四季怪々 僕らと黒い噂達

島倉大大主

Chapter2-5:口笛の託宣

 さて、この口笛ですが皆さんご存知の通り、アップされたのはなんと先月です。
 それまでは、例の大騒動になりました『落書き』、物議を今でもかもしている『あの屋敷』、この二つを除けば、割と小ネタの『おまじない』と、ほぼ、お笑いに振った寺社仏閣巡りしかアップされていなかったわけです。

 その裏で我々は何を考え、何をしていたのか? 

 その話にようやく差し掛かってきました。
 とはいえ、ここら辺の話ですが、実は映像に撮ってないんですね。だからして僕の記憶頼りなわけですが、うーん、言葉の端々は自身が無いんですが、大体の流れと主旨は間違えずに言えると思います。
 まあ、あれです、ちょっと盛ってねえか? となっても、そこはそれ、凍死寸前の僕に対するボーナスみたいな物ということで! あと、ここから先も実際の会話では当たり前ですが本名でしたが、全て渾名ということで。

 さて、初の気絶から一週間後、僕はレギュラーメンバー三人とヒョウモンさんを家に呼びました。口笛の噂話がぱったりと途絶えてしまいまして、ヒョウモンさんは解決したのか、と僕と委員長に何度も聞いてきました。今は様子見、でも多分二度とあれは現れない、と僕が言うとヒョウモンさんは、ほへーっと長く息を吐き、良かった、としみじみと呟いておりました。
 そんな感じだったから、僕の家に呼ばれたヒョウモンさんはニコニコしていたのですが、僕が口笛の話なんですが、と切りだした途端に、苦~い顔になってました。
 ちなみに委員長は、そんなこったろうと思ったよって顔をしてました。
「えーっとですね、結論から言いますと、口笛はもう出ません。役目を終えた、というところでしょうか」
 役目? とヤンさん。僕は正座をするとやや前屈みになりました。

「はい。あれは、その――前触れというか、サキブレ? 津波が来る前に海の水が引く現象があるでしょう? ああいうのが形をとったっていうか……」

 オジョーさんが腕を組みました。
「監督さんは、超自然的な何かの警告、もしくは前兆みたいなもの、と言いたいんですね?」
 僕はそんな感じです、と頷きました。
 ヒョウモンさんが何それ? と声を出しました。
「だって、あれってただの口笛だったじゃん。あれが何か言葉とかだったら、まあ、そういうのもあるってのはわかるよ? でも、ただ口笛が聞こえたからって、警告ってのは飛躍し過ぎっていうか……。
 ほら、昔話とかで、災害の前に妙な事が起きる話があるじゃん? えーっと……お地蔵さんの顔が赤くなると、津波とか洪水が起きるとかなんとか。ああいう感じの現象だったら、警告とかってのも判るけど――」

 僕は頭をかくと、実はその、と首を捻りました。
「あの口笛なんですけど……わかるんですよ。日本語に訳せるっていうか、その――」
 委員長が縦膝をつきました。
「あんた、確か口笛に肩を掴まれたんだよね。そん時?」
 ヒョウモンさんが掴まれたぁ!?  と悲鳴を上げます。ヤンさんが僕ににじり寄りました。
「一応聞くが、気絶した時に頭を打った、とか、妄想の類じゃねーんだよな?」
 気絶ぅ!? とヒョウモンさんが再び声を上げようとするのを、委員長がヒトトキだまらっしゃい! と手で口を塞ぎ、僕に続けたまえ、と顎をしゃくりました。
「妄想じゃないと思います。実はその……じっくり見るとみんなも、『判る』と思います」
 え? は? と声が上がる中、ばーちゃんがノートパソコンを持って隣の部屋から登場です。
 ばーちゃんは、いや参ったわ、聞こえるぞ、とぽつりと言いました。この言葉で皆がノーパソの周りに群がりまして、動画の再生が始まりました。

 僕が撮った電柱に歩み寄るヤンさんのあれです。
 ヒョウモンさんが、うわっ、これこれ、この口笛――の辺りで絶句。
 委員長が片目をひくひくさせて、ちょ、これって安全なの? 安全なのよね? とぶつぶつ言っています。
 呻きながら頭をぶるんと振ったオジョーさんが、ノーパソに手を伸ばそうとしました。
 その手をヤンさんががしっと掴みました。

「待てって……うわっ、マジかよ!? 『ゆきの――むこうであゆむものがくる』……か?」

 ヤンさんの言葉にヒョウモンさんがあっと声を上げ、それ! それ! と、ばしばしヤンさんの右肩を叩きました。
 委員長も、あたしも聞こえた! とヤンさんの左肩をばんばん叩きます。
 正座して前屈みでノーパソをガン見していたオジョーさんがぱああっとした笑顔で僕を見た後、聞こえましたぁっ! と立ち上がって思いっきり振りかぶってヤンさんの頭をドツこうとしましたが、ばーちゃんがやめんかぁ! と後頭部に鋭いツッコミを入れて阻止しました。
 ヤンさんが、この人達怖いんだけど! と小さく叫びました。
 言っときますがカメラは回ってません。

 というわけで仕切り直しです。オジョーさんは自分だけヤンさんを叩けなかったのがアレだったのか、口を尖らせて正座したヤンさんの足の裏を指でつつき、うわっ、ばっ、足痺れてんだからヤメろって、とヤンさんに怒られていました。ヒョウモンさんと委員長も参戦してヤンさんの足をつつきます。
 まあ、みんな興奮して浮き足立ってた、ってとこでしょうか、足だけに……ええっと、ともかく、ばーちゃんが前に出ると、両手を上げて、ちょっと真面目な事を言うぞ、と喋り始めました。

「さて、春からこっち、ちょっと早熟すぎる孫のぼっち化を警戒しての動画製作……だけが無論あたしの目的ではなかった。それは皆が察している事だと思う」
 それまでふざけてた面々が、まあねぇとか言いながらばーちゃんの方を向きました。
 ばーちゃんは、まあ楽にして聞いてくれ、と話しを続けます。
「この子はちょいとした能力がある。超能力とか霊能力とかには詳しくないんで、正式名称は知らないが――」
「あれですか、もう一つの世界、みたいな物に接触する能力」
 ヒョウモンさんが目をキラキラさせて発言しますが、それを委員長が否定しました。
「いや、もう一つの世界は、あなただって接触してるでしょ? オジョーさんだってそう」
 オジョーさんが頷きました。僕は一度委員長を見てから、ヤンさんに、あなたはどうですか? そろそろ言っちゃいませんか? と話を振りました。
 ヤンさんは、ちょっと顔を顰めて頭をポリポリ掻きました。
「なんだよ、バレてたか。いつ気付いたんだ?」
 委員長が片眉を上げて、最初からと言いました。
 僕はオジョーさんと初めて会った日の帰りに委員長に、ヤンさんの事を言ったのですが、委員長は、あんた気づいてなかったの? と吃驚されてしまいました。

「あの日はボランティアで保護施設の犬の散歩をしててな、そうしたらあの橋の上で犬達がキャンキャンやりだして、なんだ? と川を見たら船が浮いてたってわけよ。いや、あれはビビった」
 ヤンさんはそう言って笑うと、そういやオメェは単独ではどうなんだ? と委員長に聞きました。
 委員長はじっとヤンさんの顔を見たまま何も答えません。
 たまらずヤンさんは僕をちらちら見ながら、俺、何かやっちゃった? と焦っています。
 ばーちゃんが、話を続けるよーと手を二回打ちました。
「この子だけじゃない。多分、今、この町で異常な体験をしている人間はとても多い。それは皆が実感していると思う」
 僕と委員長とヒョウモンさんはポストに溢れかえる投稿を知っています。
 オジョーさんもヤンさんも噂をたくさん聞くと言っていました。
「原因としては、委員長ちゃんの説、結界が『薄くなった』……だけじゃあないと思う」

 委員長が、え? と声を上げました。

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