ガンズ・バイ・デイズ―高校生サバゲーマーの魔法世界奮闘記―

ファング・クラウド

BRIEFING:21 熱と火と、人と。

「そんな少しじゃ意味ないでしょ・・・?もっと・・・来なさいよ・・・」
「いや、ほら、余り寄りすぎても、ね?」
「あんた・・・私の言うことが聞けないの?」


雰囲気一変、急激に悪寒が走る眼光が背筋をゾクッとさせる。
恐怖的な意味で。


「あはははは、是非とも寄らさせていただきます!!」


ちょっと近付こうと地面を手で支え動こうとすると、その手にリズリットの手が重なる。


「・・・あ、あの?」
「・・・あんたの手、暖かいね」
「リズリットさ・・・ん?」


余りの恐怖に立ち上がろうとする。


「あによ、良いから黙ってそこに座りなさい」
「な、なん―――」
「す・わ・り・な・さ・い」


文句を威圧で一蹴するあたり、間違い無く彼女は王族だった。


「あんた・・・どうして助けてくれたの?」
「え?」
「だから、どうして助けてくれたのよ・・・?」


焚き火の中、照らされた瞳は、妙に上気して・・・色っぽくみえる。


「そりゃ、よ・・・溺れてる人見つけたら行っちゃうって」
「え・・・?」
「え?」
「ま、助ける側が助けられたらしょうがないんだけどな、はははは」
「・・・でも、助かったわ・・・」


ポツリと溢すように言葉を紡ぐ。


「私ね、あんたが初めてなの」
「何が?」
「―――――助けられたの」


紡がれた言葉は、理解できなかった。
彼女は一国のお姫様だろう?
それが何故・・・・・・。


「私は、第3皇女、そういったわね?」
「おう・・・・」
「だから、他の姉とずっと比べ、競わさせられて生きてきたわ」


そう、だよな、現実の王室にだってそういうのがあった。
此処にはないなんて、ありえないよな。
マリアだって、そういうしきたりに近い形のに苦しんでたんだし。


「勉強も、運動も、マナーも、治世も・・・誰にも負けない様に生きて来た、これからだって誰にも負けないわ、ずっとね」


彼女の国、ドロテオは火山が近くて、魔力の性質も火系が多いって聞いたけど、納得してしまった。
彼女は、火だ。
煌々と燃え、周りを侵略し、時に――――――人を魅了する。


「眩しいな・・・」
「へ、へ?あ、あんたなんか言った?」


食い気味に詰め寄る彼女。


「え、あ、いや、眩しいなって」
「っ~~~~~」


胸のあたりで握り拳を作って俯く彼女。


「どうした、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、なんでも、なんでもないわ」


のぞき込もうとすると、それを拒まれる。
どうしたのだろうか。


「な、何でそんなこと言ったの・・・?」
「・・・へ?」
「眩しいって!」


いきなり顔を上げたかと思えば食いつくように近寄ってきた。
ちかいちかいちかいちかい、上気した顔や、濡れた睫毛まで・・・・・って、違う違う違う違う!!


「え、あ、と・・・・いやあ、俺のいた世界じゃリズリットみたいな人、いなかったからさ」


誰だって、金、権力、能力、時間。
そういった物に負けて、諦めざるを得なくなり、其処から夢を見なくなる。
足に地を付けた生活だけで、上を見なくなる。
彼女は、そういった物とは無縁かもしれない。
金も、権力も、能力も、時間もある。
全部じゃなくてもいい。何かを得るとする。
でも、そうすると、今度は――――――――堕ちるんだ。
そう、堕ちる。
何故かって?
―――――人っていうのは弱いから、自分の持つ物を持ってない人間を見て虐げるから。
人類の歴史は語ってる。
奴隷や宗教。男性優位女性優位、偏差値に序列。
全部、競争っていう名の「弱虐」に繋がってる、優れた者は劣った者より偉いから、虐げていい。
そういう世界になっている。


でも、彼女は違った。
何でもあって、且つ、堕ちなかった。
そんな眩しい人間、そんなにいる物じゃあない。


「だから、君は誰よりも、眩しいよ」
「あば」


あば?


「あばばばば」
「リズリット!?」


怪音を発し始めた。
なんだ、正直怖いぞ!?
としている間に、肩を付かれリズリットに押し倒された。


「リズリット・・・さん・・・?」
「あんたが悪いんだから、あんたが・・・こんなに・・・」


ゆっくり顔を近付けて・・・これって


「ま、待った!リズリット!」
「待たないわ・・・待てない・・・」
「っ~~~~」


目を閉じ、構える。
ま、まさかファーストキスがツンツン姫とはっ・・・。


だが、いくら待ってもレモン味(体験者談)は来ない。
目を開けると、リズリットが胸元で突っ伏していた。


「リズリット!」


起こすとかなり身体が熱い。
額に手をやるとなおのことだった。
発病してしまったようだった。


「まずったな、クソ・・・」


舌打ちをしてひとまず彼女を横に寝かす。
外を見ると雨は弱まったが、風は強く稲光も見える。
海は・・・あれ?“荒れてない?”
目の前の海は開けるように凪いでいた。
よく見れば大分浅い、引き潮で引けばこれだけ浅かったのか。


「はぁ・・・はぁ・・・」


赤い顔で辛そうに喘ぐリズリット。


「今しかないよな・・・!」


意を決しリズリットを抱え抱きする、
軽い・・・こんな華奢な身体に国の責任を抱えていたのか・・・。


「少しの辛抱だ、耐えろよ」




――――――――――――――――――――――――――――――
暗い。
暗い。
暗い暗い暗い暗い暗い暗い。
なんでこんなに暗いの?
なんでこんなに寒いの?
なんでこんなに―――独りなの?
灯りもなく、足元は水に触っていた。
私は静かに座り込む。
誰も居ない、場所に。
俯いて、黒い水に浮かぶ自分の顔を見ていた。
私、死んだのかしら。
最悪だ、まだ何もしていない。
悔恨だけが、走り抜ける。


“―――少しの辛抱だ、耐えろよ”


・・・?
その声はふと聞こえた。
呟きのような声。
顔を上げると光が広がって・・・


「・・・」


目を開けると信じられなかった。
魔法はロクに使えないクウガが海を歩いていた。
私を抱えていたのか下から彼の顔を覗く形だった。
雨風に雷の中、真剣な眼差しで歩み続ける彼を、私は、私は見続けた。
胸が早鐘を打ち、暖かい気持ちに満たされた。
これは、何だろうか。


「・・・」
「ぁ・・・」


気付いた彼がはにかみながら笑いかけている。
その瞬間、頭からつま先に電流が走り、幸せが突き抜けていくような感覚に襲われる。
恥ずかしさに、顔を彼の胸板に埋める。
熱が、ゆっくりと染み入るように体の先まで伝わりじわじわとした幸せを感じる。
まるで、私は、彼に、恋を、している、みたい、じゃない。
私は、ヘンリエッタ様を好きなはず、なのに。
なのに――――御伽噺の英雄みたいに嵐を歩いて、使えないと言っていた魔法まで使うほど、無理して・・・。


コイツは
コイツは
コイツは・・・ぁぁ・・・コイツ
を・・・。
そこまで考えて、意識が離れた。


――――――――――――――――――――――――――――――
浮かれた熱っぽい視線で此方を見てまた顔を埋めた。
うん、そうしてくれた方が運びやすい。
風はまだ止まないし、雨は強いが、まだ足首を洗う位の海で助かる。
もう後少しで対岸だ・・・見慣れた対岸だ。やった。
あっていた、それだけで心が歓喜に湧き上がる。
だが、待て。
クールになれ、獲物を前に舌なめずりなんて三流の死亡フラグだ。


が、そんな気構えは何もなかったかのように渡り終わり、少し歩くと衛兵が駆けつけ


「何事ですか?!クウガ様、こんな遅くにドロテア皇国の姫様と戻られるとは・・・」


何か言っていたが、聞き取れない。
嵐が近かった為もあるが、怒りでだ。
“何事“だと?
ふざけんな。
ふざけんなふざけんな。


「ふざけんなぁああああああああああああッ!!!!」
「!?」


怒号を発する。


「ふざけんなよ!何事かだぁ?見て解らないのかよ!急病人だッ!
リズリットが病気になったんだ!それをよもや平時見慣れた兵士が見て“何事か“だとこの野郎!
手前みたいな馬鹿がいるからコイツはずっと・・・ずっと独りで苦しむハメになったんだろうが!
ああ!話す時間も惜しいッ!
さっさと医者のとこへ連れて行きやがれ!」


慌てて衛兵が動き始める。


自分でも我ながら意外だった。
イヤなドリルロールの為にキレたなんて。
だが、こんなにも頑張っていた彼女を見て、情が湧かないわけが無かった。
そうだ、コイツ等にとってリズリット達は象徴や仕組みでしかない。
国を纏め、運営する“機能“、そのパーツでしかない。
無論、そう言ったのに応えるのが、所謂ノーブル・オブリゲーションとかノブレス・オブリージュって言うんだろうよ。
“ だ   が   な  ”
だがな、だからといって、それが「彼女達」を虐げていい訳じゃない。




彼女達だって、象徴以前に、人間なんだから。






ああ、いいさ、いいともよ。
誰一人。
こいつを人間として扱わないなら。
俺が、”人間として”、側にいてやる。
それ位の救いは、誰にだって、有ってもいいだろう?
―――――最も、俺が”救い”になれるかは別だけど。




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