ガンズ・バイ・デイズ―高校生サバゲーマーの魔法世界奮闘記―

ファング・クラウド

BRIEFING:18 焦燥

「はふう・・・」




ホームシック(仮)以来、妙に興が乗らない。
なんだか、身体にも気迫が入らないし、割とダラダラしてる気がする。




「えと・・・クウガくん?」
「んあー?どしたアルト・・・」
「や、あの、姿勢・・・あう、リズリット皇女殿下が凄い勢いで睨んでるよぉ・・・」




ちらと視線をやれば、リズリットが鬼も逃げ出すような形相で此方を睨んでいる。




「んー・・・かったるいなぁ・・・」




姿勢を起こすが、やっぱり気が入らない。
本格的にダメかもしれない。
ちらとまたみると、ふん!とそっぽを向いた。
満足はしたようだ、良かったな、オレは良くないが。




「はい皆さん、静かにー」




アルベール先生が教室に入ってくる。




「いきなりですが、明日は全クラスで旅行します」




・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・は?




「ですので本日はこれまで、寮で準備をして下さい、では解散」
「はい、ごきげんようアルベール先生」
「はい、ごきげんよう皆さん」




え?
え?
はああああああああ!?




「あ、あの、アルベール先生!?」
「おや、どうしました、クウガ君」
「あ、明日旅行って」
「ええ、そのままの意味ですよ・・・ああ、旅行と言うのは旅に行く事で・・・」
「あ、えと、旅行の意味は大丈夫です・・・じゃなくてっ」
「では、どういうことですか?」
「あーっと・・・いきなり過ぎません?」
「ですが、クウガ君」
「は、はい?」




真剣な顔で切り返される。




「旅って急に行きたくなるものでしょう?」




・・・・・・へ?




「いやあの先生?」
「すいません、先生これから臨時の職員会議ですので」
「でしょうねえ!?」




そら、急に旅行なんか決めたらな!




「行く先をドロテオの火山帯近いビーチにするかアーティフィシャルの爽やかな森林地帯にするか、大事ですからね」
「え、そっち!?」




旅行自体はオーケーなの!?
というか、場所決まらないで旅行が決定!?
どういうことなの・・・。




「そっちとは・・・ああ、このクラインの見学も悩ましいですね」
「ああ、はい・・・もういいです・・・」




もしかして、マイペースなのはあれか。
この世界の人間の傾向がそうなのか。




「・・・じゃあ帰りますね・・・」




なんかすっごい疲れた。
自由に振る舞われるってこんな気分なんだな・・・。




「お帰りなさいクウガ様」
「遅かったなクウガ」




帰ったら王族兄妹に出迎えられた。




「二人ともどーしたの?」
「明日の旅行の事でな」
「何かあるのか?」
「ああ、折角だから、一緒に周りたいと思ってな」
「ああ、いいぜ」
「快諾してくれた事感謝する」
「んな大仰な・・・」
「いえ♪受けて下さった事、本当に嬉しいんですもの♪」




そんな喜ばれると流石に少し照れくさい物がある。








「折角だし色々見て回るかなぁってぐらいだったから」
「ふむ・・・それならリズリットやヘンリエッタも誘うか・・・」
「え・・・オレなんかの為にそんな・・・」
「気にするな、お前は今や俺の親友だ。手は尽くす」
「手は尽くすってなんの・・・」
「決まっている、友人をもてなす為のだ

「いいよ・・・そんなこと・・・」
「いや、俺の気が済まない」
「あーもう、解った、解ったよ、All rightオーライ
「おーらい・・・?」
「あー・・・うん、気にしないで」




尚更に気分が落ちるのを感じる。
そりゃそうか・・・。




「はぁ・・・」




今頃、皆はどうしてるだろうか。
皆・・・心配してくれてるのだろうか。
試合、どうなったかな・・・。
世間は、どう反応してるんだろ。
ダメだダメだ、あからさまに気になってしょうがない。
友人にまで心配させて何やってんだよ、一体オレは・・・




気付けば、もう夜だ。
情けない、二時間ぐらいうだうだやってたって事か。
気持ちを切り替える為に外に走りにでた。




「走ると無心になれるたあ言ったものだなぁ・・・」




苦しさと光景と自分と。
ただただそれだけが延々と続く。
苦しさと火照った体を風が優しく冷ます感覚が思考の全てを埋め尽くす。




「ん・・・?」




噴水の近くに着いた時、見知った顔がいた




「これは、クウガくん」
「ヘンリエッタ王子・・・っすよね」
「はい、良い夜ですね」




微笑む貴公子、ヘンリエッタ・ラクラックス・リヴェルタニアがそこにいた。




「どもっす・・・・」
「固くならないでいいですよ、公の場所ではないんですから」
「は、はあ・・・」




立ち振る舞い、挙動、気配。
そのすべてが、正に上に立つ者を思わせる。




「そういえば、今度オレに用があるって・・・・アレは何なんすか・・・?」
「ああ、折角だし、今言いますね―――」




しっかりこちらを見据えて、言葉が紡がれる。




「彼女を、マリアさんを救っていただき、ありがとうございます」
「へ・・・?」
「僕と彼女は幼馴染なんですよ」




なるほど、だから、なのか




「そんな・・・・ただ、バカが我儘しただけですよ」
「一国を相手にその我儘を通せる勇気、感嘆しました」
「勇気なんてそんな・・・ただの蛮勇、身投げと変わらないって、そんな英雄みたいに扱わないで下さい、こそばゆいですって」




正直、嫌味とか、こう腹黒い感じの扱いを受けるかと思ったら、まさかの、だった。




「こうして不可侵の場、それに直接会えるのは学園ぐらいですから、いる内に是非ちゃんとお礼を言いたかったんです」
「そんなわざわざ・・・すいません」
「ふふ、謝らないでください」


なるほど、ドロテオのお姫様が熱を上げるのも頷ける。


カッコイイもん。この人。
元の世界で会った誰よりも。
元の世界で知った誰よりも。


纏う空気が、語る言葉が、振る舞う仕草が。
そして、その生き方、生き様が。
その全てが、自然体、飾らないで「王子」なんだ。
同じ男として、憧れる、まさに羨望。
オレが女なら惚れる自信があるね。
間違いない。


「どうか・・・したのかな?」


立ち尽くすオレを疑問に思ったヘンリエッタ王子が問いかけてくる


「ああ、いえ・・・」
「そういえば、レオから様子がおかしいって聞いていたんだけど、それかな?」
「あぁ、ま、そんなとこっす」
「・・・もしかして、元の世界が恋しいのかな?」


・・・うわ
流石王子、何て観察眼だよ・・・。


「あははは・・・」
「そうか・・・申し訳ありません」


この世界の人間は何故すぐ謝りたがるんだ・・・。


「力になれなくて、君はこんなにもマリアさんや、レオを助けて居るのに、それに対して出来るのはこうして話す事だけなんて・・・本当に申し訳ありません」
「気にしない、気にしないで下さいよ、ヘンリエッタ王子」
「僕の事まで気にかけてしまって・・・」


この日、こんな感じでずっとヘンリエッタ王子と話し、帰宅、倒れ込むように寝てしまった。


・・・なぁ、なんでオレなんだ?
なんでオレが・・・


意識が消える前の最後の思考だ。
中途半端な時間に起きてしまい、窓を開ける。
風と共に、音がーーーいや、歌が聞こえる。
マリアの歌だ・・・多分耳に残った歌が聞こえるんだろう。
不思議と癒されるんだよな、この歌・・・。


気がつくと寝ていて、起きるとすっかり朝になっていた。
もう、ホームシックな気持ちもない。
・・・んー、まさか本人が知らないとこでマリアに助けられるとはなぁ・・・。


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