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ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟

第22話 違和感

「あら、どうされたんですか?」

 スピーカーから聞こえた声は凛として、焦燥感すら感じさせないほどに落ち付いていた。
 それは、さも自分が僕たちの捜査にはなんの関係もないことを示唆しているように、何も知らない無垢な少女を演じるように不自然で、それでいて突っ込みを入れることができないほどにありきたりな反応だ。
 だからこそ、僕たちはストーカーの話を切り出しにくい。それを察してか先生が助け船を出してくれた。

「宮下……ちょっとお前に聞いておきたいことがあってだな」
「先生もいらっしゃったんですか!」

 わざとらしい声で彼女が言った。
 とは言っても、彼女を疑っている僕にはそんな風に聞こえてくるというだけで、実際のところ本当に何も知らないという可能性も十分ある。だからこそ、直接彼女と対面して彼女の口から声を聴く必要があった。なぜなら、僕の力は面と向かわなければ発動しないからだ。
 だが突然訪れたクラスメートと先生に会ってくれるかというのは非常に微妙なところだろう。僕だったら追い返すだろうし、彼女がストーカーだとするなら会う意味もない。特に彼女は僕の能力を知っているかもしれないから、疑われるかもしれないと思ったとしても会わないという選択をする可能性が非常に高いだろう。
 だからといって、直接会わずに帰るという手はない。

「突然悪いんだけど、聞きたいことがあってきたんだ。ちょっと出てきてもらえるかな?」

 できるだけ彼女を疑っているということは匂わせないように、あくまで冷静を装って僕はお願いした。もし彼女が犯人だとするなら、出てきたら嘘はつけなくなるし、出てこなかったとしてもどのみち怪しまれるということは考えているだろう。
 さて、彼女は一体どちらを選ぶだろうか。

「そうですね……先生もいらっしゃったことですし、顔を出さないというのも失礼だしね。今から行くから少しだけまっていて」

 返事は以外にもあっさりとしたものだ。
 僕が彼女を犯人と決め付けていなければ、もしかしたら疑うことすらやめたかもしれない。僕がそう思ったのも先生の顔から疑いがなくなっていたからだ。しかし、それだけで疑いを晴らすというのは早計だろう。相手が狡猾であればあるほど、疑わしい部分はすべてそぎ落とすはずだ。
 特に頭のよい人間にとっては、僕をだますことなどたやすいことだろう。インターバルが長ければ長いほど悪いように考えてしまう。それも人間の性なのだろう。

「やっぱり、宮下は関係ないんじゃないか? ストーカー本人だとするなら、少しぐらいは動揺するはずだろう?」

 先生がそう口にする。
 当たり前だが、先生は出来るだけ生徒を疑いたくはないに決まっている。それが特に優等生ともなると普通の生徒よりも疑い辛いはずだ。先生にとって生徒を判断する基準の大きなものは、自分と親しい人物であるか、優等生であるかの二つぐらいなのだから。
 しかし、先輩の意見は先生のものとは大きく違っていた。

「いえ……今のやり取りだけ見るのであれば、逆に怪しいですね。怪しいところが全くないことが怪しいです……」

 そんなことを言えばきりがないということはよくわかっているが、僕も先輩とは同意見だ。僕たちには刑事や探偵みたいな人を観察し続けた経験や、疑うだけの根拠をもってはいない。だがそれでも生き物としても感覚が、宮下アヤメを不信だと言っている。
 だからこそ、計画も練らずにここを訪れて決死の覚悟で彼女に会おうと決めたのだ。
 僕は乗り気ではない先生に対してダメ押しするように先輩に同調する。

「僕も先輩に同意です」

 先生は少しだけ考え込むように唸った。二人の生徒からの意見ともなると、自分の感覚を疑わなければならなくなったからだろう。
 それも生徒に平等に接している先生だからこそ、真剣に悩んで答えをだそうとしている。
 そして少し時間をおいて答えをひねりだした先生が口を開いた。

「確信もなく人を疑うのはどうかと思うが……わかった、お前たちを信じよう」

 先生がそう言ったところで、ちょうど家のドアが開く。
 ドアの向こうからは、まだ制服から着替えていない宮下アヤメが顔を出す。僕は彼女のことにあまり詳しくないが、部活から帰ってきて間もないのだろうか、少しだけ疲れている様子だ。

「お待たせしました。どうぞ中へ入ってください」

 彼女はさも自分は何も隠していないといった風に、僕たちを家の中へと招く。
 ドアと彼女の隙間から見えた家の内部は異様で、ほかに誰も住んでいるという気配がまるでない。家族とは離れて暮らしているのだろうが、それにしても生活感というものをまるで感じさせない。最近はやりのミニマリストというやつなのだろうか……。といってもまだ隙間から見えるのも玄関の一部ぐらいで、家のすべてを見たというわけでもない。
 僕の疑心が作り出した違和感なのかもしれないなんてことを考えながら、僕は先輩の方に目をやった。
 先輩は親しい人物でなければわからないほどだろうが、ほんのわずかに顔をしかめて小さく何かをつぶやいた。おそらく唇の動きから察するに、『やっぱり』と言ったのだろう。それは心が読めないということを指しているのだろう。つまるところ、僕の力も通じない可能性が高いということだ。
 最初からわかっていたことだが、彼女は僕の力など恐れてすらいないのかもしれない。そうすると、僕たちを家の中に招いたのは彼女の油断の表れとも取れる。だったら油断している間に言質でも取れればいいのだが……はたして、そううまくいくだろうか。
 僕は若干の不安を抱きながらも先生に先に入ることを促した。

「ああ、じゃあお邪魔させてもらうとしよう」

 先生はまるで疑う余地などないという風に、勇猛に足を前へと進める。先輩と僕はそれに続いた。

「失礼します」

 先輩は斜め15度のお辞儀をし、さながら面接会場にでも入るがごとく丁寧にあいさつをした。そこまで丁寧にする必要性があるのかは議論の余地がほんのわずかだけあるかもしれないが、一応まだ今回の事件の犯人が宮下だと決まったわけでもないし、情報提供してもらう側であるからこそ礼は尽くすべきだろう。
 まあ、僕はそんな風にあいさつするのは御免こうむるが、先輩にとってはそれはさも当たり前のことであるのだ。といっても、僕がそれと同じことをしたら違和感しかない。警察官がものすごく丁寧な口調で話しかけてくるぐらいの違和感があるだろう。
 だからこそ、僕は何となく自分がいけないことをしているような気分になりながらも「お邪魔します」と声をかけて、友達の家でも訪れるようにできるだけフレンドリーさを残しつつも、最低限の礼儀をわきまえている風を装った。

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