現代社会にモンスターが湧いた件〜生き残るために強くなります〜

S・R

77話 不死者の王と配下1

 視認できるほどの禍々しく、濃密な魔力。
 そして、全身を赤黒いローブで纏っている様は、まさしく死神。
 大鎌を持っていそうな風貌である。
 しかし、その手に持っているのは身の丈ほどの大きさの杖だった。

 至る所に目玉が付いており、見るだけで気分が悪くなる杖だ。

『吾輩の名は不死王ノーライフ・キング タンタロスである。貴様らも名乗るが良い。吾輩が許す』

 普段ならイラつくような自己紹介だったが、目の前の存在はゴブリンキングを超える化け物。
 下手なことをすれば殺されるのは目に見えている。

「お、俺は佐藤 空と申します」
「……俺は武田 真情だ」
「ッ!?」

 あの化け物を怒らせないように敬語で挨拶したのだが、そんなのお構いなしに真情は名乗った。
 しかし、大量の汗を流している姿を見ると、相当無理をしているのが分かる。

 ……なぜ、敬語を使わない?

『ふむ。ソラと真情か……人間にしてはやるではないか』

 心の中でほっと息を吐く。
 タメ口でも気にしないようだ。

『我が主の命令で仕方なく人間共を虐殺していたが……なかなかどうして。骨のあるやつがいるではないか』

 つまり、こいつより強い存在が上にいるという事だろう。
 その時、ゾワリと背筋が凍るような感覚に襲われた。

『しかも、貴様は我が主が言っていた【暴食】を継いだ小僧だな。強くなりそうな人間と目的の小僧に会えるとは運がいい』
「目的……ですか?」
『あぁ、そうだ』

 不死王ノーライフ・キング タンタロスと名乗る化け物は、俺の目をジッと見つめながら言う。

『【暴食】の小僧を攫うこと。それが、吾輩に与えられた使命である』

 その言葉を聞いた直後、俺は心臓を貫かれた。

「ごふっ……な、何が……起きた?」

 そう呟き、地面に倒れ込んだ。

『真情と言ったな』

 いつの間にか、タンタロスは真情の間合いへと詰めていた。

「……俺に何か用か?」

 真情は怒りを飲み込みながら、返事をした。
 仲間の心臓を貫かれて、今にも暴れだしそうである。

『喜べ。貴様を吾輩の配下に加えてやろう』
「ふざけんじゃねぇ!そんなのお断りだ!」
『拒否権などあるわけなかろう』

 その刹那、真情は拳を放つが、片手で受け取られてしまう。

 真情の丸太のような拳は、触れれば折れてしまいそうな骨に受け止められてしまったのだ。
 その事実は、思考を一瞬止めてしまうには充分だった。

『死ね。そして、吾輩の軍門に下るのだ』

 タンタロスの手刀は、真情の胸へと一直線に伸びていった。
 しかし、それはとある少女に止められる。

「そんなこと僕がさせないさ!『第一障壁 展開』!」

 ソフィアの魔術により、止められたのだ。
 まさか、自分の攻撃を止められるとは思わなかったのか、タンタロスは驚愕の表情を浮かべた。

 ……骨しか無いから分からないけど、そんな気がする。

「おじさんは下がってて!」
「ぐっ……分かった」

 自分が足手まといという事実に歯噛みし、悔しい思いを背負って戦いに巻き込まれないところまで、ソラを抱えて逃げていった。

「さて……これで邪魔者はいないね」

 ソフィアは、かつてないほどの怒りの形相を浮かべながら、振り返る。
 そして……

「僕の大切な仲間に手を出したんだ……覚悟は出来てるかい?」

 大量のゴーレムを召喚し、戦いを挑むのだった。



〜ソフィアside〜

 高層ビルが建ち並んでいた場所だったが、今では更地へと変わってしまった。
 ソラとダブの戦いが、それほど苛烈だったという事だろう。
 しかし、それを超える戦いが始まろうとしている。

『これは……魔術か?しかし、こんな規模の魔術陣は初めて見た。吾輩の配下にならぬか?』
「お断りさせてもらうよ。僕は仲間たちとのんびり暮らすのが好きなのさ」

 両者ともに口調は穏やかだが、雰囲気は重苦しい。

 巨大な魔術陣から出てきたのは、大量のゴーレムだった。
  一体一体の能力がステータス1000を超えており、様々な兵器が搭載されている。

 さらに、ハウザーとシュナイザーはステータス6000を超えさせることに成功し、レールガンなど様々な兵器を搭載させていた。
 これも、イヴの余った鱗で改造した結果だ。

『ほぅ……物量で攻めるか。では、こちらもそうさせてもらおう』

 タンタロスの足元から、真っ黒な液体が溢れ出した。

『数も質も、こちらが上のようだな』

 現れたのは、強靭な肉体を持ったアンデットたちだった。
 見たところ、ダブと同レベルの化け物が弱い方である。

「さぁ?それはどうかな」

 口端を釣り上げ、ニヤリと笑みを浮かべる。

「『踊る傀儡達ダンシング・パペット』」

 ゴーレムたちを強化し、さらに『爆発』の機能も付与した。
 ゴブリンキング戦で使った魔術である。

「これでゴブじゃないかな?」
『ほざけ』

 その言葉を開始の合図とし、ゴーレムとアンデットは激突した。

「ヴォォオォォォオ!!」

 アンデット化したドラゴンが突進してきた。
 それに対抗するのは、シュナイザー。
 両腕を前に構え、受け止める姿勢をとっていた。

「やっておしまい!シュナイザー!」

 どこぞの悪役令嬢のようなセリフを吐き捨て、甲高い笑い声を上げた。
 そして、主の命令を受け取ったかのように、シュナイザーの目の部分が真っ赤に光る。

「ヴォォオォォォ!!」
『警告です。止まりなさい』

 そんな、シュナイザーの警告も虚しいことに聞き入れられず、ドラゴンゾンビは頭から突っ込んできた。

 ズゥゥン!!

 突進してきたドラゴンゾンビの頭を受け止めると、ここら一帯で大きな音が響き渡った。
 しかし、突進の勢いが止むことはなく、シュナイザーの足で地面を抉りながら押されてしまう。

『Mode:Fighter』

 流暢だった声が、機械音に変化した。
 その瞬間、シュナイザーは両腕に真紅の魔力を纏う。

 そして、脳天に一発。
 拳を放つと、ドラゴンゾンビの体は灰になって消え去った。

「いや、僕の方が優勢そうだね」
『いい気になるのも今のうちだ』
「弱いやつほど、よく吠えるって言うよね」
『それは吾輩のセリフである』

 本格的な戦いが、始まったのだった。

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