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色災ユートピア

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28.ひとまず終息

「そんな…嘘……。」

「お父さんは私たちを騙してたの…!?」

咎喰を通して覗き見をしていたシーリスとシオンは、唖然としていた。

「アルフ族は別の族とのいざこざがトップ件数だから。同族だと何も起こらないんだけど。」

「これであの自称父親が父ではないことの自白が取れましたね。後はサラマンドラ族の長さんたちとの血縁関係を調べれば、証拠が揃います。」

「ッ…あんたたち、よくもまぁそんな他人事みたいに…!」

「他人事でしょ、俺たちは君たちに事実を見せて伝えてるだけ。それの何が悪いの?」

「もう少し人の気持ちを察してくれたっていいじゃないの…!」

シーリスは泣くのを堪えて叫ぶ。
だが、愛してくれる親がいない二人にとって、それは理解し難いことだった。

「知らないよ、君たちの気持ちなんて。愛してくれる実の親がいる君たちの気持ちなんて───」

「実の親にすら愛してもらえなかった私たちに、分かるわけないじゃないですか。」

シーリスとシオンは息を飲んだ。
新人類は力もあり、サラマンドラ族といえば人情に厚い。
比較的親に愛されて育つ子供は多かった。
だが、旧人類は力もなく、自分さえ助かればいいという人間が多かった。
そう、愛されずに育つ子供はそう珍しくはないのだ。
シーリスとシオンは、それを知らない。

「だから、君たちの父親が違ってたとか、そういうので悩んでるのが馬鹿らしく思えるよ。愛してくれる両親が生きてるならそれでいいじゃん。」

「あんな人間は死んで当然なんですから、あの人間が悪い人間だと知れただけでもいいじゃないですか。」

何を思うわけでもない赦無と、いつものように笑う白理。
そんな二人を見て、シーリスとシオンは何も言えなくなった。




アルフ族の人体実験、及び非人道的な行いは公になった。
それにより、ウンディーネ族やエルフ族、サラマンドラ族からの貿易は一時的に中断され、外部からの供給は絶たれつつあった。
人体実験で使われていた子供たちの遺体は、遺族の元へ帰され、遺族がいない孤児は手厚く供養された。

S.0とS.10はこれを機に領域に帰還。
ちょくちょく表世界に誘われ、遊びに来るようになった。
それからしばらくして、サラマンドラ族の長から、ナナキ宛に手紙が来ていた。

「今度一緒に食事でもどうか、だとさ。行かないのか?」

「別に、感謝されたくて助けたわけじゃないから。」

「今まで通り成り行きで手を出して、勝手に解決したことにしているだけが一番いいです。」

二人はあまり乗り気ではないらしく、会いたくないようだ。
まぁ、あんな別れ方をすれば分からなくもないが。

「そっか…まぁ、気分が乗ったらいつでも言ってくれ。」

「うん。…そうだ、ナナちゃん。俺たちこれから少し学校が休暇にはいるんだけどさ、休みもらってもいい?」

「あぁ、いいぞ。最近忙しかったろ、ゆっくり休めよ。」

「ありがとうナナちゃん。」

「それにしても休暇をもらうなんて珍しいな。白理なんて以ての外だし。」

「実は肉体のメンテナンスをしなければいけなくなりまして。それにあたって、無理に成長させていた肉体も、一時的に元に戻ります。」

「へぇー…え?」

「一種の健康診断みたいなもの。やっぱり異常が見つかったら怖いし。気は進まないけど安心するためには、ね。」

「お前たちでも健康診断って必要なんだな…。」

「まだ若干人間の反応は残ってますからね。事情を知っているお医者さん…?に、枉徒ちゃんと一緒に診てもらうことにしました。」

「まさかとは思うが、変人の集まりで有名な、あの医者軍団じゃないよな?」

「大丈夫です、中でも比較的マシな人間を脅し…選びましたので。」

「あっ違う、こっちの方がやべーやつ。」

言い直した意味とは。
ナナキは真顔でツッコミを入れた。

「そういうわけだから、明日から数日間、小さい俺たちをよろしくね、ナナちゃん。」

「まぁ、小さくなるのは私とお兄様だけなんですけど。枉徒ちゃんは任意で姿を変えられますし。」

「そっか。そう思うとお前たちってわりと不便なんだな。」

「でも、人間と違ってトイレに行くこともなくなったから、楽といえば楽。」

「おねしょしなくて済みますね!」

「それはちょっと羨ましいかもしれない…。」

夜中にトイレに起きなくていい、つまり睡眠時間の確保が出来る。
若干、魅力的ではある。

とまぁ、大人気アイドルのストーカー事件やら、アルフ族の人体実験やらの騒動が解決されたことで、ナナキと赦無たちはひとまず体を休めることに専念することにした。




翌日、ついに赦無、白理、枉徒のメンテナンスが始まった。
赦無と白理は結果が出る数日後まで、肉体の成長は(二度手間になるので)控えている。

「なんで!?なんで俺!?」

そして、本来の姿に戻った幼子二人のお目付け役に、S.0が連れてこられた。

「いやぁ、まさか精神も若干退行するとは思わなくて…。ここまで幼いとは思っていなかったので、この状態だと色んなことに支障が出ますし。それにしてもとっても可愛いですよね。」

「だからってそんな抱きついてもダメです!」

「遊ぼ、ゼロ。」

「遊びましょ〜。」

「ゼロお兄ちゃんさんは、お二人に懐かれてますね〜。」

ほんわかしながら見守る枉徒は、まるで母親のようだ。
いつも以上に甘えてくる二人にS.0は振り回される。

ディープ・ネロの本拠地で追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり。
とにかく動き回ったS.0は、夜になればぐったりとしていた。

「つ…疲れた…体力底なしかよ…。」

「お二人とも、この後気絶するみたいに寝ちゃうと思いますよ。」

S.0が来て泊まることも当たり前になってからは、S.0用のバスタオルやら着替えやら、歯ブラシやらが置かれるようになった。

「それにしても、とても楽しかったですね。」

「んー、まぁな。たまにはああいう遊びもいいかもな。」

枉徒が持ってきてくれたバスタオルと着替えを受け取り、風呂場に行ってシャワーを浴びる。

シャワーを浴び終えて、食事を取り、茶碗を洗い、洗濯を干して、歯磨きをして、残るは自由時間。
いつもならここからさらに、ボードゲームなんかが始まるのだが…。

「んー…。」

眠たげに目を擦る、赦無と白理。
やはり、幼い肉体が追いつかないのだろうか。

「眠いのか?」

「ん…。」

赦無は短く返答し、ぷわっと白理はあくびする。
S.0は二人を抱えると、ベッドまで運ぶ。

「ほら、寝るまで一緒にいてやるから。」

「やだ…ぜろもいっしょ…。」

「仕方ないなぁもう。」

仕方ないと言いつつ、やっていることは完全に母親のそれである。
赦無は左側、白理は右側に、S.0を挟むように寝っ転がる。
少しすれば、規則正しい寝息が聞こえてきた。

子供の体温は随分と温かいもので、体力が減りつつあったS.0も、次第に睡魔に襲われる。

「あれ、川の字で寝てる…。」

ふと、枉徒の声が聞こえた。
だが、意識が夢半ばのS.0には、正常な判断は出来ない。

「枉徒も、おいで。」

手招きをするS.0。
この時の枉徒がどんな表情をしていたか、その場にいた者は誰も知らない。
少しすると、枉徒もいそいそと布団に入ってきた。
S.0は満足気に枉徒の頭を撫でて、そして眠りに落ちた。




「と、いうことがあったんですよマスター。微笑ましいですね。」

「盗撮とは我ながら趣味が悪い。」

"施設"内部にある、とある地下室に響くノイズがかった声。
そこにはアウトサイダーによって幽閉された存在がいる。
エクリプス・メア、そう名称された人物であり、S.10から別れた、力の具現、もう一人のS.10である。

「可愛いですよね、昔を思い出します。はい、こちら新しい本です。」

「…………。」

エクリプス・メアは本を受け取り、読み始める。
やることがないため本を読んでいるうちに、いつの間にか地下室は図書室に変わっていた。
朝起きて本、昼も本、寝るまで本、ほぼ一日中、おはようからおやすみまで読書が続く。
飽きないのかとも思うが、何もしないよりは有意義な時間だと思っているのだろうか。

「……"あれ"が予想以上に早く動き始めた。状況は芳しくない。さっさと殺させろ。」

「分かっていますよマスター、赦無に排除させたらいいんでしょう?そのための計画は滞りなく進められていますよ。ですが…アウトサイダーも余計なことをしてくれますね、"あれ"はセンチネルの僕が確実に殺したはずですが。」

「…良かれと思ってやっているだろう、余計な世話だがな。」

「後で伝えておきます。」

「お前は赦無を監視しろ、白理はアイツに任せる。」

「分かりました、それでは失礼します。」

咎喰は部屋の外に出る。

(もう少し…もう少しで終わる……終わらせなきゃ…。)

赦無と白理を監視するために、"施設"を出て表世界へと向かった。
一人の呪いと約束によって紡がれた奇妙な運命は、少しずつ真実を手繰り寄せ始めていた。

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