現代社会にモンスターが湧いた件〜生き残るために強くなります〜

S・R

26話 3日目の朝

 雲ひとつ無い大空が広がり外に生い茂る木々から小鳥たちの綺麗な歌声が響く中、ソラは暖かい布団に包まれながら気持ちの良い朝を迎えていた.......

「うわぁぁぁ!お前は手加減て言葉を知らねぇのか!?まじで死んじまうよ!」
「ワッハッハー!もちろん知っているぞ!我はソラのためにギリギリで死なぬ程度に手加減しているのだ!だから安心しろ!」
「安心できるかぁぁぁ!」

 .......わけも無く、ぐっすりと眠っている時、イヴに叩き起されたのだ。
 寝起きで昨日の疲れも残っていたから、もう少し休ませて欲しかったのだが、イヴ直々に相手をしてくれるそうだったので、俺は気合を入れて準備運動をして挑んだ。
 しかし、それが間違いだった.......これは修行ではない.......ただひたすら俺がボコボコに殴られ、サンドバックになっただけだったのだ。
 これだけど聞くと、イヴの華奢な可愛い手にポカポカと叩かれる微笑ましい姿を想像する人もいるかもしれないが、よく考えてくれ。

 イヴは現在、人の姿をとっており見た目は凄く可愛らしいが、中身は普通の少女のソレではない。
 見た目は可憐な少女でも、その正体は『邪龍』という最凶の力を持った化け物なのだ。
 そんな化け物が人の姿になろうが、その細腕から放たれる拳には尋常ではない威力が秘められている。

 イヴが軽く拳を放てば風圧で抵抗も出来ず吹き飛び、大地を踏みしめる度に地面に亀裂が走っていた。
 そんな化け物から攻撃を放たれれば、『魔人』に進化したとはいえタダでは済むまい.......いや、既に服が破けて至る所に大怪我を負っているのだが、そんな事はお構い無しに容赦なく攻撃してくる。

 未だに生きているのは『魔人』に進化したお陰かもな。
 怪我を負っても"骨折程度"なら少しの時間で治る。

「ワッハッハー!この修行の目的は圧倒的強者からの攻撃を躱して受け流す事なのだ!これを乗り越えれば更に強くなれるぞ!」
「こんな攻撃、受け流せるわけねぇだろ!」

 イヴは小さくて柔らかい唇を開いて、可愛らしい声で話しているが、一発一発の攻撃が俺を即死させる程の威力が込められているので全く笑えない。
 てか、受け流そうとしても威力が高すぎて腕が吹き飛ぶわ!ギリギリ目で追える程度に"速度だけは"抑えられているとはいえ、一瞬でも気を抜いたら死ぬ。

「逃げているだけでは意味が無いぞ!ほれ、真正面から向かって来るのだ!」
「アホかぁぁぁぁ!!死ぬって言ってんだろぉぉぉ!!」

 そんな悲痛の叫びもイヴの耳には届かず、ただ「ワッハッハッ!」と高笑いを上げながら無慈悲に拳を放ってくる。
 こいつ見た目は少女だけど、長年生きしてるみたいだし、耳が遠くなってんじゃねぇの?

「安心するが良い!死んでも蘇生させてやる!」
「俺が死ぬのは確定事項かよぉぉ!!」

 少し触れるだけで即死するほど威力がある攻撃が豪雨のように降ってくるが、最初よりも大分、慣れてきたので返事が出来る余裕はある。
 それを感じ取ったのか、イヴから放たれる攻撃の激しさが増した。

「返事が出来るほどの余裕があるみたいだな!もっと早くするぞ!ワッハッハ!」

 イヴは何がそんなに楽しいのか先程から、ずっと笑い声を上げて嬉しそうに攻撃を放ってくる。

「くそっ.......このままじゃマジで死んじまう。コイツどんなステータスしてんだよ」

 そして、ソラは興味本意で【鑑定】を使ってステータスを覗いた。
 もちろん、能力に差があり過ぎるので見れるとは思っていないが、何か少しでも見れればと思たのだ。
 しかし、それは悪手だった。

「ッ!?目がぁぁっ!」

 何故か理由は分からないが、イヴに【鑑定】を使った瞬間、両目が焼かれるように熱くなり、内側から爆竹が破裂したような激しい痛みが生じた。

「ソ、ソラ!?」

 突然、発狂し出したソラに驚き、イヴは攻撃をやめて慌てて近付いてきた。

「まさか我を鑑定したのか.......」

 イヴは自分の額に手を当てて、ため息をついた。
 その姿を見るのを最後に、俺の意識はブラックアウトしたのだった。



 ソラが気絶してから約10分後

「ふぁぁぁ.......」

 俺は大きく欠伸をし、頭から柔らかい感触を感じながら目覚めた。

「おぉ、やっと起きたか。寝坊助」

 イヴは呆れたような視線を俺に向けてきた。
 はて?何か呆れられるような事をしただろうか。
 そして、何かに気づいたのかガバッ!と起き上がって大声を出した。

「.......あ!そういえばイヴを鑑定したら目が痛くなったんだった!その後は.......この状況から察するに気絶でもしたのか?はぁ……最近よく気絶する気がするんだけど気のせいじゃないよな」
「ため息を吐きたくなるのは、こっちだぞ。遥かに強い相手に【鑑定】を使用しても意味が無いと言ったではないか」
「まぁ、そうなんだけどさ.......やっぱ実際にやってみた方が意味が無いって実感できるし、少しでもイヴの強さを正確に体感できればと思ったんだよ」

 俺なりに考えがあっての行動と分かって、イヴは「そうか」と短く返事して黙った。
 コイツいつも黙ってれば滅茶苦茶可愛いのに.......と心の中で呟きながら、俺はイヴの顔を見つめていた。

「ん?我を見つめてどうした?やはり惚れたか?」

 人をおちょくったような笑みを浮かべながら、イヴは「ワッハッハ!」と大声で笑っている。
 そして、そっぽを向いて、つい照れ隠しで言ってしまった。

「お前みたいな幼女ババアに見蕩れるわけねぇだろ。アホか」

 こんな失礼なことを言って、イヴが黙っているはずない。
 俺は「しまった!」と心の中で叫び、顔を真っ青にさせる。
 そしてギギギと油を差していない機械のように、クビをゆっくりと動かしながらイヴの顔を覗く。

「.......誰が幼女ババアだぁぁぁ!!」

 という叫びを聞きながら、イヴの拳によって吹き飛んだのだった。

 あ、因みにスキル【回避】のレベルが、めちゃくちゃ上がりました。




パーティーメンバー

・佐藤 空

・イヴィル

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