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色災ユートピア

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6.奪還

その後、S.0に連れられてやって来た。
子供の笑い声───ハクリの声だ。

「おいおいマジか…戦って勝つどころか虐殺じゃないか…。」

血まみれのハクリは、楽しそうに、愉快そうに笑っていた。
だが、これで怒って暴れていた理由が分かった。
ゲームに負けた、ということもあるだろうが、こんな一方的にやられればそれは怒るのも仕方がないだろう。
子供のようだとはいえ、ここの領域の支配者で、強大な力を持っていることには違いないのだから。
そして、特殊な武器がなければ、殺すことも出来ない。

「ハク!」

「あぁ、お兄様?お兄様ですか?」

「帰ろうハク。ここにいちゃいけない。」

「どうしてです?」

「…僕が、帰りたいんだ。ハクと一緒に、元の世界に。だから、お願いハク、僕を一人にしないで。」

笑っていたハクリが、ふと無表情になる。
何かを考え無言でいたが、やがてシャナの元に戻ってきた。

「私たちは双子だから、一緒にいなくちゃ不完全ですもんね。」

「ありがとう、ハク。」

シャナは以前と同じ笑みを浮かべるハクリに安堵し、同時に喜びを覚えた。
ハクリは生きている、そう思って。

「帰りましょうお兄様。」

「うん、帰ろうハク。」

シャナは血で汚れることも気にせず、ハクリに触れようと手を伸ばした。
だが、手と手が触れた瞬間、ハクリは煙のようにどこかに消えてしまった。

「っ…ハク!?」

「安心しろ、肉体に魂が戻っただけだ。しばらくすれば目が覚める。」

「そう…良かった…。」

シャナはしっかりハクリを背負いなおし、ハクリが持っていたナイフを拾う。

「っと、ここからは俺らの仕事だ。これでお別れだな。記念にそれナイフ、持っていけよ。くれてやる。」

「これは、あなたの…?」

「ガキのころによく使ってたやつだけどな。ないよりはマシってやつだ。」

「今も子供じゃ?」

「バカヤロー、俺はお前よりお兄ちゃんだっての。さ、行った行った。今度こそ、二度と来るんじゃないぞ。」

『逃がさない…逃がさない!』

『センチネルが邪魔をするなああああ!!』

「行け!!まっすぐ走り続けろ!!」

伸びてきた黒い腕は、S.0が迎撃にあたる。
身の丈ほどある太刀を器用に操って斬り落とすが、それでも幾つかはそれから逃れ、ハクリとシャナに迫る。
腕に囚われ、それでもナイフとハンドガンで何とか凌ぎきる。

走って走って、やがて光が見えてきた。
もうどこをどう走っているか分からないほど、眩しい光。
その中にシャナは、ハクリを抱えて転がり込んだ。




それから、二人が目を覚ましたのは三十分後のこと。
気が付けば、病室のベッドで目が覚めた。

「戻ってこられたのか…。」

「お兄様、その痣どうしたんですか?」

「痣…?って、ハクこそどうしたの?」

お互いの頬には、対照的に真っ黒い痣のようなものが浮き出ていた。
二人は首を傾げるが、今のところは害もないようだ。

「なんか、よく見る三角っぽい痣ですね。」

「うん、ハクも同じ痣が出てるよ。」

「双子だから、おそろいなんですね。」

「…そうだね。」

ハクリの笑顔に釣られて、シャナも思わず笑っていた。

「よかった…生きてて本当によかった。」

「お兄様の声が聞こえたんです。このままじゃ死んじゃうって。一人にしないでって。だから、私は脳を直してもらうために、あそこに行ったんです。お兄様は、ハクがおかしくなっても、嫌いにならないでいてくれますか?」

「大丈夫だよハク、僕たちは二人で一つなんだから。僕はハクが大好きだもん、どんなハクでも嫌いにならないよ。」

シャナはぎゅうっとハクリを抱きしめた。
この時、ハクリがどんな顔をしていたのかは分からない。
だが…おそらく、幸せそうな笑顔を浮かべていたことだろう。

「お兄様、お母さんとお父さんはどこに?」

「…行方不明だよ。失踪事件に巻き込まれた。きっとあの領域に引き込まれたんだ。」

「それは大変です、助けに行かないと。」

「もう助からないよ。きっと死んじゃってる。それに…ゼロに言われたでしょ?二度と来ちゃダメだって。」

「お兄様が言うのならそうなんでしょうね。分かりました、諦めます。」

「うん。」

シャナは何でもない風に告げた。
ハクリにとって、聡明なシャナは絶対的で、疑うこともしない。
たとえ…シャナが殺して、嘘を吐いていても。

「帰ろう、ハク。」

「そうですね!」

ハクリはベッドから降りる。
シャナはハクリに、玄関で待つよう伝えて、扉を固定していた椅子をどかし、いったんハクリと別れた。




診察室を見ると、そこには医者はいなかった。
いや、何人か、医者だけでなく看護師たちも消えていた。
病院中てんやわんやになっていたが、約束は果たされているのだと安堵する。
診察室を出ると、目の前にはサイフが落ちていた。
派手な柄のサイフだ、使っている人間に心当たりがある。
───父親だ。
中を覗けば、お金とカードが入っていた。
もっとも、消えていく病院に金を払ったところで、何かあるわけでもないのだが。

玄関に向かうと、ハクリはいない。

「ハク?」

「はぁい?」

背後から声が聞こえた。
振り返るとハクリがニコニコしながら立っていた。

「どこに行ってたの?」

「お兄様が見えたので、後ろをついて回っていました。」

全く気が付かなかった。
思わず感心する。

「ねぇ、ハクリ。このまま遠くに逃げようか。」

「どうしてですか?」

「ここにいると、厄介だから…かな。」

「そうですか、なら仕方ありませんね。」

「ありがとう、ハク。僕に考えがあるんだ。多分、このまま行方不明者が増え続けると、さすがに対策する人間も出てくると思う。だから、僕たちは先に、その対策の 魁 さきがけになるんだ。」

「なるほど。」

「情報を、そのための資金と理由にしよう。大丈夫だよハク、これからは正当に殺せるから。」

「それは素晴らしいですね。さすがはお兄様です。」

「協力してくれる?」

「えぇ、出来ることがあるなら何でも。」

「よかった。それじゃあ行こうか。」

「はい。」

シャナはハクリの手をしっかり取って、歩き出した。
後に、シャナたちのいた病院は、看護師や医者たちが大半消えて、閉鎖された。
そして、シャナたちがいた街の人間は、忽然と姿を消したという。

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