色災ユートピア

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7.ディープ・ネロ

あれから、もう数年、二人は名前を改名し、闇纏赦無やみまといしゃな闇纏白理やみまといはくりと名乗るようになった。
そして、二人の帰還により、失踪事件の犯人…黒い塊は、アウトサイダーと名称されることとなった。
アウトサイダーが生み出すヘレティクス…そのヘレティクスは、表世界…つまり、白理や赦無のいる世界にやって来ては、人間を攫う。
そして、そのヘレティクスの撃退、アウトサイダーのいる領域の調査を目的とした特殊独立部隊 ディープ・ネロが結成。
隊長は帰還者の二人が受け持つこととなった。
上層部はディープ・ネロを筆頭に調査部隊を編成、領域に向かわせたが、ディープ・ネロ以外の帰還者は皆無だった。
これにより、領域の調査は、本格的にディープ・ネロだけが行うこととなった。

特殊独立部隊 ディープ・ネロ。
人間を超える身体能力、超感覚。
そして、非現実的な能力の数々。
怪物たちの集まりだと言われるのも、時間の問題だった。

そして、普通の管理職だったナナキ・ハヤセはいつの間にか最高責任者にされていた。
と、言っても彼は本当に凡人である。
人並みの常識と価値観、精神があるだけのヘタレである。
帰還者二人を紹介された時は、幼い子供だと驚いたが、それでも可愛らしい子供だと思っていた。
思っていたのだ。
そして、信じたかった。
可愛らしい子供であることを。
だが、いざ蓋を開けてみたらどうだ。
方や虐殺狂、方や鬼才児(何を考えているのか分からない)。
「扱いにくすぎるだろおぉぉ!」と泣いて叫びたくなることも仕方がない。
ヘタレかつ、凡人であるナナキは思った。

下手に刺激したら殺される───

そう、思った。
だからこそ、特殊独立部隊なるものを、赦無の要望通りに創設した。
そこが双子に気に入られたのだろうか。
今となっては"ナナちゃん"などと可愛らしい名前で呼ばれ、わざわざ構いに来るほどだ。
本人は困惑するしかない。
そして命の危機を感じざるを得ない。
もちろん、助けなど来るはずもなく、出来ることは神頼み。
───せめて、痛みなく死ねますように。
ついには生きることを放棄した。
が、現状で上手く二人を扱えるのはナナキくらいなので、死んでもらっては困る。
ちなみに、双子に洗脳されつつあることを、この頃のナナキはまだ知らない。




ヘレティクスの侵攻により、とある場所でおかしな現象が発生。
二人はその調査もしつつ、ナナキの計らいで学園に通わせてもらえることとなった。
その学園こそが、おかしな現象が実際起こっている場所…なのだが。

「制服はない、と聞いていましたが、生徒はそれぞれ別の学校の制服を着ていますね。」

生徒の情報を眺めていた白理が、ふとそんなことを呟いた。
赦無は顔を上げて、返答する。

「この学園は、俺たちみたいな孤児が集まるんだ。もちろん、孤児じゃなくても受け入れているけど。ただでさえ大人が少ないからね、教員の人数も抑えるために一箇所に集めようって魂胆だろう。」

「なるほど、学園の近くに大量に寮やアパートが建てられたのも、それのせいですね。」

「その通り、いずれここが中心になるんじゃないかな。」

「一貫性の学園…楽しみってあります?」

「どうだろうね。でも、ナナちゃんが改装したみたいだから、もしかしたら面白いギミックがあるかもよ?」

赦無は笑っている。
白理も、それなら楽しみです、と笑って返答した。

「改装費は、生きたい元お偉いさんたちからがっつり取った…貰ったみたいだし。」

「情報量として私たちもかなりいただきましたけど、あれでも減らないんですねぇ。どこにそんなお金を溜め込んでいるんでしょう。」

「脱税とか、よくある話だからね。まぁ、人間が減ればお金も価値なんてなくなるけど。」

「私は殺せるなら何でもいいんですけどね。」

ハクにはお金なんて必要ないもんなぁ。」

ディープ・ネロが創設されて以来、アウトサイダーの対策が広まり、攫われる人間は激減した。
ようやく人間の生活も安定し、食料なども当たり前のように買えるようになった。
秩序も安定してきている。
だが、新たに現れたヘレティクスについては情報が少なすぎる。

現在分かっていることは

・アウトサイダーに生み出された敵性存在
・特定の場所からしか出現できない
・特定の場所を広げることは可能
・形は様々
・中でも人型のヘレティクスは統率者
・人間より丈夫で頑丈だが、死ぬ
・死ねば領域に強制送還される、復活には時間がかかる
・完全に殺せるのは今はディープ・ネロだけ

ということくらいだろう。
本格的に、アウトサイダーが人間を攫って目的を果たそうとしているのだろうか。
幸いなことに、出撃には期間があるようで、一度送ると次送り出すまで時間が必要なようだ。

「さてと、登校の時間だよ、白。」

「えぇ、行きましょうか、お兄様。」

二人は手を繋いで、学園へと向かった。




ディープ・ネロが怪物だと言われる所以、その一。
某 竜クエストの〇ーラばりに便利な瞬間転移。
これを使えば背後からの奇襲も簡単なのだが、白理はわざわざ天上から落ちてくる。
そう、空から。
空中から。
気付いた時には衝撃で吹っ飛ばされていることは、多々ある。

「雪…でしょうか?」

「雪…みたいな塩だね、これ。触っても溶けないし、しょっぱい。」

「当たったら痛そうですねぇ。」

「うーん、どちらかというと、目に入ったら…かな?」

「涙が止まりませんねぇ。」

ケラケラとおかしそうに白理は笑った。
軽く調査を終えた赦無は、要点だけをまとめて報告書を作る。
その後は白理を連れて、学園に向かった。

玄関を通り、職員室に着くと、担任の先生が待っていた。
自分たちの教室まで、担任の先生に案内される。

「一年生、二年生とそれぞれ教室の形が違うんですね。これは確かに面白いです。」

「よかったね、白。楽しめそうで。」

担任の先生が、入ってくるよう促す。
先頭は白理、その後に赦無が続いた。

「では、自己紹介をお願いします。」

「闇纏 白理です、よろしくお願いします。」

「…赦無、です。」

いつもの威勢はどうしたのか、赦無は口を閉ざした。
その代わりに、白理がにっこり笑って口を開いた。

「自慢の双子の兄です。あまり話しませんが、よろしくお願いします。」

「質問いいですか?」

ふと、一人の少女が手を挙げた。

「どうぞ。」

「あの…その武器、もしかして先輩たちのお知り合いですか?」

「先輩…?」

「はい、あなたみたいに武器を身に付けているんです。私たちを守るために戦ってくれてるんですよ。」

「ここら辺りだとかなり有名だけど、知らないの?もしかして、かなり遠くから来たとか?」

「へぇ、そうなんですか。是非会ってみたいですね。」

白理が笑うと、また別の生徒が口を開いた。

「図書室にいるよ。っていっても、ファンが多すぎて親衛隊が出来たくらいだし、入れないかもしれないけど…。」

「そうですか、昼休みあたり尋ねてみましょう。ね、お兄様。」

「そうだね、白。」

赦無は頷く。
昼休みは、昼食を持って図書室に直行だろう。

その後目立った質問はなく、授業に突入した。

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