魔王ノ聖剣

東雲一

九之剣 「妖精」

エレムに導かれ、ソラは、大木の中を歩いていく。枝葉の隙間から、光が漏れ、影と光のグラデーションが幻想的な雰囲気を醸し出しています。石や木にはコケがついている。太古の昔から存在する、森の年季の入りようがしみじみと感じられます。
ソラは、歩くのがつらそうだ。周りの木にもたれかかりながら、なんとか歩いています。やはり、三年のブランクは、体に堪えるのか。
それにもかかわらず、エレムは、歩く速度を下げることなく、一時間以上、歩かせている。老婆エレム、遠慮がありません。

この婆さん、意外と速い。それに、まだ歩くのかよ。
うん、あれは、洞窟。あそこが、目的地に違いない。長かったぜ。

「魔王を倒すと言っていたわりには、つらそうな顔をしているな」

「顔芸だよ。顔芸。ほら、元に戻った。まだまだ、余裕で動ける」

「それは良かった。まだまだ、目的地までは遠いからな」

まじか......。俺史上最大の苦行だ、これは。

「どこまで行くんだよ。婆さん」

「目の前の洞窟から、地下にある妖精の村まで行く。ちなみに、地下までは、リフトがあるから、歩かなくてもいいぞ」

歩かなくていいのか。助かった。

「もしや、喜んでおるのか?」

「うん......」

「なんだ、素直じゃな」

ソラたちは、洞窟中に入る。洞窟の中は、壁に青く光る結晶が張り付いており、外の光が届かなくなっても、明るい。

「これがリフトじゃ。これにのって地下の妖精の村まで行く」

エレムが指差した方向には、木材でできたリフトがあります。二人がリフトにのると、扉が自動的にしまり動き始めた。
かなり、古くから利用されているため、下に降りていくたびに、木が軋むような音が鳴り響いています。不安そうにリフトを見つめるソラ。いつ落ちるか、分からない恐怖がここにある。

村だ。地下の空間に村がある。それに、妖精たちが飛んでる。綺麗だな。

ソラは、リフトから地下に広がる妖精たちの村を見ています。村には、立方体の石でできた建物が規則的に立ち並び、地下なだけあって全体的に薄暗い印象だ。
ですが、村の上を舞う妖精たちは光輝いているため、明かりは不要なのか灯りのようなものは見あたりません。
妖精たちの飛び交う様子は、まるでホタルです。夜中、川の近くに行くと、何匹かホタルが飛んでいると思って期待して行ったら、一匹しかいなかった時のことが思い出されます。
リフトは、止まり、二人とも村に到着。エレムは、休むことなく、村の中を歩き始める。ソラは、エレムのあとを無言でついて行く。妖精たちは、二人の存在に気づき、二人の方に近づいてきました。
ですが、エレムの対応は冷たい。蚊を振り払うように、手で、妖精たちを振り払います。妖精たちも、思わぬ冷遇に顔をあからさまに歪めています。
妖精たちは二人に冷たい目線を向ける。ソラは、何もしていないですが、妖精たちに同じ視線で見られている。飛んだとばっちりを受けたぞ、ソラ!!

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