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ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟

第21話 家

 さて、そんな無神論者な僕ではあるが、運命とかそういうことをまるで信じていないというわけではない。だからか、実のところ今の状況にさほど悲観していない。先輩と僕、あとついでに先生がいるこのある種運命的な状況と、敵として位置づけられる、であろう相手がクラスメートでありそれも強敵かもしれないという状況は奇跡に違いない。これは僕たちの今後を決定づけるうえで重要な出来事であるはずだ。
 それがたとえ苦痛を伴う出来事であったとして、変わりなく貴重な経験として積み重なるなんて言ったら生意気な小僧だと思われるかもしれないが、僕の人生においてそれは何度も僕にのしかかった。
 特殊な力をもって生まれるということはそれだけで、現在の日本においては避けることのできない残酷な運命が待ち望んでいるということだ。

「今日は遅い、宮下に話を聞くにしても明日にするべきだろう」

 先生は当たり前の提案をする。今の時間を考えれば大人としては当たり前の反応であり、ただの大人なら当たり前のことで済む。だが先生は教師だから、余計に厳しく言わなければならないということはよくわかっている。
 だが、僕は先生の提案に同意することは出来ない。

「いいや、今日にするべきでしょう。相手の能力がわかっているなら、相手が邪魔をする前にすべてを終わらせてしまう方がいいです」
「俺は同意できない。教師としても、友人としても」

 いつから僕と先生は友人になったのだろうなんてことはどうでもいい。だけど宮下アヤメが犯人だとするなら時間だけは与えてはいけない。
 先生はまだ宮下を犯人だとは思っていないようだ。だが、僕は確信を持って言える。彼女は犯人だと。
 先輩はどうだろう。彼女は宮下のことを能力者だと信じているが、僕の心と先生の心を読んだうえでどうするべきだと判断するのだろう。今一番状況を理解しているのは先輩だ。だったら先輩の意見を一番支持するべきだと僕は考えている。
 だがしかし、先輩は僕と先生の言葉の掛け合いを見ても黙りこんでいる。それが僕にとってはどうしようもなく不気味で仕方がない。

「先輩はどう思いますか?」

 僕は我慢できずに訊ねた。
 先輩は深く考え込むように黙りこくっている。まるで僕の声など届いていないといったように彼女は口を閉ざしている。こうなってしまうと、彼女は考えがまとまるまで何も耳に入らないようで、僕たちは待つ以外の選択肢を失ってしまった。
 しかし、先輩が口を開くまでにはそれほど時間を要することはない。
 いつも数分のインターバルの後、先輩は口を開くのだ。

「私も今日お会いすべきだと思います」

 ちょうど先生が右腕につけた時計を気にし始めたタイミングで先輩が言った。先生は時計から目を離すと、諭すように言葉を返す。

「きっとお前の考えは正しいのだろう。だが、時間は無限じゃない……このまま宮下の家に行ったところですぐにタイムアップだ。明日にした方がいい」
「いいえ、それではダメなのです。今日……いいえ、今すぐに確かめなければ手遅れになるかもしれません。今回のことはただのストーカーではなく、もっと大きな思惑があります。私の勘違いでなければ……」
「大きな思惑?」

 先生は本当に何も知らないのか、もしくはすべてを知っていて隠しているのか、素知らぬ顔で聞き返した。僕の能力は反応していないから、本当に知らないのかもしれないが、今となっては自分の能力すら疑わしい。
 それでも僕にもわかることはあった。

「犯人からは能力者に対して深い憎しみを感じる。だから、もし宮下が犯人じゃなかったとしても会っておく必要があるんですよ。宮下の安全を守るためにもね」

 僕は宮下が犯人だと確信していたが、先生を説得するだけの理由は必要だ。だからそれらしい理由を用意しただけの話だが、別に嘘をついたというわけではない。
 万が一、宮下が犯人じゃなかった場合、狙われる可能性があるのは僕と先輩、そして宮下だ。
 僕にとっては犯人が誰かなんてどうでもいいことで、僕たち能力者が危険視されることの方がはるかに恐ろしくて仕方がない。差別が増大することが恐ろしい。僕のような人間が増えることが恐ろしくてたまらないのだ。

「……わかった」

 先生は悩みぬいたうえでようやく同意する。それでもまだ納得できていないという顔だが、やはり教師であるが故の性というやつか、生徒に危険が生じることを見過ごすことは出来ないらしい。
 しかし、これでようやく話が進む。僕にとってはくだらない日常の一部にしか過ぎない一日がようやく終わりへと向かうことを喜びつつも、若干の倦怠感を抱きながらようやく宮下の名前が刻印された表札が掲げられた家の前までやってきた。
 時刻はもうかなり遅いだろう。夕焼けに照らされていた街も薄暗くなり、少しだけ不気味さを感じさせる。それでも普段なら人通りは多いとおりには、不自然なほど誰もいない。

「罠かも……なんて、ファンタジーの世界とかならそんなことを思ったかもしれませんね」

 先輩は緊張感をまるで感じさせない声でつぶやいた。

「僕たちはファンタジー生物ですよ」

 皮肉めいたセリフに、僕は皮肉でかえした。
 ファンタジー生物なんて言葉を作った奴は、きっとファンタジーを読んだことがないのだろう。心を読んだり、心を操ったり、風を操ったり、といえばファンタジーっぽくも感じるが、僕たちのような人間が使うのであれば超能力といったSFチックな力と考えた方が幾分かましだ。
 それなのに超能力を持った僕たちをファンタジー生物と名付けるのはいかにも皮肉めいている。
 そんな皮肉の嵐の中で先輩はチャイムを鳴らす。

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