この世界で魔法が生まれた日

東雲一

「天秤」

 昨日、起こった奇妙な出来事は、もしかしたら、夢だったのではないかと思えてくる。


 だけど、スマホには、MRSとかかれたアプリのアイコンが表示されており、現実であることを思い知らされる。


 あれから、特に変わったこともなく、今日も、普段通り、学校に来て授業を受けていた。なんの変哲もない平凡な生活の延長だ。 


 日々の生活のなかで、ファンタジー小説のように突然、魔物が出てきて、人々を襲うことはない。ただ、人は、魔物よりたちが悪い存在かもしれない。


 魔物は、生きるために、人々を襲っている。人々の命を食べることで、自らの命を繋いでいるのだ。


 人は、自らの欲望を満たすために、他人を攻撃する。社会という抑圧された環境下では、暴力ではなく、見えない言葉とい凶器を使って、心をえぐることもある。


 つまり、目視できない分、事前に防ぐ対策や、再発防止策をたてることが難しいともいえる。


 抑圧された環境では、さらに不満がつもりがちだから、欲望は、肥大化しやすいのかもしれない。


 何より、厄介なのが、人々の欲望には、果てがないことだ。止めない限り、どこまでも欲望は肥大化していくだろう。


 もしかしたら、いつか肥大化した欲望を支えられなくなって、人は人自ら滅びの道を歩むのかもしれない。


 僕は、そんな重苦しいことを考えながら、グラウンドでドッジボールをして遊んでいる同級生たちの様子を教室の窓から見ていた。


 僕は、学校の小さな教室の中、何を考えているんだろうか。


 こういうことばっかり考えているから、なんか冴えないんだろうな。僕って。クラスの人気者には、一生、なれないんだと思う。


 まあ、強いてはなりたいとは思わないけれど、時々、人々の頼りにされるような人を羨ましく思うことがある。


 不思議なものだ。結局は、なりたいのかもしれないな。勇者のような人々に頼られるような存在に。


 きっと、僕にとって、とても遠い存在だから、その距離を感じたくなくて、なりたいと思いたくないだけかもしれない。


 僕は席から立って、気分転換にトイレに行くことにした。教室を出ようとした時、タニシと目が合い、話しかけられた。


「よお!どっか、行くのか」


「ちょっと、トイレに行ってくる」


「そうか、お疲れ!」


「お疲れってなんだよ!?トイレに行くだけだぞ。まあ、いいや、じゃあな」


 僕は、右手を上げ、教室を出る。


「おう」


 後ろから、いつもと変わらないタニシの声が聞こえた。



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