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ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟

第25話 代わり2

「お前たちは普通の生徒とは違う」

 先生は少し口ごもり、そのあとでそう言い切った。彼の額から流れる汗は焦りか、もしくは別のものか。ともかく、彼は本気でそれを口にしたということはわかった。
 だが、その言葉自体が今までの先生の言動とはかけ離れた言葉ともとれるが、僕が思うような差別的な意味を含んだ言葉ではないのかもしれない。僕の能力では、勘違い……意思の相違まではわからない。先輩のように心の内を読むことができる能力なら別だが、僕にはそこまでの力はない。

「それは差別と取られても仕方のない発言ですよ?」

 先輩は一瞬だけはにかんだと思うと、そうこぼした。つまり、先生は僕たちFAを差別したというわけではない。もっと別の何かを指して普通ではないと言ったのだ。

「そう言うことじゃない……お前たちはFA保護部の部員だ。まあ俺が作った部活というか、作らされた部活といった方がいいのか……ともかく、正式に言うのであれば、風紀委員会特別執行部FA問題対策室に所属している」
「なんですか……それ? 僕にわかるように説明してください」

 僕は先生の突拍子のない話についていけない。

「俺もよくは知らん。だが困っているFAと、困ったFAに対して、何かしらの強硬手段を行使することが許されるって事らしい。だから今この瞬間にも宮下を罰することも出来る。といってと、停学にさせるぐらいしか出来ないけどな」

 そう僕たちに説明すると、先生は僕たちから顔をそむけるように背を向けた。それだけ後ろめたい何かがあるというのだろう。
 ともかく、先生の説明をまとめると、僕たちにはFAに対しての特権があるということだ。
 確かに僕たちの部活はFAと関わることが普通の人間よりは多いのかもしれないが、そんな特権を持つことが更なる差別につながる可能性もある。特に僕は先輩とは違い、誰かのために何かをしようとはあまり思わない。不条理な世界に対してなんらの感謝もないからだ。
 僕が誰かのために何かするとしたら、妹か先輩……あともしかしたら先生のためにならほんのわずかだがやる気も出るという物だろうが、今まで僕を怖がってきた者たちに対して何かをしてやる気はない。僕はそれほど優しい人間であるつもりはないからだ。

「生徒が生徒を停学にするって言うのはまずいでしょ。僕なんか気に入らない生徒停学にしまくりますよ」
「ばかいえ、もちろん俺の許可は必須だし、最終的には校長が認めなければ無理だ。私怨で生徒の人生を狂わすわけにはいかないからな」

 僕の言葉に先生はすぐさまこちらを振り向き反論する。
 当たり前だが、僕たちを完全に信用しての特権というわけではないらしい。だが、それでも特権という物には常に危険が付きまとう。

「ですが、危険なことには変わりありません。そんなことをすれば差別は深まりますし、生徒に特権を与えることはいかがないものでしょう」
「確かに、だがFAはFAが取り締まらなければならないし、FAを守れるのもまたFAだけだ。ただの人間には取り締まることも理解することも出来ないからだ。普通の人間とFAの能力の差だけに限らず、FAに対する理解度も普通の人間では下がってしまう。政府はそれでは差別が広がるばかりだと考えた。だから、日本で一番FAが多い俺たちの学校をモデルケースとしてFA保護部を立ち上げさせたということだ」
「政府が……?」

 政府が考える政策の一部だとでも言うのだろうか、それだとするならあまりにも馬鹿げている。馬鹿げているというよりも、頭がおかしいとしか思えない。差別というものは力で解決できるものではない。力で何かを押さえつけるというのはもっとも効率が良くて、もっとも愚かな行いだろう。そんなことは高校生にでもわかる。
 力で押さえつけられた民衆というのは、押さえつける力が弱まった時に勢いよく爆発する。歴史の中で幾度となく行われたことのはずだ。
 しかし、先生にとっての問題点はそこではないらしい。

「実のところ、これは機密事項だが、俺はお前たちに黙ったままこの計画を進めることには反対だ。お前たちがやりたくないと言うのなら強要する気もない。子供がやるべきことでもないし」

 先生は臆することもなく言い切った。
 先生には先生の立場というものがあるだろうに、それでも僕たちのことを考えてくれるということには感謝を通りこして、不気味ささえ感じてしまう。何が彼をそこまで駆り立てるのだろう。僕は先生に聞いてみたくなった。
 だが僕よりも早く、宮下アヤメが口を開く。

「やらなきゃ私がやるだけだけどね」

 その言葉で僕はようやくあることに気がついた。
 先輩も宮下も知っているのだろうが、僕はまだ事実として誰の口からもきかされていないことだ。

「ちょっと待ってください。そもそも、FAは僕が知っているのは僕、先輩、宮下、山田ぐらいだけど、ほかにもいるってことですか?」
「学校が把握しているだけでも20人……宮下のように隠れているFAがいるとしたらもっといるかもしれない」

 20人以上もいるというのは僕にとって衝撃の事実だ。僕にとっては宮下、山田がFAだったということだけでも今までの人生で先輩のことを知った時と同じぐらいには驚いたものだ。それが今となっては、それすらほんの一部にすぎないということを思い知らされた。これは、僕以外の人間が嘘を見破ることができないと知った時よりもはるかに驚愕すべきことだ。
 僕は思わず開いた口がふさがらない。だが、そんな僕に匹敵するほどおどろいた様子で先輩が大きな声で先生を問いただした。

「ですが、先生が把握していないFAが存在しているなど、ありえないと言ったはずです!」

 先輩がなぜそのことを気にしているのかは不明である。
 もともと、先生がFAをすべて把握していることなど知らなかった。だったら、先生のFAを見つける力に信頼性などないはずだ。たとえ心を隠す方法を先生が知っていて、それを思い知らされていたとしても、それとは話が別だ。
 しかし、先生も弁解するかのように返事をする。

「宮下が本当にFAだとするなら、機械に不備があるということだ。だったら宮下のほかにも同じようなFAがいてもおかしくない」

 全く奇妙なことであるが、ともかく、先輩は人の心を読むことができる能力を持っている。まだ先生と先輩の間にしかない何らかの情報があるということだろう。今僕がそれを気にしても仕方がないし、知ることもできない。
 僕が考えるにだが、おそらく宮下に情報を与えたくないと考えたのだろう。
 だが、宮下はそんなことを知ってもおそらく、今のようにつまらない話を聞いている子供のように大きく欠伸をして興味すら持たないだろう。

「どうでもいいけど、私の代わりに道を外れたFAを罰してくれるということでいいのかしら?」

 待ちきれなくなったようで、宮下は眠たそうな目で椅子から立ち上がり僕たちに問いかけた。それに答えるように僕も立ち上がった。
 椅子が引きずられる音を立てて後ろに下がっていく。少しだけ行儀が悪い気もしたけど、僕にはそれに気をかけるほどの精神的余裕も残っていなかったのだ。

「ちょっと待て! やっぱりそれじゃあ何も解決しないと思う。だからもうちょっとだけ待ってくれないか……もっといい方法があるはずだ。山田もお前のことを恨んではいないみたいだし……これ以上何もしないなら、僕たちも何もする気はない。それでいいですよね、先輩? それに先生も」

 僕とアイコンタクトを取りつつも、先輩と先生はうなずいた。

「はい」
「ああ」

 宮下は長い間、目を瞑って何かを考え込んでいる。
 正直、彼女は僕たちと根本的な考え方が違う。だからこそ、僕の提案も受け入れられる可能性は限りなく低いだろう。戦闘になる可能性だってある。そうなれば僕たちの勝ち目は少ない。実力の差とかそんな話ではなく、僕たちが彼女の能力を対策できないからだ。
 僕は唾を飲み込んで彼女の返事をひたすらに待った。
 数分の時をおいて、宮下は大きくため息をつく。そして次の瞬間、口を開いた。

「私が待つ必要あるかしら……なんて、あなたたちと戦うのは意味のないことだし、数日ぐらいなら待ってあげてもいいかな」

 一瞬だけ冷や汗をかいたが、彼女は僕の提案を飲んでくれるようだ。

「わかった。僕の能力を信じてっていうのは少しだけ面白くないから、宮下のことを信じると言っておくよ」

 僕の言葉を聞き終わると同時に、彼女は僕たちを玄関へとひきつれて帰宅するのを見送ってくれる。
 彼女のことを僕が全く警戒していないわけではないが、それでも彼女が何もしないことを約束してくれたことはうれしかった。
 これから、彼女が我慢できる数日の間に、どうにかして罰することとは別の手段をどうするかと考えながら、僕たちを見送る宮下の方を振り返った。
 最後に見えた彼女の表情は何かをたくらむ、いじわるな子供のような怪しい笑みだった。

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