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色災ユートピア

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19.感謝の気持ち

事件から三日ほど経った。
赦無の容態も安定してきたため、白理と枉徒はまた学園へ通うことにした。
S.0と一緒に学園に行く。
また怪物と呼ばれるのではないか、枉徒は心配だった。

「あ、ダンボールがそのまま残ってますよ!」

だが、白理はそんなことも気にしないらしい。
まぁ、事実だからと割り切っているだけだが…。

嬉嬉としてはしゃぐ白理と、微笑むS.0。
三人がいる教室に、三日前事件に巻き込まれた生徒たちが、続々とやってきた。

あぁ、これはまた罵詈雑言かな、と頭の片隅で考えながら、白理は立ち上がって生徒たちに向き直る。
だが、その時思いもよらないことが起こった。

「あの、ありがとう!!!!」

勢いよく差し出されたのは、綺麗な花束と、びっしり書かれたメッセージ。
そこには、様々な感謝の言葉が書き込まれている。
てっきり罵詈雑言が飛んでくると予想していた白理は、予想外の出来事に固まってしまった。

「これ、私たちのために戦ってくれたあなたたちと、私たちを守るために傷付いた赦無くんに渡したくて…!あなたたちがいなかったら、私たちはみんな攫われていたと思う。本当に、ありがとう!!」

「あ、えっと…えぇ…?」

いつものドン引きは何処へ行ってしまったのだろうか。
飄々とした態度を取っている白理も、珍しくたじたじになっていた。
酷くそれが人間らしく見えた。

「感謝の印だよ、受け取っとけ。」

「はい……。」

戸惑いながら、白理は花束を受け取る。
恐怖と嫌悪の対象としてしか見られていなかった白理には、思いもよらないことで、理解が難しいことだった。

生徒はそれぞれ喜んで感謝を述べて、出ていった。
終始白理は困惑したまま、固まっていた。

「皆さん、感謝してくれたのは本当みたいですよ。嬉しいですね、白理さん。」

その感情からは、一切悪意を感じなかった枉徒が、嬉しそうに笑っている。
だが、白理は俯いている。

「私は別に、万人から感謝されたいわけではなくて…ただ、お兄様たちから、よくやったって褒められたら、それで良かったんです。」

花束を抱きしめて、ぽつりと言葉がこぼれ落ちる。

「英雄になんてならなくてよかった。したいことを出来たら、それで万々歳です。感謝なんて、必要ない。」

「白理さん…」

「私は、何が愛情なのかを知りません。知る前に、失望したから。それでも、お兄様だけは、きっと私を愛してくれている。そう、信じています。私には、お兄様がいれば、それで充分なんです。その他の人間など、その辺に転がる石と同じ。どんな感情でも気にかける価値もない。」

───でも、こういうのも、たまには悪くないですね。

白理はまだ困惑していたが、笑って、そう告げた。
ポカン、とした枉徒も、そうですね、と笑って頷いた。

「さてと、学園祭まで時間はあまり残されていません。こちらはこちらの役割を片付けてしまいましょう!」

「はい!白理さん!」

二人は早速、準備に取り掛かった。
幸いなことに事件の影響は出ていなかったため、昼になる前には準備を終えて帰れるだろう。




三日、それはナナキがS.10によって、証拠集めに付き合わされた日数。
朝起きて、顔を洗って、食事をとって、歯磨きして、そして証拠集めに連行されること、早三日。
普段、あまり運動をしないせいで筋肉が悲鳴を上げている。
サラマンドラの国は、S.10がいたことで、ほぼ無傷の状態だった。

「も、もう戻ろうぜ〜!」

「ダメだよ、君が殺されそうになった証拠を見つけるまでは戻れない。僕だって英雄である以前に人間だったんだ、大切なものを殺されそうになったっていうのに、笑って許せると思う?」

「そりゃそうだけど………。」

「もし許せてたなら、僕は人類を滅ぼしてなんかいないし、感情が別れてもいなかった。」

「それってどういうことだ?」

「アウトサイダーからセンチネルに変質した際に別けられたんだ。今の僕にはアウトサイダーの時にあった強大な力はない。」

「それであんだけの火力を出してたって、本来のお前ならどれだけ強いんだ?」

「…僕が孤独になるくらいだよ。」

S.10はちらりと視線を向けて、すぐにまた視線を戻した。

「そもそも、こんな面倒なことをしてるのだって、前回の君があのクズを殺すなって言ったからだ。言ってなきゃ殺してた。」

「お、おう…よくやった、前回の俺……。でも、あの兄貴が証拠を突きつけたくらいじゃあ引くわけがないぞ?」

「証拠はおまけ。感情は揺らいでいるほど奪いやすいし、ゴリ押し出来るからね。」

「そっちが本命かよ…ろくでなしじゃないか……。」

「褒め言葉だなぁ。…おっ、はっけーん!」

S.10は落っこちていた瓶のようなものを拾い上げる。

「なんだそれ?」

「簡単に言えば、こっちの世界にヘレティクスを大量に呼び出すもの。」

「な、なんでそんなものが!?」

「これ、僕が人間を滅ぼす際によく使ってたものの劣化版なんだ。領域内じゃあ時間遡行の影響は出ないから、多分忘れてたのをヘレティクスが拾って売ったんだろうね。」

「お前が作ったのかよ!…んん?でも、時間遡行の影響が出ないなら、アウトサイダーたちも今後起こることを知ってるんじゃないのか?」

「そうだね。なら、アウトサイダーやヘレティクスが人間に戻る方法ってなんだと思う?」

「…そんな方法があるのか?」

「僕が創った☆」

「ウッソだろお前。」

「アウトサイダーってのはそういう存在なんだよ。もっとも、僕の場合は憎しみが歪みを生んで、それが適応されたと言うべきなんだけど。ディープ・ネロに渡した武器、あれこそ怪物を人間に変質させるもの。ゼロや僕らも持ってるけど、残念なことにゼロは使ってない。」

「なんで?」

「白理の楽しみを奪ったら可哀想じゃん。ただでさえ今この時でしか満足に生きられないのに。」

「あー……。」

ケラケラ笑うS.10の言葉に、ナナキは思わず納得してしまった。

「結論から言ってしまうと、皆殺しだね。殺した後にどこに行くかは知らないけど、人間に戻って転生するのは確かだ。」

「それならアウトサイダーも生まれなかったんじゃ…?」

「残念、一度生まれたものは何度だって生まれるのさ。」

「そうか……。」

「言ったろう?殺しすぎたって。僕はアウトサイダーやヘレティクスを殺して、その後に時間遡行を行い、前回と同じ状況にしてからまた始めるんだ。だから、僕以外は誰も覚えてないよ、多分。」

「時間遡行を行うために、お前は人間を滅ぼしたのか?」

「いや、滅ぼしたのは個人的な恨み。」

「恐ろしいやつだな!?」

「時間が巻き戻っても気付かないんだから、殺すだけ無駄でしょ。」

「そうだけども!」

「今はもうやめてるよ。さて、話の続きに戻るけど、これがさっき俺が作ったっていう話はしたよね。そしてこれは、領域内にしかないものだ。」

「つまり、ヘレティクスと繋がってる証拠になるわけだな。」

「そう、そしてそのヘレティクスを縛り上げてどいつが買ったのかを吐かせればいいってわけ。」

「ヘレティクスだろうと容赦ないなお前…。」

「実は縛り上げなくても写真があるから、言い逃れは出来ないんだけどね。っていうかさせない。」

「ほんと容赦ないなお前!?」

「僕は人間が嫌いだからね。さ、証拠集めはおしまい。僕はちょっとヘレティクスから自白取ってくるから、三秒だけ待ってて。」

「え?あ、おい!」

S.10の姿は、一瞬で消えた。
唖然としていると、我に返らぬ内にS.10は戻って来た。

「はい、自白取れたよ。」

「ひい!」

急に目の前に現れたことで、ナナキの心臓は縮み上がった。

「ちょっと腕をねじ切ろうとしただけなのに、ガタガタ震えちゃってさぁ。何かあったのかな?まぁいいや、やっぱりミカゲ・シイナがヘレティクスから買っていたよ。」

「ねじ切ろうのくだりのせいで、後半の内容が全く頭に入ってこない…!」

「ねじ切ってないよ、やだなぁ。」

ヘラヘラとS.10は笑っている。

「とにかく、証拠集めは終わったから本部に戻ろう。これを突きつけて、最高責任者の席を降りてもらう。」

「それはいいけどさ、何を急いでるんだ?まだ何か起こるのか?」

「あいつスペア持ってるみたいだからさー、使う前に回収しておきたいっていうか。ま、ともかく行こう。時間とワガママな人間は待ってくれないよ。」

「あーもー分かったよ…。でも、その前に世話になった長に一言言ってかないと。」

「…あぁ、それなら行方知れずの娘さんたち、無事だったって伝えてくれる?」

「へ?娘がいたのか?」

「もう何十年も前だけどね。ヘレティクスに攫われて行方知れずになってたんだけど、今は大人気アイドルとして活躍してるんだ。双子じゃないのに姿がそっくりなんだよねぇ。」

「よく知ってるな…。」

「あれ、言ってなかったっけ?僕はアウトサイダーの時にはもう、こっちに出てきて散歩してたんだけど。」

「あれ?アウトサイダーって出てこれるもんだっけ?」

「本来なら無理だよ、僕が特別なだけ。」

「お前、本当に何でもありだな…。」

「トライ&エラーの賜物と言ってくれたまえ。」

ふふん、とドヤ顔で胸を張るS.10。
どれほど気の遠い時間を過ごしてきたのかは分からないが、普通の人間ならとっくに諦めているだろう。

「つーか、お前はそれが才能なんじゃないのか?」

「えー、諦めが悪いのが?まぁ、僕の場合は執念が人並外れてるだけだよ。気力と憎しみだけで何とかやって来て、"約束"したからここまで来たんだ。それがなかったら、諦めてる。」

「その"約束"ってなんなんだ?そんな大切なことなのか?」

「些細なことだよ。些細な…僕たちにとっては、手の届かない約束。」

「矛盾してないか?」

「君みたいに優しい両親がいたなら、些細なこと。でも僕たちにはいなかった。優しい両親なんて、いつの時代でも。それが僕たちの運命なのか、僕の呪いなのかは分からないけどね。だから、僕たちは僕たちで助けて、支え合うんだよ。」

「お前が兄ちゃんなら、弟や妹は誇らしいだろうな。」

「弟には嫌われたかもだけどねー。はい、お話はおしまい。長と話して本部に帰るよー。」

S.10はナナキを抱えあげて、転移で長のいる神殿に移動した。
最初の頃は慣れなかったものの、もう五回以上ともなれば諦めの境地だ。

「じゃ、僕は部屋の外で待機してるから。」

「分かった。」

ナナキは扉をノックする。
すぐに中から返答が返ってきた。
失礼します、と一言告げて、部屋の中に入る。

「おぉ、君か。護衛の子供は来てないのか?」

「あぁ、コドクは外で待機しています。」

「そうか、ありがとう。君たちのおかげで我々サラマンドラ族は一人も欠けることなく、生活に戻ることが出来た。君が食料の配達や、外壁の修理を手伝ってくれたおかげで、私たちはまた、平穏な日々を暮らせる。本当にありがとう。」

「いえ、そんな…そもそも、今回は俺がいたせいで起こったことですし……。」

「ふむ?それは一体どういうことかな?」

「コドクと一緒に、今回の大規模な襲撃事件が何故起こったのかを調べていました。その結果…、俺の兄が関係していることが分かったんです。」

「なんと……」

「コドクの話では、俺を殺すためにヘレティクスを呼び出した…とのことでした。俺はこれから本部に戻って、兄を問い質しに行きます。本当に…すみませんでした。」

ナナキは深々と頭を下げた。
ひしひしと、怒りが伝わってくる。
そして、許せん、と言葉が零れた。

だが、紡がれた言葉は、思いもよらないものだった。

「我々の恩人を、そして弟を殺すだと!?ふざけた奴だ!兄の風上にもおけん!!」

「え……?」

「君は何も悪くないぞ!君が手伝ってくれたおかげで、疎かになりがちだった外壁の補強も出来たのだから!そもそも、兄というのであれば弟の面倒を見てやるべきだ!」

一発ぶん殴ってやりたい、とでも言いたげに、サラマンドラの長は拳を握り、わなわなと震えていた。
こちらに来た当時は、旧人類ということもあり、あまり歓迎されていなかったが、ナナキの生真面目な働きっぷりに感心したのか、次第に受け入れてもらえるようになった。
元々、より人情に厚い族なのだろう。

ナナキが唖然としているのを見て、長はハッと我に返る。
そして、照れ隠しに咳払いをして、椅子に座り直した。

「しょ、少々取り乱してしまった、すまない。」

「あ、いえ…まさかそんなこと言われると思ってなかったので……。」

「…私にも弟がいてね。後ろをついてまわるものだから、可愛くてしょうがなかったのだよ。もっとも、若くして病死してしまったが。そういうこともあって、弟や妹を大切だと思わない人間には、腹が立って歯止めが効かなくなるのだ。」

「あはは…そうだったんですか。意外です、いつも険しい顔をしていたから、てっきり。」

「よく言われるよ、顔が怖いってね…。」

「…そうだ、あなたには娘さんがいらっしゃいますよね?」

「そうだが…何故それを知っているんだ?」

「コドクから聞きました、歳は離れてるけどそっくりだって。その娘さんが生きている、と伝えて欲しいと頼まれたんです。」

「…生きて、いるのか……!?」

驚愕していた。
もう十年も経つのだ、死んでいると思われても仕方がないだろう。

「今は大人気アイドルとして活動しているみたいですよ。いつか出会えるといいですね。」

「そうか…、ありがとう。妻も聞けば喜んでくれるだろう。」

泣きそうな表情で、お礼を告げられた。
照れくさくなり、ナナキは頬をかく。

「君たちには感謝してもしきれないな…。よければまた遊びに来てくれ。君たちならば大歓迎だ。」

「はい、ありがとうございます!」

今度は娘たちの恩人も一緒にな、と言葉が続いた。
ナナキは一礼して、別れを告げて部屋を出た。
隣を見れば、神妙な面持ちのS.10が、無言で壁に寄りかかっていた。

「どうした?」

「いや、あの反応は予想外だったなぁと思ってさ。さてと、寄り道も済んだし、本命に会いに行こうか。」

「お、おう……。いよいよか…。」

一度深呼吸をして、覚悟を決めたナナキ。
二人は本部へと向かった。

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