現代社会にモンスターが湧いた件〜生き残るために強くなります〜

S・R

49話 ソラさんブチギレる

 レッドオーガを倒したあと、ソフィアと共に目的の物を取りに向かった。
 何を取りに行くのか何度か聞いたのだが、毎回はぐらかされてしまい、聞き出すことが出来なかった。
 ソフィアの事だから俺やイヴに迷惑のかかるものでは無いと思っている.......多分。

 モンスターに見つかることなど気にせずに歩いていると、数分おきに普通のオーガと遭遇してしまった。
 今さらオーガ程度に手こずるようなことは無いが、格下相手でも油断をしていると足を掬われるという事はモンスターから嫌というほど学んだ。

 結果、道中で出会ったオーガ達は一瞬のうちに斬り伏せ、俺とソフィアの経験値にした。
 一つだけレベルを上げることが出来たが、既にレベルが『36』まで上がったからなのか、討伐するだけではレベルが全く上がらなくなってしまった。
 格下相手から得られる経験値が格段に少なくなるからだ。

 ここら辺のオーガ達のステータスは平均で『400』程度だった。
 けっこう奥まで潜ったからなのか、それなりのステータスを持っている。

 まぁ、俺は全ステータスが『600』を超えているから3匹くらいまでなら軽く捻り潰せる。
 しかし奥の方には俺よりも強いオーガ共が沢山いるようだ。
 奥に行けば行くほどオーガが少しずつ強力になるという事だろう。

「俺よりも弱いモンスターでも【吸血】を使って血を吸えば更に経験値を得られるから、今まで以上にレベル上げが捗りそうだな」
「やーい!チート野郎め!」
「はぁ?お前も十分チートだろうが」

 楽してレベル上げ出来る事を妬んでいるのか、それとも単純に面白がっているのかは分からないが、人の悪い笑みを浮かべながら挑発してくる。
 恐らく、後者であると思う。

 そもそも問答無用で敵を分解するような危ないヤツに言われたくないわ!
 そんな事を考えたが口には出さず、頭の中で叫んだ。

 ソフィアは完全に気が緩み切ってしまい、子供のようにはしゃいでいるが、俺にはこんな所で気を緩められるほど肝っ玉は大きくない。

「ふぅ。ソラ君をイジるのはここまでにしてっと.......やっと着いたよ」
「.......なんか思ってたのと違うな」

 ソフィアの探し物は倉庫のような所にあると言っていたからシャッターなどで閉められていると思っていたのだが、俺の目の前には汚れ一つない真っ白で巨大な扉.......いや、これは壁と言った方が良いだろう。

 上や左右に視線を向けて扉らしいところを探してみたのだが、どこをどう見ても完全に壁にしか見えない。
 あるのは俺の腹くらいの位置に顔がまるまる入りそうなくらいの窪みくらいだ。

「それじゃ開けるね」

 ソフィアは軽い足取りで壁にある窪みへと近づき、その中に頭を突っ込んだ。
 顔認証で開けるのか、窪みの中から青い光が見える。

 数秒後、青い光は消えた。

「よし!今から開くよ!.......あれ?」

 ソフィアは今から扉が開くことを報告したが、いつまで経っても窪みから頭を抜かない。
 それを俺は何かあったんだろうかと少し心配しながら見ていた。

「え.......え!?なんか頭が抜けないんだけど助けて!」

 何かあったのか、両手を使って頭を抜こうとしているが、一向に抜ける様子が無い。

「お、おい!大丈夫か!?」

 俺は慌てて駆けつけ、ソフィアの肩を掴んで思いっ切り引っ張った。

「.......ん?」

 いつもの巫山戯た感じではなく、本気で慌てている様子だったので、俺も急いで抜きに行ったのだが、思ったよりもあっさりと頭が抜けた。

「ふぅ。この中ってすっごく暑いから助かったよぉ.......まぁ、抜けないっていうのは嘘だけどね!てへっ」
「あ"ぁ?」

 俺は本気でソフィアを心配した.......それなのに.......頭が抜けた瞬間に「てへっ」と言いながら挑発される俺には本気でキレていい権利がある筈だ。

「いやぁ、ソラ君ってば最近は疲れた顔してるから、これで元気になれば良いなと思ってね!」

 どうやら俺の心配してやってくれたようだ。

「そうだったのか.......ありがとうな」

 と言って、軽く頭を下げる。
 それを見たソフィアは、良いことをした!という風な顔をして胸を張っていた。

「.......なんて言うと思ってたか?」

 あんな小学生じみた言い訳に俺は騙されない。
 こいつ.......完全に俺で遊んでやがる。

 ソフィアは今にも吹き出しそうなほど頬を膨らまして、懸命に笑いを堪えているのだ。
 しかも後ろからも「プッ!」という我慢できずに吹き出したような音が聞こえてきた。

 俺は勘違いしたことへの恥ずかしさと、ソフィアへの怒りで顔を真っ赤にして、プルプル震えながら握り拳を作った。

「絶対にイヴにはレッドオーガの頭蓋は渡さねぇ」

 そう言った瞬間、なんの前触れもなく今いる通路に強風がやってきた。

「ちょっと待ったぁぁぁ!ソラ君よ。早まるでない!」

 物陰に隠れていたイヴは焦った表情をしながら、やって来た。
 今の強風はイヴが走った余波だったようだ。

「.......なに?」
「えっと、そのだな.......あ、あれだ!先にソラが我の悪口を言ったから今のでおあいこだ!」

 完璧な言い訳を見つけたと言いたげな目で堂々と言い放ち、腰に手を当てながらドヤ顔した。
 見た目もそうだが頭の中も小学生だったらしい。

 精神年齢が小学生な奴が2人いると大変だ。

「はぁ.......まぁ確かにそうだったな」

 俺がイヴに化け物と言ったのが始まりだったし、今のは聞かなかったことにしてやるか。

「でも.......ソフィアさんには怒っても良いよな?」

 俺は指をポキポキ鳴らして満面の笑みでソフィアに近づいた。
 最近、色々と溜まってたもんだから発散するなら今だ。

「ふふふ.......安心しろ。俺は真の平等主義者だから誰が相手だろうと一切の手加減もしないぜ」
「逆に安心できないんだけど!?」

 その後、オーガですら逃げ出してしまうの程の叫び声が廊下に響き渡ったのだった。

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