現代社会にモンスターが湧いた件〜生き残るために強くなります〜

S・R

67話 避難所 防衛戦3

「……」

 真情は口を開かず、ジェスチャーで指示を出していた。
 声でモンスターが寄ってくるかもしれないからだ。

 現在いる場所は、とある一軒家の2階。
 階段を上った先にあった部屋の前だ。
 私と隊長が扉を挟んで警戒をし、三馬鹿トリオは近くで待機している。
 奇襲に備えるためだ。

 真情が頷いて合図をすると、扉をゆっくりと開いて中を確認する。
 当たり前だが電気は点いておらず、あるのは散漫した資料やパソコン、そして倒れた本棚などだ。
 見た感じ、仕事部屋だったことが分かる。

「ここも何も無いですね」
「この家が一番金持ちっぽかったから、何かあると思ったんだけどなぁ……宛が外れたか」

 一つ一つ家を探索していたら時間がかかりすぎるので、豪華な家に絞った。
 しかし、ここも何も無かったようだ。

「他の部屋にも食べ物や衣服はありませんでしたからね」
「あぁ……恐らく、急いで避難したんだろうな」

 奥の部屋から探してみたものの、衣服や食料はおろか金目になるものすらなかった。
 この家の主は、余程の金好きだったのだろう。

「せめて、子供の衣類だけでもあれば良かったのですが」
「仕方ねぇよ。こういう時もあるさ」

 そう言ってはいるが、真情も苦い表情を浮かべている。
 大人の服はそれなりにあるが、子供の服は数が少ない。
 避難所の近くに、デーパートなどが無いから見つけることが困難なのだ。

 それに、この人数では持って行ける数に限りがある。
 見つけても持って帰れるのは数枚程度だろう。

「ッ!?……血なまぐせぇな。近くにいるぜ」
「私の【気配察知】に反応はありませんよ?」
「いいから警戒しろ」

 隊長が、そんなことを言うとは珍しい。
 一応、この人の言う通り警戒しておきましょう。
 隊長の勘は、よく当たりますからね。

 ガタンッ!

 下の階から大きな物音が聞こえた。

「ッ!……急いで降りるぞ!」
「はい!」

 真情が先行して出ていくのを着いていった。

 隊長の俊敏は、私の4倍以上ある。
 確か、600以上はあったはずだ。
 駆け付けるなら、隊長からの方がいいだろう。

「なっ……なんですかアレは」

 震えた声で何とか言った。

「分からん……だが……見てて良い気分にはならねぇな」

 下に降りると、そこに居たのは皮膚が剥がれ落ち、眼球が片方垂れ下がっているゾンビのような容姿をしたモンスターだった。

「ヴォ"ォ"ォ"」

 聞いていて不快になる鳴き声を上げ、動きは遅いが確実に近づいてきている。

「な、なんすかソイツ!?」
「遅せぇぞ。一郎」

 ゾンビの鳴き声を聞いてやって来たのか、一郎は開口一番にそんなことを言った。
 見た瞬間、かなり不快な表情を浮かべていた。
 二郎や三郎も同様だ。

「あれは食えないお」
「近づくな!屍人め……拙者の愛刀が汚れるでござる」

 ……貴様らは、あとでしばく。
 必ずな。

「てめぇらは下がってろ……俺が殺る」

 真情は目を鋭くさせ、殺気を滲ませる。
 そして、背中にかけている大剣を手に取った。

「オォォッ!!」

 真情は身体能力の高さに任せ、ゾンビの脳天から大剣を振り下ろした。
 その余波で、床には大きな穴が空き、ゾンビは肉片になってしまった。

「隊長……まずは二郎に鑑定してもらうのが先でしょう」
「お?すまねぇ!忘れてた!がははは!」

 その猪突猛進な性格を直して欲しいです。

「ん?心配なくても鑑定しといたお」
「なに!?本当か!」

 たまには気が利くじゃないか。
 見直したぞ。

「じゃあ、あとで肉を食いたいお。頼んだお」
「う、うむ。任せてくれ」

 ……まぁ、今回くらいはいいだろう。
 我慢ばかりさせて、やる気を削がれたら困るからな。

「じゃあ、鑑定結果を教えてくれ」
「分かったお」

 二郎の職業ジョブは『鑑定士』。
 その職業には、固有スキル【超鑑定】という便利な能力が備わっており、どんな相手だろうと完璧にステータスを覗けるというものだ。

「さっきのゾンビは食用じゃないお」
「そんなことを聞いてるんじゃない!」
「……冗談だお」

 二郎は冗談が分からない馬鹿を見るような目を向け、呆れた表情をした。

 こいつはシバくだけじゃ足りないな……腹の肉を削ごう。

「俊敏は30程度だから、大したことなかったお」
「確かに低いっすね。自分や二郎よりも遅いっすよ」

 非戦闘職や『魔法使い』よりも遅いのは、こちらにとって都合がいい。

「でも、魔力と腕力と防御は高かったお。どれも300越えだったお」
「ッ!?……それは厄介だな。私では捕まったら終わりだ」
「がははは!俺の半分しかねぇじゃんか」
「隊長は色々とおかしいんですよ」

 魔力以外のステータスが600越えであり、防御に至っては700以上だ。
 佐藤さんはどれだけ高いのか知らないが、そこまでの差は無いはずだ。

「拙者も苦戦はしないでござる。そこまでステータスに差がないでござるからな。俊敏は拙者が圧倒しているでござる」

 そう、三郎も強い。
 私よりもな。

 こいつの職業ジョブは『侍』というものであり、ステータスの上がり幅は、隊長に引けを取らないほどなのだ。
 このメンバーの次に強いのは、間違いなく三郎だろう。
 馬鹿ではあるが……。

「まぁ、群れで来なければ苦戦はしねぇだろうな。俺らのレベル上げ相手には丁度いい。てめぇら!気合い入れろよ!」

 そこそこ強い相手を見つけ、テンションが上がっているのか、嬉しそうな顔をしている。
 しかし、他の奴らは低い。

「え〜……自分は帰りたいんすけど」
「僕は幼女を眺めながらポテチを食べたいお」
「拙者は修行をしたいでござる。レベル上げは後にしたい」

 普通、上司の命令を聞くのが当たり前なのだが、こいつらには目上を敬うという気持ちが全く無く、命令を黙って聞いたことがない。

 よく、自衛隊員になれたものだ。
 どうやって、面接試験を通ったのか知りたい。

「がははは!遠慮するな!行くぞ!」

 部下の不満など意に介さない精神力……さすが隊長だ。
 その鋼のメンタルには素直に憧れる。

「む?……通信か」

 これからレベル上げに向かおうとしたところで、無線機から声が聞こえてきた。

『ザザ……たっ……ザザ……隊長ッ!……ザッ……聞こえ……ザザザ……ますか!?』
「おうおう。聞こえるぜ。なんか電波が悪ぃな。聞こえにくいぞ」
『あ……ザッ……良かったです……』

 声だけでは誰かわからないが、こちらと繋がったのを確認した直後、安堵したような声を出していた。

「……何があった」

 その声を聞いて、何かあったのか察し、真情は真剣な表情をしながら返答した。

『避難所が無数の動く死体に襲われています!こちらだけでは対応できません!』
「なに!?襲われているだと!被害は!?」
『今は何とか食い止められています……しかし、長くは持ちません』
「分かった……今すぐ戻る!」

 通信を切ると、真情は切羽詰まった表情で言う。

「行くぞ。モンスター共を倒しに……!」

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