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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第277話 パンの枚数、罪の数

「「さぁ、おまんの罪を数えるぜよ!」」

 二人は息ピッタリの決め台詞をZに解き放った。またこの前のように滑ってしまうだろう。そんな事を思いながら、二人は沈黙の間も動かなかった。
 すると、恐々と戦いを見ていたフランが吹き出した。

「ぷっ、アハハ!二人とも、何なのですかそれは!」
「あら、ウケたでありんすな」
「よっしゃ一笑い獲得ゥ!リュウヤとタクマの攻撃がぐーんと上がった」
「ずるい!ウチも攻撃ぐーんと上げたい〜!!」

 宿敵Zが目の前にいるのに、驚くほどの和みよう。ゲームでよくあるパワーアップではないにしろ、緊張感がほぐれて本当に攻撃が上がったような気がする。
 すると、黙って決め台詞を聞いていたZは腹を立てて前脚をドンと力強く踏み込んだ。

『フザケルナ!黙ッテイレバ私ヲ笑イモノニシオッテ!ソウダ、笑イモノニスル奴コソ、私ガコノ世デ1番嫌イナ存在!』
「あちゃー、ゼロの攻撃もぐーんと上がった」
「言ってる場合でありんすか!とにかく今度はウチも!」

 おタツは言うと水色の巻物を口に咥え、Zの後脚に忍者刀を突き刺した。するとZの脚は凍りついたが、それはすぐに溶け、クリスタルの力に変換されてしまった。
 それを狙い、リュウヤは炎を纏わせた刀でクリスタルを一つ切り落とした。

「よし、後3つだな!よーし、このまま──」
「いや待って、この臭いは嗅いだ事ない!」
「えっ──?」

 ナノが言い出したかと思うと、Zの様子が変化した。なんと氷を集めていたクリスタルが、真っ黒に変色したのだ。ただの黒ではない、光を全て吸収したような黒。表現するならば、漆黒の二文字が該当する。
 するとそこから、黒色のドロドロした液体がクリスタルから溢れ出し、Zの体を包み込んだ。

「い、一体何が始まるってんだ?」
「おい見ろよ、コレ真っ黒なシャボン玉だ!すげー、ぷにぷにしてる」
「リュウヤ、何が起きるかわからねぇのに触っちゃダメだって」

 確かによく見れば見るほど、不思議な物体だ。繭にしては柔らかすぎるし、悍ましい力にしては丸っこくてふわふわしたイメージを持つ。
 なのに何だこの嫌な気配。背筋が凍りつくような、これから最悪な結末へと展開していくような、とてつもなく嫌な予感は?

「中身が分からねえなら、斬ってたしかめるべし!〈剣崎流・短冊斬り〉!!」

 しかしその時、繭が裂けた。そして、そこから三本の爪が飛び出し、リュウヤを斬り上げた。
 一瞬のことだ。爪はリュウヤの左半身に当たり、片目は潰れ、左腕が斬り落とされてしまった。
 悲鳴をあげるリュウヤ。あまりにも酷い一撃に、タクマ達の精神は削れかける。

「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!」
「リュウヤ!リュウヤ!」
『私ガタダ、オ前達ノ力ヲ奪ウダケト思ッタカ?』
「嘘……やろ……あっ」
「ナノちゃん!ダメですわ、気絶してしまっています……」

 一気に絶望の底へと叩き落とされた。なんと繭から現れたZの姿は、漆黒のドラゴンと融合したような異形へと変わり果てていたのだ。顔は崩れ、両腕はアンバランスでやや左側に偏り、右腕は漆黒の剣へと進化していた。
 しかも、全体的に小さなクリスタルも散りばめられており、それらは全て真っ黒になっている。

「痛てぇ、マジ痛てぇ!コイツ、マジだぞ!」
『ホォ。流石ノリュウヤ君デモ、屍ノ力ノ前デハ、得意ノ耐久力モ意味ガナイヨウデスネ』
「っ!そうだこの感じ、あの時の!」

 タクマは思い出した。ハルトマンが殺された時に感じたあの嫌な気配を。
 そう、この“屍の力”こそが、Zが隠していた本来の力なのだ。回復魔法の通用しない、とどのつまりリュウヤの持つ強靭な修復力も耐久力も意味がないと言う事になる。
 
「ハルトマンさん……」

 泣きつくようにタクマは呟き、拳を強く握りしめる。まさかこんな追い詰められる事になるなんて、思わなかったから。
 だがすぐにそんな気もどこかに飛んでいく。タクマはすかさずZに向かってコピーした水魔法を解き放った。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 タクマも、もう限界だった。リュウヤが重傷を負った、回復できないからじきに死んでしまう。またコイツに大切な人を奪われる。守られてばかりの自分に腹が立つ。色んな感情が混ざり合い、タクマの心にヒビが入る。
 精神が追いつかないほど体が動き、Zに立ち向かう。タクマ自身も驚くほどに、Zに傷を負わせている。石油のようなドロドロとした黒い血が出ているのが何よりの証拠だった。

『コレガ、想イノ力……ナント甘美ナルコトカ……』
「まだまだぁ!」
「タクマさん、ウチも!ウチもやるでありんす!」

 続けて、おタツも参戦して攻撃を仕掛ける。だが、超進化したZは反撃してこない。それどころか、演劇の怪人のように攻撃を浴びている。
 タクマ達はそれをチャンスと思い、何度も技を繰り出していく。だが、リュウヤとフランは違った。

「あの感じ……まっ!がはぁっ!」
「リュウヤさん!皆さん危ない、兄様から離れて!」

 危険を察知したフランは、吐血したリュウヤの代わりに叫んだ。しかし、遅かった。

『ソロソロ遊ビモ終ワリニシヨウ。《ヘルヘイム・オーバー》』

 Zは左腕でタクマとおタツを叩き落とすと、真っ黒な瘴気を纏わせた右腕の剣を地面に突き刺した。すると、そこを爆心地として広範囲にわたって瘴気のドームが形成された。
 どこか哀しげのある臭いが微かにする。だが嫌な空気だ。段々体が重くなっていく感じがする。それに、何だか体にまとわりついてくる。
 とその時、突然体の内側から尋常じゃない痛みが襲いかかってきた。

「ぐゎぁぁぁぁぁあ!!」
「い、痛い!なんでありんすか!ああああ!!」
「っ…………!っ…………!」

 それだけじゃない。この瘴気、傷口から血肉を貪り喰らっている。真っ赤な血が黒く染まり、そこからじわじわと体がすり減っていく。タクマも、おタツも、ナノも、3人とも同じ現象が起きている。しかし、リュウヤとフランだけ効いていない。

「テメェ……何しやがっ……」
『オヤオヤ、マダ生キテイマシタカ。シブトイ蠅メ!《テラ・フレイム》』

 その瞬間、リュウヤの左半身が業火に焼かれた。だが、リュウヤの肉体は焼け爛れることなく、平気な顔で剣を握っていた。

「片手失ったからなんだ……そんなもん何本でもくれてやる……」
『フン、死ニゾコナイガ』

 そう言うと、Zはリュウヤの腹に剣を突き刺した。死にかけで対抗できないが故、もろに背中へ貫通している。
 しかも、その状態でフラン含めてタクマ達を左手に集める。彼の巨体からすれば、タクマ達などただの価値のない人形でしかないのだろう。

「お兄様!やめてください!こんなことして、何になるのです?」
『意味ナドナイ。私ニトッテ、価値ノナイ人間ナド、死ノウガドウシヨウガ、関係ナイ』
「それって……」
『フラン、オ前ニハ失望シタ。折角オ前ノタメ、ココマデシタノニ。今日ヲ持ッテ、オ前ハ赤ノ他人ダ』
「ッ……」
「Z、妹に向かってなんて事を……」

 タクマは最後の力を振り絞り、Zに向かって言う。しかし、フランを見放したZに心残りはなかった。いや、心すらなかった。
 言い返すこともなく、タクマ達全員を崖へと投げ捨てた。

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