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色災ユートピア

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2.貰い物


「じーぃ、じーぃ!ゆき!」

はや数ヶ月、赤子はすぐに成長した。
人間と比べてずっと早い成長だ。
歩くことはまだ出来ないが、それより先に口の方が発達した。

赤子を拾ったナナキ・ハヤセは、その赤子にセン、と名付け、たいそう可愛がった。

「どうりで寒いわけだ。さ、じいじと一緒に美味しいみかんでも食べようね。」

「ん!」

こたつで暖まりながら、みかんを頬張る。

「あま!」

「甘くて美味しいねぇ。」

一つ、二つ、果汁が弾ける。
まるでジュースでも飲んでるような感覚だ。

小さな一室の、冬によく見る風景。
そこには、幸せな時間が広がっていた。




クリスマス、お正月、ひな祭り、ハロウィン…こちら側に呼び出されたとある人間によって、異世界の様々な行事が取り込まれて、早くも数年。
幸福が均一化されつつあった人間に、新たな楽しみと幸せな時間が生まれ始めた。

最近では、異世界に行く確率も徐々に確立されてきているという。
もっとも、異世界に行こうがそんなもの無意味でしかないが。

「…………?」

いくつか季節が過ぎて、センは一般的な子供らしく成長した。

「じーぃ、どこー?」

…現在地はアウトサイダーの領域。
この空間は人間を変質させる力がある。
大半が人間の持つ理性を失い、迷い込んだ人間を殺して楽しむのだ。

そして、この領域にはアウトサイダーと呼ばれる存在がいる。
このアウトサイダーは領域に迷い込んだ人間を殺し、変質させ、自分自身の玩具にする。
飽きたら殺し…そうして人ならざるものを生む。

「ん…あっちかな。」

細胞に刻まれた誰かの記録を元に、センは歩き出す。
荒野を歩き続けて、ふと歩みを止める。

『あっ、ようやく来てくれたんだね!』

エコーがかった声が聞こえる。
振り返ると、そこには影が立っていた。

『前回は二人とも横から攫われちゃったけど、やっぱりあっちの世界は酷い世界なんだね!ね、そう思うでしょ?だから来てくれたんだよね?』

「…アウトサイダー。」

周りを見渡すが、来たのはこの一体だけだ。
センは近付き、いきなりアウトサイダーの首を掴みあげた。

「確か、殺さなきゃいけないんだよね。そう記憶されてるから、殺すね。」

赤黒いナイフを握りしめて、アウトサイダーの首に突き立てた。
それとほぼ同時だっただろうか、首を掴みあげていた腕に、酷い痛みを感じた。
何かと思い見てみれば、黒い何かが巻き付いている。
それは右手、右足、左足にも巻き付き、痛みを発症させた。

だが、センは無表情でそれを見つめるだけ。
痛いとも言わず、泣きもしない。

何度も、何度もナイフを突き立てて、痛みもそれに伴い強くなっていく。
アウトサイダーの断末魔が聞こえなくなる頃には、もはや手足がぐちゃぐちゃに崩れていた。
血がぽたぽたと落ちるが、不思議と死ぬような感じはしなかった。
あぁ、盗られたなどと呑気に考え、どうやって帰ろうかと記録を辿る。

「…お兄、ちゃん。」

ナイフを見る。
記録を辿れば、それがS.0と呼ばれた人物のものであることが分かった。
連鎖的に、記録が思い起こされる。

「お兄ちゃん、助けて。動けないの。」

自分自身の兄ではない。
自分自身を造るにあたり、元になった人物たちの兄だ。
だから、自分自身を救ってくれる理由もなく、助ける理由もない。

さすがに無理か…そう思い、諦めて這いずり回ろうと覚悟したその時、ひょいっと体が持ち上げられる。

「やぁ、ごきげんよう。」

キラキラと輝く、長い銀色の髪。
少女と見紛うような顔立ち。
センを抱き上げたその人物は、優しげな…それでいて、寂しげな笑みを浮かべていた。

「可哀想に、アウトサイダーに盗られてしまったんだね。手当するから、少し待ってて。」

そう言うと、浮遊感の後、一瞬で景色が変わった。
血で汚れることも気にせず、センをベッドの上に座らせて、救急箱を持ってくる。

「かくり、お兄ちゃん?」

「そうだよ、よく分かったね。それとも、細胞に刻まれた記録ってやつかな。」

「他のお兄ちゃんは?」

「僕一人残して、みんな死んじゃった。」

テキパキと手当する、かくり

「お兄ちゃんはどうして生きてるの?」

「…君に、渡すものがあってさ。それを終えたら、僕も消えるよ。」

「そう、今までお疲れ様。でも、その前に聞かせて欲しい。」

「君が造られた理由?」

「それは理解してる。分からないのは、元になってくれた人たちのこと。じーぃ、時々すごく悲しそうな顔をする。」

「そっか。」

手当を終えて、救急箱をしまう。
幽は近くにあった椅子に座り、話し始めた。

「君の持つ細胞の記録は、闇纏やみまとい 赦無しゃな闇纏やみまとい 白理はくりという名前の双子のものだろう。僕は二人のお兄ちゃんだった。その上に、生まれられなかった0番目の兄がいる。」

「それが、S.0センチネル・ゼロ?」

「そう。今はもういなくなってしまったけど。僕はそのゼロに…零兄さんに、託されたものがある。でも…僕はもう、疲れた。理解してしまったんだ、どうやったって"約束"を果たせないことを。」

「"約束"…?」

「僕は…あの二人を、守らなきゃいけなかった。守ってあげたかった。僕が死んだって、二人が生きていてくれるのなら、僕も兄さんも、報われたんだ。でも…どうしたって、二人は助からない。この世界は、もう、これ以上進まない。」

「どうして分かるの?」

「僕が、それを見たから。この世界は、この先の時間を失い、立ち止まったまま。結末は同じ。僕たちは負けたんだ。いくつもあるパラレルワールドの、その選択を勝ち取れなかった。」

「パラレル…ワールド。」

言っている意味が理解出来るかと言われれば、なかなか理解が追いつかない。
だが、これで細胞に刻まれた記録が誰の人生だったのか、理解した。
そして、拾って育ててくれたナナキが、どうしてそこまで悲しい顔をするのかも。

双子の人生は、決して良いものとは言えなかった。
二人は愛を理解出来ない異常者だ。
だが…それでも、子供らしい純心が、愛してくれる人を呼び寄せたのだろう。

「"やり直す"気も失せてしまった。君は、この世界を捨てて逃げてもいい。この世界の人間は、とうの昔に救いを放棄したんだ。」

「それってどういう…?」

「すぐに分かるよ。君がこの世界の…人間の道具に成り下がることはない。細胞を掛け合わせて造られた人工生命であっても、君の命だ。君の好きなように使うといい。」

優しく頭を撫でられる。
また、酷く懐かしさを感じる。

「僕はもう疲れた。この世界で、みんなと一緒に眠るよ。零兄さんからは時間遡行の力を。赦無と白理からはその肉体と記憶と、闇纏の名前を。そして僕からは、僕の持ち得る全ての力と感情を。」

ふと、オブザーバーが言っていたことを思い出す。

時。
それはきっと、今を指している。

「おやすみ、。僕らの可愛い弟妹おとうと。君の旅路に、至福があらんことを。」

次々と流れ込んでくる記憶、そして感情。
幽が諦めた理由、深い絶望。

頭が割れそうなほど痛い。

だが、幽からもらった記憶のおかげで、幽の言っていた意味が分かった。
幽の言う通り、人類は救いを放棄している。
比喩でもなく、確かに。
たとえそれが先祖が犯した愚かな選択であっても、人間は我が身の可愛さと一時的な平穏のために、幸せな未来を破壊し、苦しみ、救いのない世界で生きることを選択したのだ。
そうして、その犠牲になったのが、零邏、幽、赦無、白理だった。

「…そっかぁ、お兄ちゃんはすごく苦しんでたんだね。独りぼっちで、を逃がすために、ずーっと待っててくれたんだね。」

ぽたりぽたりと、目から零れる涙。
だが、無表情だったその顔は、今では笑っている。

「僕…僕は、じーぃを守る。じーぃが死んじゃったら、きっと、お兄ちゃんにもらった感情を返しに行くから。それで、生きてるお兄ちゃんとお姉ちゃん、連れてくるから。僕が、お兄ちゃんの"約束"を守るから。だから、ゆっくりおやすみなさい、お兄ちゃん、お姉ちゃん。」

兄と姉からのもらい物で成り立つ存在。
唯一自分のものであるのは、自身の人格のみで。
空虚だと思わずにはいられなかった。
それでも、否定しない。
全てをもらい、造られた生命であっても、それらを掛け合わせて生まれたのが自分自身なのだから。

気が落ち着くまで涙を流したセンは、ゴシゴシと涙を拭った。
これ以上ここにいれば、ナナキが心配してしまうだろう。

手足を具現化させ、武器を持って部屋を出た殲は、領域を脱出するために、走り出した。

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