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ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟

第7話 先輩

「あら、今日は早いですね?」

 先輩はいつも僕よりも早く部室に来ている。今回は掃除があったから、少しだけ遅くなってしまったが、掃除がない日誰よりも早く教室を出ても僕よりも先にいる。
 この人は授業を受けているのだろうかと心配になると気がある。といっても、先生の話では先輩はかなり成績が優秀らしいから僕の心配なんて意味がないのだろうけど。

「先輩こそ早いですね」
「私は部長だから、誠君よりは早く来ないと……。ところで、鼻とおでこが赤いけどどうかしたんですか?」
「ちょっと一悶着ありましてね……」

 いくらなんでも本当のことを話したら先輩に軽蔑されてしまうだろうと、僕は言葉を濁しながらも返答した。

「大事な人材なんですから、体は大切にしてくださいね」

 先輩は優しい。だけど、部員という一種の仲間としてではなく、人材といううわべだけの言葉で都合のよく優しくされている気がして、少しだけ悲しくも思う。
 なんて、これは僕の勝手な被害妄想で、先輩は人を物のように見るような人じゃないからそんなことはありえないんだけどね。

「言っておきますが、全部聞こえていますからね?」

 先輩は半笑でいかにも顔が引きつっている。
 おっと、口は災いのもと。別に言葉にしたわけじゃないけどね。

「いや、僕の脳内妄想ですから、気になさらずに」
「気になります。だってあなたは私が心を読めることを知っているんですから」
「なんというか、軽口みたいなもんですよ。気にするほどのことじゃありません」

 まだ不審な目で先輩は僕を見つめているが、実際適当に思考したことなのだから深い意味はない。
 僕がそう考えていることは先輩にも伝わっているだろうし、これ以上気にする必要性も感じられない。そういった点では心を読める能力というやつも便利かもしれないな。

「そういえば昨日の女性は、心がまるで読めませんでした」

 思い出したかのように、先輩は昨日の話を始める。その女性というのは僕のクラスメートのことだろう。彼女は心を操るFAらしいから、もしからしたら、その兼ね合いもあって心が読めないのかもしれないが、僕もよく彼女のことを理解していないから、本当のところはよくわからないとしか言いようがない。
 僕が口を開こうとしたタイミングで、椅子が倒れる音がしたので思わず僕はビクついてしまった。
 どうやら、先輩が勢いよく立ち上がったため、その衝撃で椅子が後ろに飛ばされたらしい。

「それは本当なんですか!?」

 いつにもなく動揺する先輩だ。きっと、自分と同じような能力者が見つかったことに喜びを隠せないのだろう。
 いや、先輩の形相を見るに、逆な可能性も否めない。
 確かに、バトル展開になれば、彼女は先輩にとってかなり厄介な相手になるだろう。現実にバトルなんて起きるはずがないのが残念だ。

「ふざけてないで答えてください!」
「どれを指しているのかわかりませんが、昨日の彼女が能力者、いわゆるファンタジー生物ということでしたら本当ですよ」

 あまりもの気迫に押されてしまい、僕はいともたやすく答えてしまった。
 昨日のことといい、掃除のときのことといい、僕はどうやら女性に対して免疫というものがこれっぽっちもないようだ。いや、人間に対してなのかもしれない。
 まあ、ボッチにはよくありがちな話だろう。僕の場合しっかりと会話できているだけましだと信じたい。

「どうして今まで気がつかなかったんでしょう?」
「そりゃ、彼女が隠していたからじゃないですか……」
「だったらどうして突然そんなことを誠君に話したんです」

 どうしてといわれても、僕は彼女の心を読めるわけじゃないのでわからないとしか言いようがないわけだ。
 彼女の言葉を信じるのであれば、僕が誰かに話したところで信用する人が少ないからってことらしいけど……。
 よくよく考えれば、彼女は僕に恋愛相談をしに来ただけで、能力の告白をしに来たわけじゃない。
 恋の告白は、きっちりとして言ったけど。

「先輩のことが好きだって言ってたじゃないですか……たぶん自分の能力を僕経由で先輩に知らせたかったんじゃないですか?」
「……そこまで直接的に告白されたわけではありませんし、もとより私は誰ともお付き合いする気はありません」

 先輩はかなりげんなりした表情をしている。
 それも昨日の出来事を考えれば妥当なことで、僕から言えることは一つだけだ。

「ご愁傷様です」

 まさか、僕も昨日のあの展開から、あそこまでの超展開が待ち望んでいるなんて思いもしなかった。百合ってだけでもいささかおなか一杯というところではあったが、それはまだ、許容できるものだ。そういう趣味趣向の人がいたっておかしくはないし、実際のところ、世間では少しずつ認められてきてもいる。――まだまだ全ての人に認められているわけではないけどね。
 ともかく、それ以上に問題なのは、彼女がやはりストーカーで間違いないということだ。彼女は先輩と大して面識もないにも関わらず、一か月間ストーキングし続けてきたみたいなわけだ。もちろん、彼女が直接認めたわけではないし、先輩は一ミリ足りとも気がついていなかったようだ。
 これで、僕はもうおなかがいっぱいだ。これ以上の問題などあるはずがない、そう思っていた時期が僕にもありました。
 まあ、それだけでは飽き足らないというやつだ。

「まさか、あんなことになるなんて……」
「私なんて、ただ部室の戸締りをきちんとしているか確認に来ただけですよ」

 確かに、直接被害を受けているのも先輩で、一番衝撃的なのも先輩だろう。でも一番長い間彼女と一緒にいたのは僕方だから、実際的には僕が一番被害をこうむったといっても過言ではない。
 いやむしろ、僕だけが被害者だ。

「何を思ったのやら、突然僕に対してキスするなんて……」
「そんな現場を見せられた私の方が衝撃的ですっ!!」

 いや絶対僕の方が衝撃的だよ。何より、そのあとで別の人が好きだと聞かされた時の僕の精神が一番衝撃を受けていたよ。
 しかもストーカーのようなディープなラブだ。ある意味では最も深い。そして不快だ。

「あのあと、ちゃんと弁解して謝ってくれたからいいけど、あの一瞬で彼女のキャラは僕の中でクールな頭のおかしな女性というキャラから、頭のおかしい女性というキャラになっちゃいましたよ」
「頭がおかしいっていうのは変わらないんですね?」
「だって、考えたことあります? その日初めて会話したような女性が、お互い好き同士でもない相手とキスするって展開……それはまさに糞ですよ。ある意味業が深い」

 彼女から聞いた話では、『好きな人が目の前に現れたらテンパっちゃって……』らしいが、どんだけ、動揺したら、全く関係ないやつとキスなんてできるのだろう。
 だめだ、これ以上考えても僕が恥ずかしいやつにしか思えない。
 まさか、彼女の恋の相手が自分だなんて勘違いしてしまった僕を誰も責められないだろう。だが、僕は攻めたい。あの一瞬で回避行動をとれなかった僕自身を殴り飛ばしてやりたい。いいや、殴り飛ばそうとしている僕を殴り飛ばしたい。
 だって、これから先の人生で女性と接吻することなんてたぶんないもん。

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