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色災ユートピア

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22.転生の呪い

「村に産まれた兄妹たちは、お互い助け合って暮らしていました。長男はしっかり者のムードメーカー。その頭の良さから、村人によく頼られていました。」

「次男は臆病だけど優しい子、子供たちと一緒に遊んでくれる近所のお兄ちゃんでした。」

「三男は物静かな双子の兄、奇想天外な発明をすることがよくある変わり者でした。」

「長女の双子の妹、末っ子の彼女は、お転婆で活発な女の子でした。突拍子もないことをするものですから、村の人たちには笑顔が絶えませんでした。」

ふと、何処かで聞いたことのある話だ。
S.10は目を細める。

「長男はとても強く、村を襲う怪物から、村を守っていました。次男は率先して、子供たちの避難を行う子でした。」

「双子は獣が農作物を食い荒らさないように手伝うのが役割でした。村は、働き者の兄妹たちによって、守られていました。」

「ですが…そんな兄妹たちの邪魔をする人間がいました。」

その言葉に続いて現れたのは、綺麗な黒い髪が特徴的な女性役の生徒だ。

「それは、兄妹たちのお母さんです。兄妹たちのお母さんは、とても酷い人でした。」

「お母さんは、臆病な次男に強く当たるようになりました。毎日、毎日、他の兄妹がいないところで叱りつけて、叩きました。」

それから場面が変わり、布団で横たわる次男が出てきた。
見覚えがある痣だ、つまり次男役は白理ということになる。

「次男は、どんどん体調が悪くなっていきました。やがて、布団から起き上がることも出来なくなります。」

「他の兄妹たちは心配になりました。三人は代わる代わる次男の様子を見に行くようになりました。」

「一番初めに異変に気が付いたのは長男です。いくら臆病とはいえ、小さな物音、人影にさえ怯えるようになった次男に不信感を覚えました。」

長男役の生徒は赦無のようで、ナレーションに沿って動いていく。

「可哀想に、どうしてそんなに脅えているんだい?」

「怪物が…恐ろしい怪物が……」

「大丈夫、お兄ちゃんが絶対に守るから。約束だ。」

二人が抱き合い、明かりが暗転する。
まるで人形劇のように、話は進んでいく。

「次男は次第に元気を取り戻し、また子供たちと遊ぶようになりました。怯えることは多少ありましたが、それでも以前より回復していたように見えました。」

「ある日、次男は長男の仕事を手伝うことにしました。長男は快く引き受けて、次男と一緒に怪物退治に向かいました。」

怪物役の生徒が数人、中には自衛団の生徒も混じっている。
怪物役の生徒が襲いかかる。
赦無はひょいっと避けて、切ったフリをする。

「ぐわああああっ!」

怪物役の生徒は、断末魔をあげてその場に倒れた。
白理はというと、防御一択だった。
おそらく、次男は戦い方を知らない。
相手を殺す非常さも持っていないし、そもそも傷付ける心も持ち合わせていないだろう。
だからこそ、防御しか出来ない。
白理はとても良く演技をしている。

「長男の手を借りて、次男は何とか怪物を撃退することに成功しました。長男の強さに憧れた次男は、強くあろうと稽古を始めました。」

「次男は日に日に、力をつけていきました。やがて、長男と肩を並べるほどの、村が自慢する護衛兵となりました。」

「ですが、お母さんはそれが気に入りませんでした。ある日、お母さんは次男を一人、呼びつけました。」

「お前は本当の子じゃない、別の男の子供だ!家から出ていけ!汚らわしい!」

ヒステリックに叫ぶ母親役の生徒も、中々の演技力だ。
S.0は目を輝かせながら見ている。

「それを聞いた次男は、酷くショックを受けました。トボトボと部屋を出て、家を出て、村の外れでひっそりと泣いていました。」

「夜になっても帰ってこない次男。不思議に思った兄妹たちは、お母さんが引き止める声も聞かず、次男を探して村の中を探し回りました。」

「しくしく、しくしく、次男の涙は止まることなく流れ続けました。何が悲しいのかも分からなくなってしまうほど、泣き続けました。」

「喉が乾いて、目が真っ赤に腫れて、お腹がくうくう鳴っても、帰ることが出来ませんでした。」

「そんな次男をついに見つけた兄妹たちは、急いで駆け寄りました。」

「そんなに泣いてどうしたんだい?」

「悲しいことでもあったの?」

「辛いことでもあった?」

双子役の生徒は、次男役の白理に抱き着いた。
よく見ると、双子役の妹の方は、枉徒がやっているようだ。

「心配そうに兄妹たちは近寄ります。足は泥だらけで、体は冷えきっていました。」

「それでも諦めずに探してくれた兄妹たちを見て、次男はまた泣き始めました。」

「僕…僕は、お母さんの子供じゃないって…別のお父さんの子供だって……、僕だけ、仲間外れなの……?」

「そんなわけがない、お前のお兄ちゃんは俺なんだから、お前は俺の弟だ。」

「血が繋がってなくたって、僕たちは一緒だよ。」

「血が繋がってなくたって、私たちは家族だよ。」

「お母さんから産まれてきたのは間違いないんだから、お前は俺の弟で」

「「僕(私)たちのお兄ちゃんだよ。」」

次男役の白理は顔を上げて、笑った。
正直、白理が演技上手なのは誰もが意外だった。

「…ありがとう。」

「次男は、ようやく笑いました。そして、手を繋いで、三人と家に帰りました。」

「───ですが、お母さんはいませんでした。」

明転し、そこに居たのは───
真っ黒い、巨大な怪物だ。
作り物にしてはリアルすぎる。

「代わりにそこに居たのは、怪物でした。」

赤い目が爛々と四人を見つめている。
異常を感じた赦無と白理は、あくまで劇を続ける。
取り乱さないよう、悟られないよう、気を使って。

「なんと、お母さんこそが怪物だったのです。双子は怯えて固まってしまいました。」

「二人とも逃げろ!」

双子役の枉徒と生徒は、役に沿って逃げた。

「長男は叫びます。双子はその声に驚き、急いで外に逃げました。そして、大人たちに助けを求めました。」

「尋常ではない様子に、村人は男たちを集めて、急いで怪物の出た家に向かいました。既に家はボロボロになっており、屋根は吹き飛び、壁と床がかろうじで残っている程度でした。」

パッと舞台が変わる。
大人役の生徒たちが、ゾロゾロと出てくる。
怪物は奇声を上げてこちらに向かってくる。
その動きはあまり早くない。

「村人は戦い続ける兄弟を見て、次々と武器を持って加勢しました。何度吹き飛ばされても、諦めませんでした。」

生徒たちは勝手に吹っ飛ばされる演技をして、立ち上がり、怪物に立ち向かう。
その場にいた生徒たちは、誰もが作り物だと信じて疑わなかった。

「怪物の動きは次第に鈍っていきました。ここぞとばかりに村人は総攻撃を仕掛けます。」

生徒たちは次々と怪物に殴り掛かる。
危険な攻撃は赦無と白理で捌きつつ、的確にダメージを与えていく。

「ギィィィアアアアアアア!!!!」

怪物が、一際大きな叫び声を上げた。
赦無と白理はアイコンタクトを行う。

「今だ!!!!」

赦無の合図で、白理は空中に跳ね上がった。
怪物は白理を握り潰そうと腕を伸ばす。
白理はその腕を踏み台にして、さらに加速する。

「これで、終わりです!」

白理が怪物の首を切り飛ばした。
ゴトン、と首が落ちる。
白理は崩れ落ちる怪物を眺めていた。

───何かが、おかしい。

そう悟った時にはすでに、逃げるには遅すぎた。
液体状になった怪物は、白理に襲いかかってきた。

「白───!」

手を伸ばしたところで間に合わない。
白理は唖然として動けない。

「……救いなど、なかった。」

エコーがかった声が聞こえ、パァンッ、と怪物が破裂した。
飛び散ったそれは、床や周りの人間に付着する前に、消えた。

「何も、救えない。何も、成し遂げられない。"これ"は本来、そういう結末だ。」

周りを見回すと、誰一人、人間は動かない。
まるで時間が止まったかのように。

白理の背後、そこには大規模な襲撃事件の時にやって来た、謎の人物がいた。
だが、あの時のような憎しみや殺意は感じない。

「…だが、同時に、お前たちにとって"これ"は不要なものにすぎない。お前たちには、"誰かが欠けた時間"など、不必要だ。」

その会話は、白理と赦無にしか聞こえなかっただろう。
仮面をつけた謎の人物はそれだけ言い残すと、また霧のように消えた。

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

「───こうして、恐ろしい怪物は打ち倒されました。」

アナウンスが聞こえ我に返ると、先程通り人間は動いている。

「村人は、恐ろしい怪物を打ち倒した兄弟を称え、村に伝承を残しました。それはいつまでも、いつまでも、語り継がれることとなるのです。」

周りの生徒たちは、一斉に礼をする。
赦無と白理も倣って一礼するが、頭の中はこんがらがったままだ。

ブザーが鳴り、膜が降りる。
拍手と大歓声が聞こえた。
生徒たちは呑気に、役割を終えたことに安堵していた。




そして、安堵していたのはナナキとS.0も同じだった。

「ビビったぁ、あれ作り物じゃないだろ。」

「あんなの、うちで用意出来るはずがないからな…。咄嗟に演技を続けてくれた二人のおかげで、大事にならずに済んだが…。」

S.10は顔を歪めていた。
それに気付いたS.0は、S.10に尋ねる。

「どうしたコドク、顔色が悪いぞ?」

「…ゼロも見たろ。」

「見たって…何を?」

「白理の背後にいた、あいつを。」

「んー…あぁ、あのイカした仮面つけたやつ!」

「何故あいつがいる…、何故人間を殺さずに消えた…?わざわざ怪物退治に来たわけでもないはずだ…。」

歯噛みしていると、特等席の部屋を尋ねて来た…もとい、突撃してきた人物がいた。

「ドクちゃん!ドクちゃん事件です!ドッペルゲンガーです!捕まえましょう!」

「がはっ!?」

着替えもせずS.10の腹に突っ込んできたのは、やたらと興奮気味の白理だった。
まるでUMAでも見つけたかのごとくだ。

「わ…分かった…死ぬ…みぞおちはダメ……。」

それだけを言い残し、最も情報を持っているであろうS.10は撃沈した。
あれ?と白理は首を傾げる。

「白、唯一の情報源が死にかけだよ。」

「えー?起きてくださいドクちゃん、まだ死ぬ時じゃないですよ!」

「あまり揺らしてやるなよ……。」

死にかけにムチを打つとは末恐ろしいな、と思いつつナナキはそっと助け舟を出す。
そのおかげか、白理は揺さぶるのを止めて、S.10もすぐに息を吹き返した。

「ゔへぇ…死ぬかと思った…。」

「で、結局あれは何?」

「見ての通り僕だよ。何をしにここに来たのかは分からないけど。」

「前回は殺意も憎悪もあったのに、今回はなかった。それに、あの怪物…俺たちには"必要ないもの"って言ってたけど。」

「あれは呪いだ。君たちに必要ないっていうのは、決して間違いじゃない。もうどれほど昔だったかは覚えてないけど、僕は一度、あれを殺したことがある。」

眉をひそめるS.10、いい思い出とは言い難いようだ。

「その時は…今回みたいに救いなんてなかった。あれを殺したと言っても、その時は相討ちでようやくと言ったところだ。」

「その話だと、お前が劇の物語に出てきた人物ってことになるが…。」

不思議に思ったナナキが、首を傾げて尋ねた。
S.10は自傷気味に笑い、そうだよ、と肯定した。
その事実に、その場にいた誰もが驚愕する。

「そう、僕こそ物語に出てきた次男だ。とはいえ、今となっては空想上の話だし、実話でもないけれど。本来なら、怪物は長男を殺し、双子を殺し、僕と相討ちとなって、僕を呪って死んでいく結末だった。僕はあの時、他の兄妹たちと一緒に死んでいくんだと信じていたよ。」

ギリッと拳が握られる。

「人間は死ぬと記憶を失う。魂だけとなり、やがて魂は肉体を見つけて、また新たな生命として産まれる。永遠の輪廻、転生こそがこの世界で、神による救済も、仏による導きも存在しない。皆が皆平等にその輪を延々と周り続けている。もっとも、これを知るのは僕や僕と同じ、死してなお記憶を持つものだけだろうけど。」

「ふむ…つまりコドク、お前は、ってことか?」

「厳密には、アウトサイダーに変質するまで、だね。まぁ、ゼロの認識でもあながち間違いじゃない。僕は何度死んでも、また記憶を持って産まれ変わった。バラバラになった家族を探すために、何度だって駆け回ったよ。いつの時代でも、それだけは変わらなかった。」

「ま、待ってくれよ。記憶を持ったまま転生するって…死んで産まれ変われば、姿形も、環境さえも違うってことだろ?」

「そうだね、だが僕が誰でどういう人間だったかなんて、そんなの些細なことだ。」

冷淡に、冷酷に、S.10は告げる。
確かに、人知も及ばぬほど長い時間を過ごしてきたS.10にとって、自身の人格や感情など、今更通用するものではないと理解しているのだろう。
だからこそ、自分自身に起こったことを、客観的に話す。

「転生の呪い、それが僕にかけられた呪い。言ったろ?救いなんてなかったって。死んで産まれ変わった兄妹たちは僕を忘れていて、いつ死んでしまうかも分からない。本当に、無意味なことを延々と続けていると言わざるを得ない。」

「じゃあ、何であんたはそれを続けるの?無意味だと理解していて、どうしてそこまで続けられるの?」

「"約束"したから。」

「それは、そこまで大切な約束?」

「どうかな…"約束"した相手が覚えてないから、果たしようがないものだし。でも…僕はその"約束"のためだけに生きてきた。例えそれが僕を縛り付ける楔だとしても、それがなければ僕が諦めていたのは事実だよ。」

「どうしてドクちゃんは、そこまでその兄妹に執着するんです?」

「彼らに手を引かれて嬉しかったのは本当だから。僕だけが種違いの子供だった。だから、母親は僕を嫌ってた。本当は僕を殺そうとしていたけど、長男が気付いてしまったから、殺すに殺せなくなったのさ。」

S.10は嘲笑う。

「それから長男を産んだ男と再婚して、双子が産まれた。母親が僕を嫌うのは、嫌な奴のことを思い出すからだろうね。よく言われたよ、お前は私の子じゃない、出ていけってさ。兄妹たちにそれがバレて、そのうち隠すこともしなくなって、ついには家を追い出された。」

「でも、父親のところに行ったところで匿ってもらえるわけがない。」

「そう、だから凍てつくような寒さの中、外で泣いてた。本当に怖かったんだ、いつか殺されるんじゃないかって思った。包丁で刺されるんじゃないかって。」

「でも、ドクちゃんは死にたがってるじゃないですか。」

白理の言葉に、ナナキは驚いた。
そんな素振り、今までしたのを見たことがなかった。

「まぁ…生きるのに疲れたのは事実だからね。でも、君たちの武器それじゃあ、僕は死ねなかった。」

「試したんです?」

「いや、間違って君たちに斬られちゃって。そこで死ねないんだなーって理解した。」

おそらく前回・・の話だろう。
間違って斬られたとは、いったい何をやったのだろう。

「だから、君たちには必要ないんだよ。"誰かが欠けた時間"は、君たちには要らない。」

「…あいつも、同じこと言ってたけど。」

「同一人物だからね。多少性格が変わっても、考え方は中々変わらないものさ。長く生きていれば、なおさらね。」

「そういやお前、なんで殺さずに消えたって言ったよな?」

「うん、そうだけど…それがどうかした?」

「いや、あいつただ単に、気になったから見に来たんじゃないのか?」

S.0の言葉に、S.10はもちろん、その場にいた全員が沈黙する。
俺、何かおかしなこと言ったか?と言わんばかりに、S.0は首を傾げた。

「…いや、いやいやいや、たかがそれだけのために出てくる!?普通出てこないでしょ!?」

「けど、俺が会った時あいつ、マジで固まってたぞ。今なら分かる。あれは意外な場所で知人と再会した時の態度だ。」

「僕が知ってるあれは、祭りなんて興味無いし!」

「けど、お前がセンチネルになってからかなり時間経つじゃん。あいつも考え方が変わったんじゃないか?」

「僕は絶対に認めない!認めないからああああああっ!」

よほど意外だったのだろうか、S.10はそのまま走って部屋を出ていってしまった。
S.0は慣れた様子で、昼飯には戻ってこいよ、と伝えた。

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