなんでもできるという傲慢な思い込み。
 その考えが間違えだったのだ。
 たかが人間一人に、何ができるというのだろうか。

 だから、考えを改めなければならない。

「おじさん……強くなれると言ったらどうする?」
「嬢ちゃんが何を考えて言ってんのかわからねぇけどよ……もちろん、答えは決まってんぜ」

 それは意識的にか……それとも無意識か。
 定かではないが、蒼い魔力を滲ませながら強く宣言した。

「俺は強くなりてぇ……いい歳こいて何言ってんだって思われるかもしれねぇが、この考えだけは曲げられねぇ。強くなって、今度こそアイツらをぶちのめす……!!!」
「ふふ……」
「んだよ」

 真情は照れたように視線を逸らした。
 しかし、ソフィアは楽しそうに微笑む。

「強くなる方法ならあるよ……それも飛びっきりの方法がね」
「……言ってみろ」
「死ぬほど辛いけど覚悟はできてる?」
「もちろんだ!」

 色々聞きたいことはあった。
 その並外れた能力や人型ロボットのこと。
 他にも、妙にモンスターや神秘的な事象に詳しかったりなど、ほんとに聞きたいことは沢山あったが、そんなことはどうでも良くなった。

 なぜなら……強くなることの方が重要だからだ。



「ふぅ……」

 能力の確認が一通り終わり、一息ついた。
 そこで、一つ分かったことがある。

 俺がとんでもない化け物になってしまったということが……ね。
 いや、自慢でも比喩でもないから。
 文字通り化け物だ。

「とりあえず……【眷属化】を試してみるか」

 このスキルは、恐らくランサーとかいうやつの能力だろう。
 腕を喰ったときに得たスキルだ。

 この能力は、自分の遥かに弱い格下を問答無用で配下にするというもの。
 使いようによっては、かなり強力な力になる。

「ん〜……いないな」

 しかし、困ったことに洞窟内のモンスターは、どれも圧倒的弱者とは言い難い。
 どいつもこいつも、ステータス3000越えばかり。

 俺よりは弱いが、一般的には雑魚とは言えないだろう。

「ボォォォオオオ!!!」
「うおっと」

 皮膚の剥がれ落ちた芋虫モンスターが襲ってきた。
 しかし、慌てずに躱す。

「危ないなぁ……あと少しで当たるとこだったよ」

 そう一言つぶやく。

「こいつは……眷属にできないな」

 できてもしないけど……だって、キモいし。
 虫は嫌い。

「出てこい」

 【妖刀召喚】で現れたのは、禍々しい魔力のようなものを纏った刀。
 こいつからは、なぜか魔力が発せられず、別の何か不思議な力を感じるのだ。

「纏え」

 漆黒の魔力が刀を覆う。
 そして、横に一閃。
 少しの抵抗も許さず、芋虫モンスターを一刀両断し、そのまま斬撃は後ろへ流れた。

 威力がありすぎるので、外ではおいそれと使うことができないだろう。

「カタッ!?」

 芋虫モンスターの死骸の後ろから、骨同士をぶつけたような音が聞こえてきた。
 音の出処が気になり、近づいていく。

「カタカタカタッ!!カタッ!」
「あ……」

 そこにいたのは、肉一つ付いてない骸骨モンスターだった。
 しかも、粉々に砕かれた骨が逆再生していくかのように、元通りになっていき、何ともなかったかのように立ち上がる。

「カタッ!」
「……ん?」

 怒ってるのだろうか。
 よく分からないが、指を刺されて「カタカタ」言われていた。

「【鑑定】」

 ボソリと呟く。
 未だかつて無いほどの珍生物に出会い、思わず【鑑定】を発動してしまった。

不死乃ふしの 勇美いさみ
レベル0
職業ジョブ
種族:『骨人スケルトン
魔力:1
腕力:1
防御:1
俊敏:1
《固有スキル》
【不死身】
《スキル》

 ふむ……日本人の名前だ。
 そして、ゴブリンキングでも無名だったのに、ただのスケルトンが名前持ちという、これまた別の意味で珍生物だった。

「えっと……勇美さん?」
「カタッ!?カタカタカタ!!」
「うぉっ!?」

 名前を呼んだ瞬間、スケルトンが詰め寄ってきた。
 ここで、失敗に気づく。
 普通に考えて、知らない人間から名前を呼ばれたらキモがられるからだ。
 さらに、相手が女性だったら尚更である。

 ……女性だよな?

「うぅん」
「カタカタ!」

 両肩を握られ、前後に動かされる。
 さすが、ステータスオール1と言ったところなのか、弱すぎて触られてる感覚がない。

「とりあえず……【眷属化】」
「カ、カタッ!?」

 考えるのは後にしよう。
 面倒だと思い、適当に【眷属化】を使った。

 眷属第1号が、ステータスオール1のスケルトンというのには思うところがあるけど、レベルを上げれば済む話だ。
 日本人を眷属にしたことに文句は言うなよ。

「……カタ?」
「よしっ、これからよろしく。勇美さん」

 首を傾げるスケルトンに対し、笑顔で返事をするのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品