ガンズ・バイ・デイズ―高校生サバゲーマーの魔法世界奮闘記―

ファング・クラウド

BRIEFING:26 フューリ・ティルノスとオマケ1の冒険譚その4

「フューリ、任務はどうだ」


・・・・マルクト宰相だ、私を目の仇にする男。
そっと髪留めを外し、髪を下ろして答える。


「はい、宰相殿、無事討伐致しました」
「っほーう!!よく生きている物だ!流石ですぞフューリ王女」
「・・・・・ありがとうございます」


わざとらしい感嘆の声、この男の目的は解っている、私を殺して自分が王になりたいのだろう。
だから意地でも私は生きる。


「んー?近くにもう一人、魔力反応があるようですが」
「・・・・今回、彼に助けてもらった」
「彼?」
「・・・・”赫獣”ジャバヴォック、アマギ・クウガ」
「異世界人、と、言われてる彼ですか、で、その力は」
「・・・驚嘆に値する、彼の技術も、知恵も」


どうせ嘘をついてもしょうがない、この男はそういう男だ。
今、彼に逆らうことは私にはどうやったってできないのだ。


「ならば、いいでしょう、しばらく討伐任務は終わりにしましょう」
「・・・・どういうこと」
「別の任務をお願いしたいのですよ、フューリ王女」
「・・・・・」


下卑た笑いを浮かべ


「その異世界人を篭絡してしまいなさい、王女殿下」
「・・・————なっ・・・・」


余りに想定外の答えが来た。
肌身を汚して、下ろす気なのか。


「異世界人の知識に技術があれば、必ずや我が国の利となり、強固な力となるでしょう。
そうすればあなたが女王となるのを嫌がる派閥も黙りましょう」


その筆頭が、そう声をかけてくる。
恐らく、今度の龍種でも殺せなかったのでそれ以上の魔物の用意は出来ないとみてそんな事を言い出したのだ。
肌身を汚して彼がなびかなければ、純潔を維持できず男に学園でうつつを抜かした、等といって下ろす気だろう。
今まで男として振る舞ってきた私には不利だし、目立った動きもできない。
だが、私に他の道はない、承知するしか、ないのだ。


「解りました・・・・必ずや彼を射止めましょう」
「ふふふ、それで良いですよ・・・くれぐれも、頑張って下さいね、王女様」


魔導球による通信が終わり、彼の背中に寄りかかる。
確かに、私は彼を人間として好いている。
咄嗟の勇気や、機転、龍を前にして全く怖気ない自然体な姿でありつつ、彼の世界の知識はまるで御伽噺の用だった。
間違いなく、私は彼を好いている。
だからと言って、篭絡など、出来るのだろうか・・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


彼女を背負って歩いてしばらくたつ。
クロムもすっかり黙り、背中ではまだ話し合いをしているのだろうか。


「クウガ、近場の町までお願い」


終わったのか、そっと抱きしめてくる。
あ、あの気付かない程だったけど、こうするといい匂いするし、スッゴイドキドキするんですが!


「お、お、おう!」


言われたまま、歩みを始める。


「・・・・貴方には秘密は教えてあげる。だから、内緒」
「ま、まあ、いいよ、別に話す必要もないし、率先して話すつもりもないし・・・」
「ん・・・・ならば、許してあげる・・・・」
「ほっ・・・・」


そのまま、強く抱き着いてくる。
あ、いま柔らかい感触が・・・・・・あかーん!!


「・・・・ごめんなさい、あなたの武器を壊してしまった」
「え、あ、え、い、いやあ!良いんだよ!生き残ったんならノーカンノーカン。物はいつか壊れるし、砕けた部分はあるけど大部分は残ってるから」
「・・・・優しいのね」
「そ、そんなことねえよ・・・」


耳元で、彼女が囁く。
彼女の下ろした長く、奇麗な髪がそっと俺の頬を擽る。


「ねえ、今度、あなたの部屋に行ってもいいかしら」
「はひ!?」
「・・・・また、話を聞きたい」
「あ、ああー、そ、そう言う事ね!」


やめてくれ。マジで。
心臓に悪い。


「あ、ああ、いいよ、うん、いいよ・・・・」
「うれしい・・・・」


あのののの!?
妙な色気があってそういうのを囁くのは止めていただけませんでしょうか!?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これでいいのだろうか・・・・。
私には色気で惑わす、なんてできないと思う・・・。
だって、私は、マリア・アーティフィシャルの様に美しくも、リズリット・ドロテオのように明るさもない。
アウラ・ヒューケヴァーネィのような愛らしさも、カレン・アルファノーツのような天賦の歌声があるわけでもない。
スタイルがいいわけでもない。


私にあるのは、トライノーツの魔法の才だけ。
考えれば考えるほど、気分は沈む。
第一、この男は、もしかしなくても、マリア・アーティフィシャルに惚れているのではないだろうか。
だからこそ、婚約を破りに乗り込んだとも考えられる。
そもそも、異世界人と聞いている。
つまり、元の世界に許嫁がいるのかもしれない。
なのに他の女に靡くのだろうか。
見た目は・・・まあ、悪くない。
その上で、彼が学生だという。
あれだけの学生なら、後々は素晴らしい士官になるだろう。
少し、部下や動けないモノに対して全力すぎるきらいがあるが、美徳といっていいだろう。


「・・・・ふふ・・・・」


・・・・なぜ、私は今、笑んだんだろう。
彼の温かさが折れた腕にも染み入るようだ。
この温もりが、暖かいからだ。
だから、笑んでしまっただけだ。
そうに違いない。
そうだと、思う。
そう、私は自分に言い聞かせた。
私を背負う、赤髪を見ながら、彼の髪の匂いに埋まりながら、そっと、意識を手放した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・・」
「ふあーあ、あれ、寝ているんだネ?」
「あ、そうだったのか?道理で静かな訳だ・・・・つか、お前も寝てたろ」
「クウガは」
「ん?」
「クウガは、誰が好きなのかイ?」
「は?」
「クウガは一杯の雌に囲まれてるみたいだネ」
「は、はあ?」
「フューリが色々考えてたヨ?」
「あのなあクロム、人の心覗くの禁止!」
「どうしてだイ?」
「人はな、心で喋るんじゃない。心はなんだって考える。でも、その全てが真実って訳ではない」
「でも、便利だヨ?」
「便利でも!」
「うー、分かったヨ、クウガが今、僕の友人だからネ」
「今友人?」
「人間はあっという間に死んじゃうでしョ?だからだヨ」
「あー・・・・・まあ、俺が生きてる間は、よろしくな、相棒」


こつ、と玉に軽く拳を当てる。


「うン!クウガ!!」


元気に答え


「で、誰が好きなノ?」
「お前は弄り好きな女子高生か!!」


こんなやり取りをしながら、帰路に付いた。
夜が明け、空が白走る頃、彼・・・いや、彼女、フューリも目を覚ました。


「奇麗・・・・夜明けね」
「ああ、奇麗だな・・・・ふあーあ・・・・こりゃ、今日は居眠り確定だな・・・」
「授業はちゃんと受けるべき」
「あ、あのなあ・・・」
「私は受ける」
「くっそ、くっそ!」
「・・・・仕方ない、あなたは休んで、私が後で教える」
「え、あれ、同じクラスだっけ」
「違う、私は先輩」
「せ、先輩か・・・・」
「そう、だから私が教師をする」
「そ、そいつはありがとう」
「・・・いい、その代わり」
「ああ、色々話をしてやるよ」
「・・・・ふふ、取引は成立・・・・」
「お、おう・・・・」
「お話は終わっタ?」
「わわ、クロム」
「んふー、いい雰囲気だったネ?」
「か、からかうな!」
「バカ」
「酷いヨ!?」
「いいから帰ろう・・・というか、あれだ・・・・手当もしないと」
「・・・・腕の事なら」
「ダメです、女の人なら尚の事だ」
「・・・・・・」
「とりあえず、近くの民家で、手当てさせてもらおうな・・・・」


手当てする為、近くの民家で何が起きたのか色々せっつかれたり、フューリが転移魔法陣ゲートを作るのになぜか時間がかかったせいで結局そのまま登校することになり、俺は居眠りをし、ミランダ先生に小言を言われるのだった。
くっそう・・・・フューリめぇ・・・・。


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