色災ユートピア

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15.S.0の本部探索

食堂へと向かった四人は、それぞれ好きな物を注文している。
S.0はハンバーグ、赦無はパフェ、白理と枉徒はホットケーキを頼んだ。

「それにしても驚きました、ゼロがお兄ちゃんだったなんて。」

「よく言われるんだよなぁ。俺、そんなに向いてないか…?」

「どちらかというと一人っ子なイメージですよね。」

「うん、一人っ子で寂しいから、頼られたいって感じがする。」

「なんだその俺の意外な一面。」

「でも、ゼロがお兄ちゃんなら、弟妹も幸せそうです。ゼロならきっと、ミカゲのような人間から守ってくれそうですし。」

「あはは…サンキュー。」

S.0は困ったような顔で笑った。
喜びを噛み殺しているようだが、隠しきれずに喜んでいる雰囲気がする。

「お待たせしました。こちら、ハンバーグになります。」

スープ、ライスとセットでハンバーグが運ばれてきた。
ジュウジュウと、油が跳ねて、香ばしい匂いが広がる。
見ただけでも、空腹感が増す。

「人手が足りないってわりには、活気があるな。食堂にはかなり人が集まってるし。」

「あぁ、あの方は人造人間ですよ。」

「はぁ?」

予想外の答えに、S.0は素っ頓狂な声を上げた。

「人間の手によって造られた人間です。」

「いや、意味は知ってる。そうじゃなくて、人間が自分たちで定めて忌避した禁忌を、わざわざ犯す意味が分からない。」

「それほど人手不足なんですよ。」

「…嘘だろ人間。」

唖然とするS.0。
おそらく、というか十中八九、S.0は人造人間の心配をしている。
お人好しで優しいS.0のことだ、人造人間が人間に奴隷のように虐げられていないか、そんなことを考えているのだろう。

「まぁ、私は別に人造人間だろうと人間だろうと興味ないんですけどね。」

「ゼロ、早く食べないと冷めちゃうよ?」

「あっ、お…おう。」

S.0はスプーンを持って、食べ始めた。
スープは分かるが、流石にハンバーグやライスまでスプーンで食べようとするとは思わなかった三人。
もしかして使えないのだろうか、そういう結論にたどり着くのは容易だった。

「うん、美味いな、これ!」

S.0はそんな三人を気にも留めず、美味しい、美味しいとはしゃぎながら食べている。

「ゼロさん…もしかして、おはし使えないんです?」

「その様子を見るとフォークやナイフも難しそうだけどね。」

「うぐっ…うるさい、使う機会がなかったんだから仕方ないだろ…。」

喜んでいると思えば、今度は顔を真っ赤にした。
きっと恥ずかしいのだろう。
本当に、表情が豊かだ。
あまりにコロコロ変わるものだから、赦無や白理、挙句には枉徒まで面白いと思ってしまう。

「ゼロってかなり長生きですよね?それでも使う機会がなかったんですか?」

「領域内じゃ食事なんて、趣味や癖みたいなものだからな。俺は手軽に食べられるものを好んで食べてたから、はしとか使ったことない。」

「別の意味で病気だよゼロ、偏食ってレベルじゃない。っていうか、面倒臭がってるでしょ。」

「腹は減るけど、美味いものを自分で作って食べたいとは思わないし…。」

「なら、ここでいっぱい美味しいものを食べていかないといけませんね。ゼロが少しでも健康な食生活を送れるように。」

「いや、別に糖尿病とか肥満にはならないからな?」

人間ではないS.0や赦無たちは、食による病気にはならない。
そして、赦無と白理はアウトサイダーの領域を脱出した時の状態で肉体の成長が止まっている。
それを無理矢理、人が疑問を抱かない程度に造り変えては調整している。
ヘレティクスやセンチネルであれば、容姿の変化は容易かもしれないが、どちらでもない二人は、造り変えて調整するのに若干痛みを伴う。
領域内で活動するのなら、こうして成長しているように見せかける必要はないのだが、人間が周りにいる以上、そういうわけにもいかない。
不老長寿は人類の長年の夢だ、下手にバレると実験体にされてしまうかもしれない。
だからこそ、それを危惧した赦無が、成長するように見せかけることを定めたのだ。
まぁ、怪物となった二人には、人間特有の心身の変化などありはしないのだが。
所詮は人間の真似事だ。




赦無、白理は急用が出来たらしく、食事を終えた後に別れた。
S.0は枉徒と一緒に、本部を見て回っていた。

「何でこんなに広いのかと思えば、難民保護もおこなってたのか。」

「はい。…でも、ディープ・ネロはその難民さんたちにも怖がられてしまっています。少し、寂しいです。」

「そうだな。」

枉徒の心境を察して、S.0は枉徒の頭を撫でた。
ふらりふらりと廊下を歩いていると、ふと子供たちの呼ぶ声が背後から聞こえた。

「おねえちゃーん!」

振り向くと、まだ幼稚園くらいの幼子から、中学生の子供まで、こちらに向かって手を振りながら、駆け寄ってきた。

「枉徒おねえちゃん!…と、だれ?」

「この人はゼロ、ゼロお兄ちゃんだよ。」

枉徒はしゃがんで目を合わせる。
それは昔、枉徒がまだ小さかった頃、S.0がよくやっていたことだ。
懐かしいことを思い出して、S.0は笑みを浮かべた。

───大きくなったなぁ。

そんなことを思い、感傷に浸る。

「ゼロおにいちゃん?」

S.0センチネル・ゼロ、ゼロと呼ばれてる。好きな風に呼んでいいぞ。」

「ゼロおにいちゃん、おめめどうしたの?いたいの?」

幼子はS.0の左目を指さした。
S.0が眼帯をしているのを見て、怪我をしたと思っているのだろう。

「んーこれか?かっこいいだろ。」

ヘラヘラと笑って、S.0はしゃがむ。

「痛くないよ。お兄ちゃんはとーっても強いお兄ちゃんだから、これくらい平気さ。」

「すごいなぁ!じゃあ、赦無おにいちゃんとか、白理おねえちゃんみたいに、ヘレティクスをたくさんやっつけられるんだね!」

「…間違ってないな。」

確かに、領域内じゃ事を起こしたヘレティクスやアウトサイダーをぶった斬ってるし、とそんな感じで納得してしまうS.0。
否定出来ない。

「お前たちは、赦無や白理が怖くないのか?」

「こわくないよ、だってぼくたちにやさしいもん!」

「お二人は、私たちのような人造人間に対しても変わらず接してくれるんです。それに、白理さんは私たちに言ってくれました。全ての命は平等であると。産まれがどうであれ、人に造られた存在でも、人間には変わりないと。」

「白理が?…そんなことを言ったのか?」

「えぇ、確かに。人間から生まれたのは同じだから人間です、そう仰ってくださいました。」

「……そうか。」

驚いた顔をしていたS.0は、ふと笑った。

「白理がお前たちに好かれるのは意外だったけど、その言葉で納得した。白理は俺たちのような、人間から見た人でなしに優しいんだな。」

枉徒に向ける表情とは、また違った表情をするS.0。

「赦無が白理をいい子だと言うのも頷ける。心配しなくても、白理は白理なりの優しさがあったのか。」

「ふふ…まるでお母さんみたいなことを言うんですね。」

目の前の少女は、軽く笑ってそんなことを言った。
S.0の顔が、また赤くなる。

「お、お母さんじゃない!お兄ちゃんだ!」

「その張合いは分からないです?」

「お二人がよくあなたのことを話していましたよ。頼りになるとか、優しいとか、一緒にいて気が許せるような存在だと。それに、あなたにとても心を許し、恩義を感じているようです。」

「二人が?」

「はい、白理さんなんて、あなたの戦いぶりをお話してくださいますよ。自分の事のように。よほどあなたのことが大好きなんですね。」

「そ…それはそれで恥ずい仕打ちだな…。」

「ナナキさんがいなくなってから、少し心配でした。ナナキさん以外に懐かなかったお二人ですから。」

「それを聞くと、まるで捨て犬…いや、猫か…?」

「お二人はまだまだ子供、早くに親をなくして大変だったでしょう。ナナキさんは、頼れる大人で、お二人にとって変え難いもの。ですから、それを失ったらお二人は酷く落ち込んでしまうのではないかと思っていました。ですが、あなたという存在は、また違う形でお二人の救いとなっているのでしょうね。」

「救い…?」

ぽかん、として首を傾げるS.0。

「えぇ、でなければあそこまであなたのことを嬉しそうに話さないでしょうから。ナナキさんとは別に、あなたはお二人の"頼るもの"なのでしょう。」

「…そうか、なら…嬉しいな。」

S.0は静かに目を伏せて、軽く笑った。
その仕草は、赦無によく似ている。

「双子だからな。二人だけで何とかしようとする節があって心配だったけど、俺が"頼るもの"として認識されてるなら、それは願ってもないことだ。」

ふと、ようやく白理と赦無に対しての既視感の謎が解ける。
S.0は二人によく似ているのだ。
瓜二つと言っても差し支えないだろう。
顔も仕草も、二人とよく似ている。

「あなたはお二人によく似ていらっしゃいますね。」

「そうか?」

「えぇ、仕草もそっくりです。」

「はは、そいつは嬉しいな。」

S.0は照れくさそうに頬をかいた。

「おーい、ゼロ〜」

背後から、二人の呼ぶ声が聞こえる。
どうやら用事は済んだようだ。

「おにいちゃん、おねえちゃん、もういくの?」

「うん、またね。」

「じゃあな、生きろよ。」

S.0はそう言い残して、枉徒と一緒に白理たちの元に戻った。
その言葉は、何かを祈るようだった。
不思議な方だなぁ、と少女はその後ろ姿を見送った。

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