名探偵の推理日記零〜哀情のブラッドジュエル〜

耕一

プロローグ

 7月23日0時過ぎ、東京都、高層マンション。

 1階のエレベーターの扉が開き、スーツ姿の小太りの男が乗り込む。男はスマホのディスプレイから操作盤に目をやり、50のボタンを押す。押されたボタンがオレンジ色に光り、カゴがゆっくりと上昇し始める。

思えばこのサイクルを繰り返して10年。

独り身で友達付き合いも少ない男にとっては会社帰りにキャバクラに通い、女の子と喋ることが何よりのストレスの解消となってしまっていた。

おかげで婚期も逃し、今となっては実家の両親も、孫の顔を見ることを諦め、最近では滅多に連絡をしてこなくなってしまった。

扉の上部に設置された階数表示板の数字が徐々に50に近づいていく。

男はもう一度スマホのディスプレイに視線を戻し、赤い通知マークの付いたアプリを開いた。

男がアプリを立ち上げると、左下のメッセージのマークに青色の通知マークが付いているのを見つけた。

それと同時にエレベーターが50階に到着し、ゆっくりと扉が開いた。

男はスマホから目を離さずにエレベーターから降りると、通知マークの付いたメッセージのマークを押した。画面が切り替わり、新着順にメッセージを送ってきた人間のアイコンが縦に表示される。

その中で1番上に表示されていた新着のメッセージの内容を見ようと、男は見覚えのないアイコンをタップした。

またも画面が切り替わり、今度はその人間が送ってきたメッセージが表示された。

そのメッセージを見た瞬間、男は戦慄した。そこには『お前を殺す』ただそれだけのメッセージが表示されていたのだ。男はその場で足を止め、自分にこう言い聞かせた。

「俺は何もしていない。悪いのはあいつらだ」

スマホの電源を切った男は、止まっていた歩を再度進めた。

 嫌な事を思い出してしまった男は、自宅のドアを目指し、力なく歩んでいた。

「あんな事は早く忘れよう」

男は今夜1人呑み明かす事を決め、ポケットに手を突っ込んだ。

ポケットの中から自宅の鍵を見つけ、それを取り出した。

男の目に自宅のドアが映る。

あと3メートルというところまで来たその刹那、男は背後に気配を感じた。

嫌な予感が一瞬にして全身に鳥肌を立たせた。

『まさか___』
最悪の答えが男の頭の中で弾き出された。だがこのままでは自分は殺られるかもしれない。

そう感じた男は最後に少しでも抵抗しようと、意を決して後ろを振り返った。

「名探偵の推理日記零〜哀情のブラッドジュエル〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く