色災ユートピア
29.誕生日
「あはは!雪!積もりました!雪だるま作りましょう!」
「うん、防寒対策をしっかりしてね。」
翌日。
赦無と白理は、ディープ・ネロの本拠地の外で、楽しく遊んでいる。
無邪気にはしゃぐ姿を見て、ナナキは嬉しそうに笑っている。
「それで、僕らを呼んでどうしたんだい?」
S.0、S.10、咎喰、そして枉徒。
四人はナナキに呼ばれて、本拠地のとある一室に集まっていた。
「いや、実はさ、色々ごたごたしててやってなかったけど、何だかんだでもう数年は経つんだよなぁと思ってさ。」
「あー、もうそんなに経ったのか。」
「それで、まだあいつらの誕生日とか祝ってやれてなかったし、今この時こそやるべきだと思ったんだ。でも、俺一人じゃあやれることなんて少ないし、あの二人が何を欲しがるのか全く分からないし、お前たちに意見を聞きたかったんだ。」
「ついでに飾り付けも手伝ってもらおうって魂胆でしょ。」
「バレてら。」
「いいよ、暇だし。」
「お誕生日会ですね!楽しみです!」
「二人が欲しがるものかぁ。」
「十中八九、というか完全にあれでしょうねぇ…。」
枉徒とナナキは首をかしげる。
だが、答えを聞いて納得した。
「なるほどな…、確かにそうだ。よし、まずは一つ決まったな。」
「あとは美味しいケーキなんか準備して、夜更かしタイムと洒落込むか。」
「お任せ下さいゼロ、一番いいのを用意しておきます。」
「この武器万能すぎる…。」
思わずツッコミを入れたナナキ。
こうして、S.10と咎喰の協力もあって、イベントの当日まで二人に気付かれることなく、円滑に準備は進められた。
そして、ついに当日。
「枉徒、今日の晩御飯は?」
「今日はすっごい豪華ですよ、楽しみにしていてください!」
赦無と白理を連れてきた枉徒。
二人はよいしょっと扉を開ける。
その時、パンッと何かが弾けた。
「「「「ハッピーバースデー!」」」」
パッと明かりがつき、豪華に飾り付けされたバースデーケーキが目に飛び込んできた。
「え…なにこれ、みんな頭でも打ったの…?」
「お医者さん呼びます…?」
「違いますよ、赦無さんと白理さんのために、みんなで頑張って用意したんです!さ、席に着きましょう!」
枉徒は二人を座らせて、自分も席に着いた。
「えー、今回このようなイベントを設けさせていただいたのは、二人がここに来て数年経つからです。色々ごたごたしてて、ろくに歓迎会なんかも出来てなかったしな。と、いうわけで改めて誕生日会として開催することにしたわけだ。」
「俺たちもお前たちには世話になってるからな。たまにはこういうのも悪くないだろう?」
「誕生日……。」
誕生日を祝われたことすらない二人には、理解し難いことだった。
「そういうわけなので、今夜は眠れると思わないことですね〜。夜更かし万歳。」
「ちなみに情報提供は僕からだよ☆」
時間遡行もたまには役立つねぇ、と笑うS.10。
キャパシティオーバーで固まっていた二人だったが、徐々に慣れ始めたのか笑顔を浮かべた。
「よし、準備はいいか?それじゃあ火を消してくれ。」
二人は一緒に、ふうっと火を吹き消す。
おめでとう、と拍手と一緒に声が上がる。
ケーキを食べて、お菓子を食べて、シャンメリーを開ける。
楽しそうな笑い声が響き渡る。
「ちゅうもーく!ナナキお兄ちゃんからプレゼントがありまーす!」
「はい、手を出してください。」
二人は椅子から降りて、ナナキに近付き手を出す。
まず手渡されたのは、賞状のような紙だった。
何だろうかと首をかしげていた赦無と白理だったが、内容を理解すると、目を輝かせた。
「これって…!」
「そ、銃の使用許可証。こんな物騒なもんがプレゼントで悪いけどな。」
「ううん…ありがとう…!」
赦無も珍しく興奮している。
よほど嬉しかったのだろう。
ナナキから直々に渡されたとなれば、その効力は他の許可証が霞むほどだ。
「お前たちの身分証にも記載しておいたからな。今度からはどんな時でも銃を使っていいぞ。お前たちなら、銃で人を殺すマネはしないだろ。」
「ありがとうナナちゃん…!」
「大好きです、ナナちゃん!」
ぎゅうっと二人はナナキに抱きついた。
まさかそこまで喜んで貰えると思わなかったナナキは、照れくさそうに笑った。
「写真撮りましょう!記念に!」
「お、いいな!後でその写真くれよ!」
カメラをセットし、赦無と白理を中心に固まる。
「よーし、撮るぞ!」
パシャッ、と音が響いた。
写真を確認すると、そこには幸せな空間が広がっていた。
夜が明けるまで、騒ぎは続く。
翌日の昼を過ぎるまで誰も起きられなかったのは、また別の話。
誕生日会も終わり、赦無と白理のメンテナンスも終わった。
また、今日から仕事は始まる。
ディープ・ネロは現在、領域内にあるセンチネルの拠点に来ていた。
「おはようございます、ゼロ。」
「いらっしゃいますかー?」
S.0がこもっている建物の外から声をかけると、ひょっこり窓から顔を出した。
「おー、おはようさん。ちょっと待っててくれ。」
S.0は再度引っ込み、少ししたら玄関から出てきた。
「悪いな、こっちのいざこざに協力してもらって。」
「ゼロにはお世話になってるから、困った時はお互い様。」
「よし、それじゃあ行くか。…行くかぁ……。」
「何だか乗り気じゃないですね?」
枉徒は首をかしげる。
そういえば、とふと思い出す赦無。
「"施設"について、話を聞いていい?」
「おー、そういう約束だったからな。そんじゃ、暇つぶし程度にでも話すかぁ。」
四人は歩き出す。
道中、"施設"についてS.0が話してくれた。
「俺が"施設"を見つけたのは、いなくなった妹…つまり枉徒を探していた時だった。昔からその場所について良くない噂はあったんだ。」
「噂…ですか?」
「そうだ。家に囲まれるように、中心部に鳥居が建ってるんだが…そこに行くと、神隠しにあうとか、そういう良くない噂だな。俺は枉徒を探して走り回っていて、そこに迷い込んだんだ。今から行く領域は"思海"って場所だ。鳥居を越えた先に"深海"が、そのさらに奥に行けば目的地の"施設"がある。」
「へぇ、海を越えるの?」
「海って言っても普通に呼吸出来るけどな。魚も泳いでるぞ、真っ黒だけど。」
「美味しくなさそうですね。」
「まずいだろうなぁ、あれは。」
「食べられるんですか……。」
想像もつかない。
と、いうか真っ黒い魚は食べたくない。
「それで、たまたま俺は"深海"を越えて"施設"を見つけたんだ。そこから電力やガスなんかが供給されてるってのは、その時初めて知った。そこは一人のアウトサイダーによって統一された場所で、悪くいえば隔離されてる。」
「隔離、ですか?」
「あぁ、そこにいるアウトサイダーは一回も外に出たことがない。"施設"にずっと閉じ込められてる。何も望まないし、何も嘆かない。まるで人形みたいなやつでさ、頭はいいけど大人の操り人形だ。」
「ゼロは、そのアウトサイダーは嫌いじゃないって言ってたよね。」
「嫌いじゃない、そいつはな。常識知らずだけど、悪いやつじゃないんだ。俺が嫌いなのは、そいつの側近。どういう思考回路をしてるのかまったく分からん。」
S.0は渋い顔をしてそう告げた。
きっと、よほど理解不能な人間なのだろう。
「出会った途端にお嬢様と結婚しろだのなんだの騒ぎ始めてさ、危うく"施設"に監禁されるところだったよ。その時は仲間がいたから助かったけど。その後逃げてたら身に覚えのない逆恨みをされて、"施設"の爆破に巻き込まれるし…。」
「うわぁ……。」
「前々から思ってましたけど、ゼロって本当に運がないですね。」
「うるさいやい。」
ドン引きの赦無と枉徒、白理は面白そうに笑っている。
運がないことは事実であるため、S.0は言い返せなかった。
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