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ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟

第17話 正体

 結局、彼の口から『彼女』の正体が伝えられることはないまま病院を後にすることになった。
 まあ、彼から持ち出された情報から、犯人の正体をプロファイリングするのはそう難しい事ではない。

「精神操作……やはり考えられる存在としては彼女のことなんだろうね」

 僕は、僕の唇を突然奪ったあのクラスメートのことを思い出す。確か、彼女の能力がそんな感じの能力だったはずだ。
 だとしたら、もしかしらたら、僕もすでに彼女の能力下なのかもしれない。そんな不安が頭によぎる。もちろんそれは、確定されたものではないが、彼女があのタイミングで、僕や先輩に近づいてきたことを考えると、ほとんど確実だといっても過言ではない。
 しかし、反対に彼女の行動はあだとなった。これで犯人はほとんど確定したということだ。

「決断を急ぐのは危険です」

 先輩はいつも通り慎重だ。
 確かに、まだ百パーセント、彼女が犯人だと決まったわけではない。能力がそれっぽいということと、状況的にその可能性が高いというだけだ。
 ほぼ確定ではあるが、絶対にそうだとは決まったわけではない。
 山田兄の記憶から、彼女の詳細な情報が読み取れればよかったが、先輩が読み取れた情報はあまり多くはなかった。

「彼の記憶からはその存在は読み取れませんでしたし、努力はしても、私に対して心を開ききることができなかったのでしょうね」
「それができたら本当の意味で人間じゃないだろうな」

 先輩と先生はまだ一つだけ重要な事実を知らない。だからこそ、僕とは真逆に結論を急ぐのだろう。

「これ以上証拠がないというのなら、俺らにはその誰かを探すことなんてできないぞ」

 先生はそういうが、僕はそうは思わない。

「いえ、それはおそらく可能です。なあ妹」
「どういうこと?」

 僕の突然の呼びかけにピンと来ていない様子の妹だ。
 しかし、よく考えればわかるはずだ。まあ、僕と妹に限ってのことなのだが……いや、よく考えれば僕にしかわからない方法だ。 僕は重要なことを妹に伝えていない。

「そういえば、先輩の能力について教えていなかったな」

 そう、先輩の能力についてだ。

「うん、確かに聞いていないけど、それと私にどういう関係が?」
「お前は確か、山田兄と言い争っていたやつの顔を見たんだろう?」
「うん……確かに見たけど、横顔だったからうまく説明することは出来ないよ」
「説明なんて必要ないんだよ。先輩の力があればな」

 ここまで話せば気がついてほしいのだが、まあ何も知らない状態では厳しいだろう。妹は僕にとってはラッキーアイテムみたいなものだが、ハイスペックな存在ではない。
 物語上で言うならキーパーソンというやつだ。むしろ、妹がいなければ、おそらく僕も先輩や先生と同じ思考に陥ったうえで、今回の事件は未解決のまま終わった可能性すらある。

「どういうこと?」

 きょとんした表情で尋ねる妹に、すべてに気がついた先輩が言う。

「私の力は他人の心を読むこと……だから、あなたが考えたその犯人だって見ることができるということです」
「心を読む……まさか今も?」
「そこは詳しく教えることは出来ません。ですが、今のところ妹さんから読み取れるものは微々たるものです」

 心が読み取れるということがいかにチートじみた能力なのかというと、実はさほどでもない。先輩と中の良い僕であったとしても、少し頑張れば先輩が赤の他人から読み取ることができるぐらいには抑えることは出来る。
 しかし、全く読み取ることができないなんてことはほぼできない。赤の他人がどれだけ心を読ませないように努力したところで、必ずと言っていいほど表面的なものは読まれてしまう。
 つまるところ、読ませたいことを強く思い描けば、赤の他人であったとしても心を読ませることは出来るということだ。

「そう、だけど先輩は一番強い思いを読み取ることが出来る。だから――」
「――私がその時のことを思い出せばいいんだね?」

 妹は僕の言葉を遮って、自信満々に言う。
 僕が唯一といってきめ顔で説明できる部分を妹はなにごともなかったように浚ったのだ。

「まあそうなんだけど、最後まで喋らせろよ。一応僕の数少ない見せ場だぞ」
「見せ場って者は、自分の力で勝ち取るものだよ。何の努力もしてこなかったお兄ちゃんには一生存在しないものなんだよ」

 先生からもたらされた正論に対して、僕はそれ以上何も言えない。
 僕だってそんなことはわかっているけど、ちょっとくらい得意げになってもいいと思うんだけど……だって、先輩の力を詳しく知っている人物の一人なのだから。
 僕は何となくさびしくなり、空を見上げた。
 空はもう青さを失い、若干赤みを帯び始めている。そういえば昔、誰かから聞いた気がする……夕焼けが赤いのは、光の色の中で赤が一番遠くまで届く色だからとかなんとか、どこで聞いたんだったか……
 そんなことを考えていてふと思い出した。妹たちを家に帰さなくちゃ。そう思った時に、山田君がおのずと言った。
 
「何だか、僕はもう必要ないみたいですね?」

 必要ないってことはないが、小学生を連れまわすのにも限度があるだろう。ただ、僕たちはまだしなければならないことがある。だから僕は、山田君にお願いすることにした。

「ああ、だけど一つだけお願いがあるんだ……妹を家まで送ってくれないか?」
「え!? 私も帰るの?」

 妹は嫌そうな声を出す。
 だが、今回ばかりは連れて行くことは出来ない。危険だからということもあるが、普通に時間的な問題だ。 父さんと母さんは時間にはめっぽううるさい方で、妹は門限を破ってはいつも叱られていた。妹の性格上、それは一度や二度ではなかったが、ともかく、僕が関わっていると知れば、両親とも二度と僕と妹を会わせることはないだろう。
 だから、僕は何としても妹を家に帰さなければならない。

「当たり前だろう。今からは結構危険なことになりそうだし、このまま連れて行くってわけにもいかないからな」
「……わかった」

 しぶしぶという単語がこれほどまでに似合う表情が作れるのは妹ぐらいなものだろう。本当にひどい顔をしている。
 だが、納得してくれたようで助かった。あとは山田君の了承がもらえれば言うことはない。
 僕は、山田君の答えを確かめるために、彼の方を向きなおした。彼は少しだけうなずいて、僕に対して返答する。

「僕も大丈夫です。家の方角も同じなんで」

 これで、何も心配することはないだろう。実のところ、僕たちにもあまり時間は残されていない。先生がついているとはいえ、高校生が夜間に出歩くということはあまりよろしくないことだからな。普通に先生がもっと上の先生に怒られることだろう。
 僕の心配とは裏腹に、先生は僕の方を見て少しだけにやけ顔だった。

「妹には甘いんだな?」

 一応僕はみんなに甘いつもりだけど、そりゃ妹が一番心配なのは兄なのだから仕方ないだろう。
 先生だって、そんな僕の兄心を理解しているはずだ。
「茶化さない下さいよ、先生。僕はこれでも結構本気で心配しているんですから」
「ふふ、まあいいさ。それよりも葉月、準備は出来ているのか?」
「はい……犯人はわかりました」

 僕だけじゃない、先生も先輩も準備が整ったようだ。

「え? 私まだ何もしていないけど?」

 妹が驚いている。
 まあ、妹はまだ先輩の恐ろしさというやつをまだ理解できていないのだから仕方がない。気がついた時には勝敗が決している――その言葉が本当の意味で使えるのは先輩ぐらいだろう。
 もう妹の心は読まれていた。

「さっき能力の説明をしたときに、妹さんは強く思い描きました。あのときの情景、その鮮明な景色と、言い争う二人の男女。言葉も鮮明に一言一句聞き逃さずにね……どうやら、妹さんはすごく頭がいいみたいですね」
「そうでもないよ……少なくともあなたよりはね」

 先輩の能力を前にして、妹は少し引き気味だ。気持ちはわかるし、それでも先輩の力を目の当たりにしたほかのやつらよりはずいぶんとましだけど、それでも結構失礼だ。
 それにずっと思っていたが、先輩に対する敬意ってものがなっていない。

「おい、もうちょっと丁寧な口調で話せないのか?」

 僕はどうせ無駄だろうと思いつつも、妹に言い聞かせようと試みた。

「そんなこと言われたって、私敬語なんて話したことないし……」

 もちろん、妹の性格柄、難しいのだ。おおらかで、優しく、大雑把な妹には敬うということがよくわからない。その代り誰かを下に見るということもほとんどしない。
 そのことを理解して、先輩は笑ったのだろう。

「ふっふふ、大丈夫ですよ。誠君の妹さんですし、特別にね」

 なんか楽しそうな先輩を見て、少しだけ冷やかしたくなった僕を誰が責められよう。
 僕は怒った姿を見たことがない先輩に対して言い放つ。

「そんなこと言って、あとで怒るんじゃないですか?」
「怒りませんよ! 私そんなに短気じゃありません」
「うーん、まあいいでしょう。妹よ、先輩にため口をきくことを許そう」
「どうして誠君が許可を出すんですか!?」
「えっと、何となく……」

 やはり先輩はノリがいい、僕が適当に言った言葉にもすぐに乗ってくれる。それだけに、僕は思うところがあった。友達がいたらこんなことも気を使わずに言い合えるのかななんて。
 そんな僕たちを見て、妹は先生に何やら尋ねている。

「お兄ちゃんはいつも学校でこんな感じなの?」
「もっとひどいよ、あいつは」
「へえ……」

 妹が何に対して感心したのかわからないが、僕はそこまでひどいやつじゃない……というか、先生の方がずいぶんとひどいじゃないか。
 僕の頭はよく小突くし、いつも僕ばかり注意する。もっと友達のいない僕を気遣ってほしいものですよ……なんて口が裂けても言えないけどね。
 一応僕は不良キャラでとおっているし。

「あまり遅くなってもいけませんし、僕たちはこれで失礼しますね」

 山田君は最後まで礼儀正しく、本当にあの兄と兄弟なのかが疑わしいほどに丁寧だ。ぼくたちのことなんてほっておいて帰ればいいのに、僕たちに挨拶出来るタイミングを見計らっていたようだ。
 そんな礼儀正しい山田君に対して、先生は感動したのか少しだけ目を潤ませているどれだけ苦労しているんだ……僕が言えることじゃないけどね。

「ああ、あいつらが言い争っている隙に帰っちまえ。気づかれたらどうせ長くなっちまうからな」

 いや、僕と先輩の言い争いはもうとっくに終わってるし、二人の会話も聞こえている。

「はい、それでも失礼します」
「またね」
 僕たちにも気を使って挨拶してくれる山田君と妹、本当に、あの兄……いや自分のことを棚に上げて、人を批判ばかりするのはやめておこう。

「ああ、君らはこんな高校じゃなくてもっといい高校を目指すといい」
 
 先生は突然爆弾発言をする。確かに、僕たちの高校はあまり頭のいい学校でもなければ、大した実績がある高校でもない。だが、一応公立高校だということだけは覚えていてほしい。
 あなたも公務員なのだから、自分の学校を応援する義務がアルということを。

「いえいえ、まだまだ先のことなので」

 山田君は苦笑いで、適当にごまかした。
 一応本音では先生と同じことを思っていそうだが、口に出さない分ずっと大人だ。これからもその心を忘れないようにしてもらいたいものだ。

「まあ、もう少し上を目指せってことだ。気にするな」

 先生は半笑で言う。
 確かに、僕だってそう思うけど、これ以上小学生を困らせてやるなよ。
 そんなこんなで、山田君と妹が家路につくのを見送って、僕たちは場所を移動する。空は完全に赤くなり、もうそろそろ日がくれそうだ。

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