四季怪々 僕らと黒い噂達

島倉大大主

Chapter1-18:くだん

「プリクラはどこなんでしょうか」
 緊張感あふれる押し殺した声のオジョーさんですが、あまりのタイミングに僕達は口をパクパク。すると後ろにいたキンジョーさんがすっと前に入ってきてくれました。ここら辺打ち合わせ無しの動きです。
 キンジョーさんは何処からかペンを出すとマイクのように、口元に持っていきました。これ、やっぱり打ち合わせ無しです。いやあ、この時は何とも思わなかったんですけど、後々この嘘マイク大人気になるとはねぇ……。

「妹よ、今探しているのは占いマスィーンですよ。目的をたがえてはいけない」
「そうでした! 流石はお姉さまですわ! 占いだけに売れなさそうな隅の方! きっと、あの辺りですわ!」
 打ち合わせも無しでこれかっと呻きながら委員長は僕にカメラを渡してきました。
「確かにあの辺りだと思う。向けてみ」
 僕は驚いて声を上げました。一番奥の少し凹んだところに、くすんだ黄色の縦に長い機械が置いてあるのですが、カメラ自体がそっちにぐいぐい引っ張られる感覚があるのです。
 ヒョウモンさんにカメラを渡すと、なんだこれ! と悲鳴。
 続いて中々面白い姉妹漫才を続けるオジョー姉妹にカメラを渡します。
 ええっ! とオジョーさん。
 ぬうっ!? とやけに漢らしい声を上げるキンジョーさん。
 ここら辺が声だけなのは、そういうわけなんですね。あれは映像だと判りにくいです。

「さて、これが例の絶対当たるマシーンですね。百円を入れるとこの中心にあるディスプレイに何か表示されて、下から占いの結果が印刷された紙が出てくるようです。横に大きなスピーカーらしきものが二つあるということは、何かしらの音声が出るってことかな? ……紙出るならディスプレイと音声余計じゃね?」
 カメラマンを交代したヒョウモンさんは、僕のコメントを撮った後に、腕を組んでマシーンを観察している委員長にレンズを向けました。
「……何よ?」
「いこうか」
 は? と委員長。僕達はすでに横にそれ、ニコニコしながら、どーぞどーぞをしていました。
 これは事前に打ち合わせていました。委員長には内緒で、僕が進めたのですが――これが良かったのか悪かったのかは、ちょっと自信が無いです。
 なんにせよ、あの時はノリ半分、そして、委員長の隠し事に関して何か手がかりがあるんじゃないか、という期待半分。勿論、占いの結果をつまびらかにして、委員長の暴走を抑える事も考えていました。
「……謀ったな、貴様らぁ」
 絞りだすような声と眉間の縦ジワ。
 最高の表情です。ああ、わかったわよ、やりゃあいいんでしょやりゃあ、とずかずか機械に近寄った――と見せかけて僕の首根っこを摑まえた委員長は、金出せ! ジャンプしろ! と叫ぶのでした。
 この回の動画タグに『伝説の恐喝』とか『女王の目覚め』とか付けた人、後でメールください、死ぬほど笑いました。
 まあ、そんなこんなでお金を占いマシーンに入れることになりました。
 僕のなけなしの百円を委員長がジャリリン。
 息を飲む僕ら。
 ぴゅ~んと中々間抜けな効果音が響き、ドデデドデデと聞いた事のあるような無いようなクラシックっぽい音楽が流れ始めました。

「ねえ、生年月日とか血液型とかいれないの?」
 ヒョウモンさんの疑問に、僕と委員長は瞬きをし、マシーンに目を戻しました。
「ボタンとか一切ねーし」
 委員長の呟きに、僕が口を開こうとしたところ、ディスプレイがパッと明るくなり、LED、いやダイオードでしょうか、ともかく明るい点々で絵が次々と表示されていきます。
「星座占いみたいですわね」
 オジョーさんの言う通り、牛や羊、天秤が多分ランダムでぱっぱっと現れます。その横で立ったり座ったりしながらマシーンの横とか裏を見ていたキンジョーさんが突然妙なポーズで固まると、カメラさんカメラさんと手招きをしています。
 委員長が、ああ、もう何となく判ったぞこのパターンと呟いて頭を振りました。
 まあ、僕も皆さんも、あー、はいはいって感じでしたが、コンセントが刺さってないんですね。で、僕と委員長が溜息をついてたら、こととん、と下の受け口に占いの紙が二枚落ちてきまして終了です。

 ヒョウモンさんがマシーンの横からゆっくりと受け口に近づいてしゃがむと、僕と委員長に顎をしゃくってきました。僕は委員長を見ました。委員長は片眉を上げました。というわけで僕はしゃがみました。
「……二枚あるんだけど、どっちがどっちだろう?」
「選ぶとところまでコミって事じゃない? この――牛女占いは」
 委員長以外の皆がギョッとしてディスプレイに目をやりました。
 点々の絵は表示が壊れているのでしょうか、上半分がおうし座で、下半分が多分乙女座でした。僕は紙を取ると、一枚を委員長に手渡しました。
「……二枚ともあたしのじゃね?」
「まあ、いいから」
 何というか……そうしなきゃいけないと感じたんです。
 委員長は溜息をつくと紙を広げ、すぐになんじゃこりゃと呻きました。ヒョウモンさんがさっと後ろに回ってカメラを向けます。どうやら、もうマシーンにカメラは引っ張られてないようです。

『ねがいはかなうでしょう。た――ね――け――の――なら』

 紙には所々擦れた文字が印刷されていました。前半は置いといて、後半は何が何だかです。キンジョーさんがふぬーっと変な吐息を吐きました。
「ネットの占いの方がましな事が書いてある気がしますわ」
 僕も紙を開きました。思わず瞬きをしました。ヒョウモンさんがほれほれこっち向けて、と小さく言っています。
 その時でした。みなさーん、大変です~といつの間にかいなくなっていたオジョーさんがカウンターの方から走ってきました。
「大変大変! あの、今っ、カウンターの、店員さんに聞いたんですけどっ」
 はひはひ言うオジョーさんの背中を落ち着きなさい、とさするキンジョーさん。僕は紙の文字をじっと見つめました。
「実はその――結界の話で、ここもそうなんじゃって、ほら、委員長ちゃんが言ってたでしょう? だから神社とか近くにありますかって聞いたら――」
 オジョーさんは天井を見上げました。僕らも釣られて見上げます。

 オジョーさんの話では、このビルの四階、小さなベランダにお社があるのだそうです。そこには牛の石像が二体、入口を守っているそうです。この町は雷が多いので、天神様を祀ってる所が多くて、そういう所には牛がいるものさ、とばーちゃんに後で教えてもらいました。
「その牛さんが、最近何故か台座から落ちて割れてしまったのだそうです。現在修復中だそうで……」

 牛。

 僕は紙を見つめました。殆どの文字が擦れていたのに、読むのに凄く時間がかかったような気がします。

『ねがいはかなうでしょう。ふ――す――に――る――れ』

 この頃から撮影はするけれども、大分後になってアップする回が増えてきました。この回は五月に撮影されたのに、アップしたのは十月です。色々理由はあるのですけれども、一番の引っ掛かりは、編集中にデータが飛んでしまうことでした。
「まだ、世に出すべきじゃないってことかな」
 ばーちゃんはそう言うとコーヒーをスプーンでくるくる掻き回していました。
 この回がすぐにアップされていたなら、今後の展開が変わっていたかもしれません。
 しかし、掲示板で皆さんが騒ぎ出すまで、僕はこの二枚の占いの結果をあの日は疑問に思ってましたが、そのうちすっかり忘れてしまっていたのです。

『くだん』というものも全く知りませんでした。

 この回の動画が、なんやかんやで、アップされた一時間後に僕があの報せを受け取ることになるのを考えるにつけ――いや、考えるのはよしておきましょう。

 撮影を終えて、店員さんに連絡先を渡して外に出るとそろそろお昼です。ヤンさんのラーメン屋に行こう、とヒョウモンさんが提案をし、皆が同意しました。と、委員長があれ? と声を上げます。委員長の視線を追うと、なるほど、見たことのある人が歩いています。誰だっけな、と少し考えるも、ほらベンチの、と委員長。ああ、あの謎宇宙を見た時にベンチで寝ていたお医者さんか。
「あ」
 キンジョーさんが小さく声を上げました。休日ですので人が結構おりまして、そのお医者さんは僕達に気づくことなく歩いて行きます。隣には背の高い若い女性。彼女が不機嫌そうに何か言うたびに、お医者さんは頭を下げています。
「あの若い女性は――郷土史研究会の会長の清水さんですわ」
 キンジョーさんの一言に、僕は固まりました。

 どこかで見たことが無いか? あのきつい感じ――僕は委員長の肩を突きました。

「あれってさ、公園で見なかった? ほら、掃除に入って来た連中に指揮してた……」
「……言われてみれば……」
 僕達に背中を向け、二人はアーケード街から出て行きました。

 後にも先にも、あの二人がそろっている所を見たのはあの一回だけです。

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