四季怪々 僕らと黒い噂達

島倉大大主

Chapter1-14:オジョーさん覚醒!

 委員長は、硬直しているオジョーさんの目を覗き込みました。そして――多分、自分に言い聞かせるようにこう言ったのです。

「だからこそ、そんなモノはねじ伏せるべきです!」

 オジョーさんは、体を震わしました。
 僕もです。
 オジョーさんは下唇を一度思いっきり噛むと、はーっと大きく息を吐きました。柑橘系の匂いが僕の鼻に届きました。

「はいっ!」

 オジョーさんはそう叫んで委員長に頷くと、僕を見て、にかっと笑いました。
 その目には涙と炎がありました。
 思えば、この人はここからエンジンがかかりっぱなしなんですね。
「監督さん! この池のあの光ってる場所を見れれば、よろしいのですよね?」
 はい、と僕が答えるとオジョーさんはスマホを取り出し後ろを向いて電話をかけ始めました。すぐに、はい、わかりましたわと電話を切ります。
「お父様の許可が出ましたわ。ちょっとだけ、待っていてくださいね」
 それから十五分後、黒塗りの大きな車がカーブを曲がり、僕達の目の前に停まりました。オジョーさんは立ち上がると助手席を開け、運転手と言葉を交わすと、シートに乗った大きな箱を抱えて足でドアを閉めました。
「あら、少しはしたない所を見せてしまいましたわ!」
 恥ずかしがるオジョーさん。カメラを回していた僕の頭を委員長がカットしとけ、と小突きました。
「それは、何です?」
 僕の問いにオジョーさんはひゃあ! と嬉しそうな声を上げました。
「カメラ代わりの物です! 一度こういうのに使ってみたかったんです!」

「そのまま! そのまま真っ直ぐ……もうちょっと高くお願いします。風で水面が波立ってよく判らないです」
 了解ですわぁ、と嬉しそうにタブレットでドローンを操作するオジョーさん。横で的確な指示を出す委員長。
 ドローンはため池の中心でホバリングしながら上昇を始めました。ぶーんと結構うるさい音が辺りに響き、なんだなんだと見物人が集まってきました。
 一人のお婆さんが僕の肩をつつきました。
「どうしたの? 何? テレビ?」
「ネット番組です。ここの池の持ち主に許可を得て調査してるんです。ゴミが浮いてるし色々と――」
「あら、まあ」
「この池って、前からこんなにゴミが浮いてるんですか?」
 お婆さんは後ろの人達を振り返りました。そんな事はないわよねえ? そうだなあ、毎年蛙がうるさいし、魚もいるだろ、だから蚊が湧かないんだよな、ここ……とガヤガヤ盛り上がってきたところで、はいっと元気な声が上がりました。カメラを向けると口を真一文字に結んだ小さな女の子です。
「あたし、みました!」
 ああ、ゴミが勝手に飛ぶのを見たのか、と僕は考えました。年齢は幼稚園か保育園に入ったばかりのようです。
「怖かった?」
 思わず出た僕の言葉に周りの人はキョトン。でも、女の子はうんうんと頷きました。

「うん、とってもこあかった。だって、あのひとたち、お外がくらいのに、お池に入っていって、ぼうとかでガシャガシャやってて、あたしがおまどから見てたら、こっちをみんなでじろーってして、げんかんのもんをのりこえて――」

 委員長とオジョーさんがギョッとしてこっちを振り向きました。と、タブレットを横から覗いていた、さっきのお婆さんが声を上げました。
「あら! ちょっと、これ! これこれこれ! ああ、そうよ、あったわよコレ!」
 お婆さんが画面をつつこうとして、慌てて委員長がその指をはっしと掴みました。僕と野次馬もどやどやとオジョーさんの後ろから画面を覗き込みます。
 ゆらゆらと魚が泳ぐ緑の水。その下に白っぽくて丸い物が何個も見えました。
「ほら、あれ! 石の塚があったじゃない、あの真ん中に! よく蛙が乗ってた――」
 ああ! と声が多数上がりました。委員長が眼鏡を直して画面を凝視しました。
「じゃあ、これは――石の塚に使われていた石?」
「そうよ! なんだっけー! あ、弘法大師がどうとか!」

 後から判った事ですが、その石の塚は弘法大師が杖を突いて水を沸かせた場所に作られた物、だったそうです。
 オジョーさんのお父さんは土地を買う際に、その伝説を知り、図書館と繋げて公園を作り、皆に見てもらおうと塚をそのままにしておいたそうです。
 結局その日の撮影はその時に終わってしまいました。
 住居侵入は未遂でも罪になる、とのことで女の子の親御さんが通報、警察到着。
 近所の人達はそういえばあれが無くなった、これが壊された、とガヤガヤし始め撮影どころじゃなくなってしまいまして、これに巻き込まれたら色々時間が取られちゃうだろうから僕達はこっそり帰った方が良い、とオジョーさんが提案したのです。
「監督さん、お願いがあります! 私、撮影のお手伝いがしたいのです!」
 別れ際にオジョーさんがこう言ってきても僕は別に驚きませんでした。
 警察と女の子のやり取りを立ち聞きしたのですが、罰当たりかつ住居侵入しようとした連中は『灰色の服』を着ていたそうです。
「その連中を追いかけてるんですよね? 私があの時見た、あの人達を」
 オジョーさんの問いに、僕は首を捻りました。
「僕達はその――そんなつもりはないんです。でも、そうなるのかもしれない。
 しかし、連中がオジョーさんが見た連中と同一かは確定ではないですよ?」
「構いません! 私は知りたいんです。あの人達は――何であんなことをしたのか? それを知れば、あたしは、その――」
「悪夢をねじ伏せられる?」
 委員長の言葉に、オジョーさんは深々と頷きました。
「だから、とにかく! 始めたいんです!」

 ああ、これも『流れ』だな。僕はそう思うと、わかりましたと返事をし、連絡先を教えました。オジョーさんはにっこり笑うと、委員長と僕の肩に手を回しました。

「よろしくお願いいたしますわ、先輩たち!」

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