龍神転生!世界の守護者は今日も気まま

シーチキンたいし

龍神の役割



朝、目が覚めたラティオス達は、簡易テントから出ると、清々しほど澄んだ空気に癒された。

王都や街並みとは全く違う雰囲気で、神聖さすらあるこの場所は、心が落ち着く。

「おはようございます殿下」

「あぁ、おはよう」

ラティオスに声をかけたリーフェンは、どうやら、朝の自主鍛練をしていたらしい。いつもきっちりと来ている隊服が乱れている。

「こんな時まで鍛練か?飽きねぇのかよ?」

「飽きたの一言で訓練をサボるくせに、天才的に強い殿下に言われたくないですね。これは日課です」

そう、このラティオス・リューティエスは『完璧な王子様』に恥じない強さも持ち合わせている。

外面はいいが、中身がこんななので、訓練も勉学も幼いときは「飽きた」の一言でサボり、王宮を抜け出して遊びにいく始末。

そしてそれを毎度探して連れ戻す役目は、幼い頃からラティオスの近衛騎士として仕えているリーフェンだった。そんなリーフェンから言わせてみれば、「理不尽」の一言だった。明らかにサボっているのにその実力は天才的だったのだ。

勉学においては、今では王の代理を任されるほど優秀。武力においても、魔法は宮廷魔導師のトップとも引けをとらず、剣術においては、自分よりも強い。

本当の性格を知らなければ、まさに『完璧な王子様』なのだ。

『おはよう、ラティオス』

「おはよう、エスティ。……龍神様は?」

『まだお眠りよ!うるさくして龍神様を起こしたら許さないから!』

エスティに話しかけたにも関わらず、現れたのは、大地の最上位精霊だった。

『大地の……、龍神様のおかげで戻ってきたのよね?他の子達は?』

『いますわよ』

『よ!風の、久しぶりだな!』

エスティが大地の最上位精霊に問いかけとる、それに答えるように出てきたのは、それぞれの最上位精霊達だ。

エスティ同様に強い魔力マナを感じる。

「これは…すごいですね」

「あぁ、最上位精霊がそろっている」

『俺は火の精霊だ!よろしくな人間』

『わたくしは水の精霊ですわ』

以前はエスティのみしかいなかった最上位精霊が揃いぶみだ。

『龍神様はまだお眠りなの?』

『当たり前でしょ!まだまだ世界の傷は深いんだから!』

『そーだぜ?そんな簡単にはいかねぇよ』

『人間のせいですわ…』

「世界の傷……?それは一体なんなのですか?!」

ラティオスは、“世界の傷”という言葉に疑問をもった。そもそも、世界の傷とはどういったものなのか、全く検討がつかなかった。

それに、龍神様の眠りに何か関係がある風にきこえた。

『前の龍神様がいなくなって、精霊も減って、この世界は疲弊してるの!滅亡寸前のところで龍神様がいらしてくれたのよ!』

『龍神様はこの世界の管理者ですわ。この世界のマナを調節し、世界を管理するお方が居なくなれば、破滅は免れないのですわ。』

『龍神様が世界そのものといっても過言じゃないんだぜ。俺達精霊は、細かい調節をするために産み出されるんだからな。』

『今、龍神様は大半を寝てすござれてるの!世界のマナを正常に治すためにね!マナが乱れれば、世界に歪みを作るの。その歪みが大きいと……貴方達も知ってるはずよ』

「……まさかッ!」

「マクシロン王国か……」

マクシロン王国とは、五百年前に滅んだ国だ。その国は帝国同様に、精霊を道具のように使い捨てる思想の国だった。

五百年前に滅んだ国だが、その事件は、精霊保護同盟が大きくなっている一因にもなった。

彼等は五百年前、大地の最上位精霊を有する国だった。しかし、年々精霊は減少し、ついには最上位精霊までもが、力を奪われ消えてしまった。変化はその翌日からだった。

王都の周辺から徐々に、草木も生えぬ、不毛の大地に成り果てていったのだ。さらに凶暴化した魔物が襲いかかり、三日もしないうちに滅びることとなった。

この事件をきっかけに、精霊保護の思想は大きく広がっていった。マクシロン王国跡は今でも死の大地となっている。

「では、死の大地も…魔物の凶暴化もマナの乱れによるものか?!」

『そうよ!だから龍神様が調節されているの!邪魔したら許さないから!』

「いや、邪魔をするつもりはない。…我々にその資格はない」

世界の破滅を招いた人間である自分達に、邪魔などするつもりもないし、もとより、出来るはずもない。

追求することも憚られる。話をそらすため、別の話題を出すことにした。もう日が登って、兵たちも起き始めている。朝食の時間だ。

「……それより、炊事をしたいのだが、ここで魔法を使っても大丈夫だろうか?」

『…それくらい、かまわないわ』

「よし、リーフェン!食事の準備だ」

「は!炊事係に言ってまいります」














「ふぁ~、よく寝たわ」

『りゅーじんさま!』

『りゅーじんさまおはよう!』

『おはよう!』

「えぇ、おはよう。あれから何日たったかしら?」

『5日だよ!』

目を覚ますと、上位精霊達がやって来た。どうやら5日も寝ていたらしい。

私の場合、睡眠をとっているわけではない。そもそも龍神は眠らない。しかし、こうも眠気に襲われるのは、この世界がそれほど疲弊しているということだ。

眠っている間、私の力はほぼ全て世界の修復に使われている。少しずつではあるが、世界のマナを正常に戻しているのだ。そのおかげで、7割方修復は終了している。

しかし、この世界の傷は深い。世界の5割以上もの大地が死に絶えて、その一歩手前の場所が2割もあった。

つまり世界の約7割以上修復しなければならなかったのだ。

私が龍神として、この世界に降り立ってから、大半は睡眠にとられてしまっている。仕方の無いことだが。

まぁ、龍神に転生した以上、私の寿命は永遠といっても過言じゃない。なので、1年や2年…いや、100年、1000年でさえも、ささいな時間になるのだろう。

そんな私に数日の誤差なんてあってないようなものだ。

「人間達はまだいるのね」

『はい。うるさいですか?追い出します?』

「いいわ。私には居ても居なくても関係無いもの。それより、いじめられてる子はいない?」

『大丈夫です!』

世界の修復に力を使って眠っている間は、精霊との視界共有の魔法が解かれている。なので、代わりの子に魔法をかけてから眠るようにしているのだ。

私の目が届かないうちに何かされたら、たまったもんじゃない。

「よかったわ。それより……なにかしら?いい匂いね」

『人間!料理してるよ!』

「あら、そうなの」

先にいった通り龍神は、マナを活動のエネルギーにしているため、食べ物を食べる必要はない。しかし、前世の記憶があるからか、嗜好品としてなら食べてみたいという欲はある。

味覚もあることだしね。

うーん……。貰ってこようかなぁ?でも、お金とか持ってないんだよなぁ。

ふわりふわりと浮遊しながら考える。どうも、寝床は精霊達がこだわって、超絶もっこもこのふわふわで寝心地最高のベッドだ。しかし、廃神殿であるここは瓦礫剥き出しの廃墟。

何にも傷つけられることの無い龍神の鱗の前では気にしないが、今は人化の魔法で人の姿だ。もちろん、それで龍神としての強度がなくなることなど無いが、これも前世の記憶があるからか、裸足で歩くのが何となく嫌だ。

なので浮いている。なんかアレだな…、某漫画に出てくる、自分のダーリンに雷をよく落としている女の子みたいだ。

「り、龍神様!?」

「ん?」

振り替えると、王国の王子様が立っていた。すんごく顔を真っ赤にして。

あぁ、そう言えば私の格好って、白の薄いビスチェワンピースみたいな格好だ。この状態で浮いてたら、下着でも見えそうだ。

あれ?下着履いてたっけ?……うん、履いてるわ。

「どうかしたか?」

「ぁ…や、その……お目覚めになったのですね」

「うむ、先程な」

なんかすごい動揺している。申し訳ない。

それより、この人ずっと猫被ってて疲れないのかな?まさにニッコリ笑う姿は、王子様そのものだ。

しかし、どこに居ようとも、この世界に存在するのなら、私に知らないことなど無い。この人が外面がいいのはすでに知っている。

なんでかなぁ?

「あの…龍神様、申し訳ないのですが、父上…いや、この国の国王である陛下に会ってはいただけないでしょうか?」

「……国王?」

そう言えば寝る前にそんなこと言ってたなぁ。早馬出してたし。

ここから王都まで早馬で1、2日で、すぐに準備して向かえば5日といったところだなと、頭の中でも計算した。

そうか、ちょうど今日くらいにここに着くのか。

「かまわぬ」

「ありがとうございます」

「それより……いい匂いがする」

「え、あぁ、今朝食の準備を……あの、龍神様も食べられますか?」

「うん?あぁ、気を使わせたか?我は龍神ゆえ、人間のように食事を必要とせぬ。味覚はあるので食べても趣向品くらいの感覚じゃな」

「そうですか……では、なにかお出しします。献上品だと思って受け取ってください」

「……わかった」



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