現代社会にモンスターが湧いた件〜生き残るために強くなります〜

S・R

68話 避難所 防衛戦4

「……というわけです」

 田村は下を向いて顔を暗くさせていた。
 避難所で起きたことを説明したことで、その時の感情が戻ってきてしまったのかもしれない。
 酷くやつれた顔をしている。

「なるほど……」

 歩く死体……ゾンビみたいなモンスターが大群で襲ってきたのか……首を斬るだけでは動きを止めないようだし、【闇魔法】頼みになるかもな。

「んー……普通はアンデットって、そんな急に増えないはずなんだよね〜。何が原因があるのかも」
「そ、そうなんですか?」

 初めて見る顔に田村は戸惑う。
 頬を仄かに染めている様子に見るに、ソフィアの美貌に見蕩れているのだろう。

 その中身を知ったら幻滅するだろうけど……。

「あ、僕はソフィアって言うんだ。よろしく!」
「ッ!?……は、はい!よろしくお願い致します!」

 あ、田村さん堕ちた……握手した瞬間に、目がハートになった気がする。
 もしかして、田村さんってチョロいのだろうか。

「それで話を戻すけど、アンデットは死体が魔素を吸収することで、稀に変化するモンスターなんだよ。だから、普通は大量発生しないはずなんだ」
「なるほど……それで魔素とは何ですか?」
「魔素っていうのは、モンスターの酸素みたいなものかな。ステータスに表示されてる魔力と同じものだと考えていいよ」

 魔素は何処にでもある不思議な力みたいなものだ。
 それが無いと、ほとんどのモンスターは存在を維持することができない。
 出来るとしたら、あのゴブリンキングと同等か、それ以上の存在でないと不可能である。
 それでも弱体化は免れないだろう。

「魔素というものを吸収し、稀にアンデットというモンスターに変化してしまう……ということですか」
「そうだね〜」

 ん?……ってことは……

「人為的……もしくは偶然の結果、群れになるまで増えてしまったということですね」
「うん。前者の確率が高いと思うよ。偶然にしては違和感があるからね」
「まぁ、避難所をピンポイントに狙ってるみたいだからな。人為的な理由の方がピンとくる」

 しかし、人為的な結果、ゾンビの群れが出来てしまったとすると、この短期間のうちに、それ程の大群を造ることができる力を持った怪物がいるということになる。
 いや、モンスターの可能性もあるな。

 もしかしたら、俺では負けるかもしれない。
 まぁ、ソフィアさんが負けるところは想像できないけど……。

「取り敢えず、この話はやめにしましょう。終わりそうにないですからね」

 そもそも原因すらわかっていないのだから、考えてもしょうがない事だ。

「今の避難所の状態を教えてもらえませんか?」

 ゾンビの群れに襲われたのだ。
 かなりの被害が出ただろう。

「戦闘員の尽力により、幸い死者は出ませんでした。しかし……建物や食料への被害は甚大です。中には負傷者もいるので、かなりキツイ状況にあります」
「まぁ、負傷者はどうにでもなるね。僕が治すよ」
「お、ソフィアさんも来てくれるんだ。珍しいね」

 話だけ聞いて、ゴーレムや兵器の製作に戻るのかと思ってた。

「むぅ!酷いなー!僕だって苦しんでる人を思うくらいの気持ちは持ってるよ!」
「うん。なんかごめん」

 全く心配してるようには見えないけど……付いて来てくれるわけだし、少しはしてるのかもね。

「お、お二人は仲がいいんですね……」

 あ、田村さんが落ち込んだ。

「うん!"おはよう"から"おやすみ"まで、ずっと一緒にいるし、生死を共にした仲だからね!」
「ごふっ!!」
「田村さん!?」

 ソフィアさん、なんて事を!?
 田村さんのライフは、もうゼロよ!

「ん?どうしたの?」

 ソフィアは首を傾げ、顎に人差し指を当てた。

 ……こいつは鈍感な人間じゃないし、わざとやってるな。
 面白がってやがる。

「田村さん、しっかりしてください。まだ話は終わってませんよ。それと、ソフィアさんもふざけないで」
「は、はい……そうですね。申し訳ございません」
「はーい」

 顔をしてに向けている間に何かあったのか、ミイラのようにゲッソリした表情をしている。

 ソフィアさんは、あとで仕置が必要だな。

「話を戻しますが、死人は出ていない。しかし、建築物や食料などの被害は大きい。その認識で間違いないですか?」
「はい。しかも、戦闘員の怪我人が多いせいで、避難所の防衛力は格段に下がってしまいました。今では、一般人にも手伝ってもらっている始末です」
「なるほど……」

 確かに、ネコの手を借りたいほど辛い状況のようだ。
 そりゃあ、俺たちの所へ来るよな。

 一応、俺の戦闘能力は知ってるし、あれから更に強くなった。
 初めて出会ってからと比べたら、比較にならないだろう。

「でも、今のご時世に一般人とか関係なくない?だって、明日死ぬ可能性だってある世界なのに、元自衛隊の人たちに守ってもらうばかりとか可笑しいと思うよ」
「そ、それは……」

 ソフィアの意見に納得してしまったのか、田村は口篭る。
 モンスター溢れる世界では、守ってもらう立場の人間は邪魔でしかないからだ。

「ソフィアさん……それは言い過ぎ」
「んー、間違ったこと言ってないんだけどなぁ」
「田村さんも困ってるでしょ。それに俺達には関係ないことだよ」
「……確かに、その通りだったよ。田村さんもごめんね!」

 そう……冷たい言い方だが、俺達には関係のないことである。
 目の前に困ってる人がいたら、手を差し伸べるくらいの良心はあるが、俺の手に余る状況なら無視する他あるまい。

 助けられない無い手は貸さない。
 無責任な正義感ほど害悪なものは、この世にないからな。

「聞いてみた感じ、俺とソフィアさんなら群れでも対処できそうです。取り敢えず、行ってみましょう」
「!!ありがとうございます!」

 しかし、今回の件は俺達だけで対応できそうだ。
 そう思い、助けに行くことを承諾すると、田村はミイラのような表情を切り替え、顔を明るくさせるのだった。

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