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ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟

第16話 兄

「よく来たね。君たちのことはかねがね噂で聞いているよ」

 見た目に反してヤンキーっぽさはない口調で僕たちに話しかけてくるが、どこか人を見下したような鼻につくような話し方だ。だが、話し方で性格が確定するというものでもないだろう。
 もしかすると、内面は山田君みたいにいいやつなのかもしれない。そんな淡い期待をこのときの僕は抱いていた。

「どんな噂かはしらないけど、あまりいい噂じゃなさそうだね?」

 僕は投げやりに言葉を返す。どんな期待を籠めようと、彼からにじみ出る人を見下したオーラあるからだ。
 それもそのはず、彼は完全に僕らを見下している。いわゆるFA差別をする奴らと態度が変わらないのだ。しかし、彼もFAである以上まだ僕の勘違いという線もあった。だが、次に彼が吐き出した言葉によって、それも否定された。

「先生もどうしてこんな奴らをかばっているのかわからないよ。どうせ君たちだって、あいつと同じさ。普通の人間に危害を加えることばかり考えているんだろう?」

 確かに、僕は不真面目で、誰かに迷惑をかけることもあっただろうが、まじめな先輩を同じくくりにすることは許せない。

「お前だって同じFAだろう?」

 僕は怒りを抑えられずに少しだけ喧嘩を吹っ掛けるような口調でそう言ってしまった。
 やれやれ、どうにも僕は我慢というものができない性格なようだ。
 しかし、彼ほど落ちぶれているとは思いたくはない。

「同じじゃないね。僕は大した力じゃない。そこの魔女と違ってね」

 いくら、我慢出来ないとは言え僕はまだ自分を優しい方だと思っていた。だが、どうやらそれは勘違いだったようだ。彼の言葉の節々からは僕ではなく、明らかに先輩を馬鹿にしたような雰囲気が感じられる。
 僕のことだったらまだしも、先輩のことを悪く言うのは僕のはらわたが煮えくり返って思わず殴りつけてしまおうかと何度も思った。
 だが、先輩や先生の御前でそのようなこともできるはずがない。
 僕は優しくはない。だが冷静ではあった。


「わかった。お前が僕たちをどれだけ毛嫌いしようが構わないが、先輩を魔女呼ばわりするのだけはやめろ……どうなっても知らんぞ」
「わかったよ。どうせこんな力を持った時点で、君たちを非難することなんてできないだろうしね。ともかく、君たちが彼女を捕まえてくれるというのなら、こんなに心強いこともないだろう」

 山田兄はいとも簡単に僕の忠告を受け入れた。それは彼の言葉通り、僕たちが味方になれば心強いということもあったのだろうが、それ以上に恐れているからだろう。僕たちの力を認めたからに過ぎない。つまるところ、僕や先輩を信頼しているというわけではないということだ。
 それだけに、先輩は彼の心を読むということが非常に難しのだ。それを悟ってか、ずっと黙り続けていた先輩がようやく彼に尋ねた。

「それで、彼女というのは、誰のことなんです?」
「そうだね……正体はまるでわからない。わかっているのは二つだけ、彼女の能力と、僕を襲った理由」

 しかし、僕の力は先輩のように制約があるというわけではない。だから、彼の言葉が嘘なのか真なのかということは簡単に分かるし、対処もできる。まあ、僕が唯一役に立てる瞬間とでも言うべきなのだろう。

「嘘はついていないようだな」
「当たり前だろう? 嘘をつく意味なんてないからね。……それにしても、君はどうやら嘘を見破る能力のようだね。恐ろしい能力だ。でも彼女やそこの女と比べると力不足だ」

 彼の言うことはもっともだ。彼が嘘をつく意味などみじんもない。ただ、もしかしたらその『彼女』とやらをかばっているなら……とも考えたがそういうことでもないらしい。ともかく彼は、嘘をついていると思ってはいない。
 ただ、彼の先輩を軽んじる言葉の数々に、僕よりも我慢できない人がいた。

「一応言っておくが、お前も、皐月も葉月もみんな俺の生徒だ。だが、あまり口が過ぎると俺はお前を指導しなければならなくなるぞ」

 流石、先生と言ったところだろう。生徒のことを一番よく考えているのが先生だ。ほかの先生なら、先輩をかばうといったことはありえない。誰もが先輩に怯えているからだ。もちろん先生方からFAだとばれている僕も例外ではない。だが、先輩はそれ以上に恐れられている。
 それが魔女と呼ばれたゆえんだろう。しかし、実のところ僕たちは何も先輩と何も変わらない。
 彼だってそんなことぐらいわかっているらしい。

「それもそうだね。実のところ、僕が先輩を非難する資格はないんだよ。先生もそう思っているんですよね?」

 彼の口からそんな言葉が出たのがいい証拠だ。
 何を隠そう、彼も自分の力を忌み嫌うFAの一人なのだから。だが、僕たちは受け入れている分まだましだ。彼は完全に力を敵視している。
 僕たちよりもはるかにましであろう彼がそうなのだ。彼よりもひどい精神の持ち主は多いだろう。何となくだが、僕はそう思った。
 
「俺は生徒を差別しない主義だ。どんな奴でも平等に接する」

 先生はそういう。
 だが、普通じゃない人の中には、先生のような普通の人間の言う言葉を信じられないやつらがいる。山田兄もその内の一人なのだろう。彼は冷や汗をかきながら、先生の方から視線を外す。

「まあいいでしょう。とにかく、彼女だけは止めてもらわないといけないからね」
「さっきから思ってたんだけど、どうして彼女だなんて言うんだ?」

 だってそうだろう。自分を病院送りにしたような奴のことを彼女と呼び、先輩のことを『そこの女』と呼ぶ。どう考えたって違和感しかない。
 そんな僕の普通であるはずの質問をなぜ誰もしないのだろう。

「君はおろかだね。愚かしいといった方がいいかもしれない。まるで僕を見ているようで腹立たしい。興味のないことは聞くべきじゃないと僕はおもうけどな」

 確かにそうだ。僕は実のところ、そこまで興味があったわけではない。誰も聞かないから僕が聞いたというだけのこと、いうなれば、誰も聞かなかったということに興味があったわけで、質問のないようこそどうでもいいのだ。
 
「そうだな、確かに対して興味のあることじゃない。だけど、それなら今回のことはまるで興味があるとは言えないからな」
「そりゃそうだろう。だけど、君は聞くしかない。それが実に愚かだ」
「そんなこと知るか……僕は妹の頼みを聞きに来ただけだ」

 本当に僕の知ったことじゃない。それに話すしかない彼の方がはるかに愚かだ。

「そうなんだろうね……君は僕に似ている。君は僕に同情することなんてない。だからこそ、君に彼女を救ってほしい。彼女は僕の精神操作を解いたのだから……彼女には僕を止めるだけの覚悟があった……だが、僕を殺す覚悟はなかった。彼女も人間だからね。それが彼女を『彼女』と呼ぶ理由だ」

 彼は非常につらそうな面持ちで僕の質問にようやく答えた。聞いてみれば実に愚かだ。彼は自分に危害を加えた相手を憎みながらも、どこか人間味あふれるその相手を憎み切れないといった感じだ。僕なら、その相手を許すことはないだろう。
 僕に危害を加えるということは、僕を大切に思ってくれている存在を傷つけるということだ。なんだかんだ言って、妹は泣くだろうし、先輩や先生も悲しんでくれるだろう。それに幼馴染だって結局のところ僕の心配ぐらいはしてくれるはずだ。あと山田君だって悲しんでくれるかもしれない。そんな風に思うからだ。
 僕は自分の大切なもの以外どうでもいい。だから、彼のことだって実のところはどうでもよくて、なんなら早く帰りたいとすら思っていた。
 しかし、依頼は依頼だ。受けてしまったからには、絶対に達成するのが僕たちFA保護部なのだ。
 そんな僕の心のうちを知らず、彼は僕の目を見つめて続ける。

「僕は考えたよ。彼女が人間のままでいられるように……彼女が僕のようなミスを犯さないように……一体どうすればいいのか……でも僕にはもう思いつかない。僕は人間じゃないから……」

 なんだか、彼はずいぶんと自分のことが嫌いなようだ。だから、自分と同じような僕を嫌っていて、自分よりもはるかに優れている先輩のことはもっと嫌いだと言いたいのだろう。
 だが、僕と彼は絶対に似ていない。それが今回、僕が彼から感じられた印象だ。
 
「そういうことですか……でも、それなら確かに誠君なら解決できるかもしれない」

 先輩はすべてを察したようにそう言った。
 文字通り、すべてのことを知ったということだろう。

「うん……だから君たちにお願いしたんだ。僕の口からは説明出来ないからね」
「わかった。先輩……すべてを教えてください」

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