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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第275話 おやっさんの弔い合戦

「お兄様!お兄様!」
「ダメだフラちゃん。アイツはもう、フラちゃんを可愛い妹ちゃんとは思ってねぇぜ」
『マダマダ、私ハモット、強クナレル!』
「あかん。フラりん、危ないからちょいと隠れて」

 フランを安全な場所へと逃したタクマ達は、Zに刃を向けた。
 するとZは、背中からコウモリのような羽を生やし、強風を巻き起こした。それは噴火の爆風よりも強く、周りの民家諸共タクマ達は吹き飛ばされた。と思うと、辺りに転がっていたゾンビ達の体から青白い魂が飛び出し、Zの中へと吸収された。
 
「こ、こんな力があったでありんすか……?」
『クヒャヒャヒャヒャ!私ハ、新タナ暗黒龍トナル存在!黒屍龍・ゼロ!』

 Zの言うように、彼の体は城から現れた時よりも大きくなり、爛れた皮膚は龍の鱗のように変わっていく。しかしその弊害なのか、所々肉が腐り落ち、骨が剥き出しになる。その姿は、まさにドラゴンのゾンビと呼ぶべきものだった。最早、Zもといゼロ・アリエスという男の面影はどこにも無い。あるとすれば、死神の衣のように垂れ下がった白い髪程度。顔や骨格、身体全体、所々のクリスタル。どれを取ってもドラゴンでしかない。

「コイツは厄介な事になったな……」
「なーに心配いらねっての。オレに任せな!」
『マズハ、リュウヤ!貴様カラ腑ゴト魂ヲ吸イ尽クシテヤル!』
「お前ら、後援は頼んだぜ。おやっさんの弔い合戦、トップバッター1番リュウヤ・ツルギサキ打者が行ってやるぜ!」

 目に炎を灯したリュウヤは、メラメラとした勢いでガントレットに赤い宝玉を嵌め込み、刀に炎の力を宿した。そして、Zの爪攻撃を華麗に避けながら、柔らかそうな部分に攻撃を仕掛けた。
 その間タクマ達も、Zがリュウヤに夢中になっている隙を突いて足元を一点集中で攻撃した。やはりゾンビとなっているだけあって、全体的に体は脆かった。肉が分厚いため骨までの到達が遅いが、おタツとタクマが斬った肉をナノがハンマーで吹き飛ばせば、脚も骨だけになるだろう。
 だが、そう上手くは行かなかった。

「ナノ、今だ!」
「おう!〈秘技・だるま落とし〉!」
『ソンナ攻撃、痛クモ痒クモナイ!』

 するとその時、Zから生えているクリスタルが光り輝き、なんとリュウヤの刀から炎の魔力を抜き取ってしまった。
 そして、力を失ったリュウヤは爪に突き上げられ、上空に飛ばされてしまった。

「がはぁっ!」
「お前様!この、よくも!」
『目障リナ。《タルフ・ボルケーノ》!』

 おタツは忍者刀を逆手に持ち、凄まじい跳躍力を活かしてZの首を狙った。しかし、Zは蓄えた炎の魔力を解放し、マグマの波動ビームをクリスタルから射出した。
 運良く当たりはしなかったが、溶けてしまいそうなほど高温の熱気に押され、近付けなくなってしまった。更に、果敢に攻めたおタツはZの近くに墜ちてしまっていた。

「ぐべらっ!嘘だろ、俺の炎が奪われた……?」
「リューくん、大丈夫?」
「何とかな。骨は、後で数える」
「けどこのままじゃ、おタツさんが危ない!《コピー》!」

 タクマはZの解放した技をコピーしつつ、3人で正面から立ち向かった。タクマは様子見で通常攻撃、ナノは弱点探しのため《マムート・プレス》、リュウヤは先の炎に対抗して水の力を剣に宿して攻撃を開始した。
 オーブの強化が入っているとはいえ、相手は巨体のせいであまり素早くは動けない。その分、簡単に後ろに回って攻撃を当てることができた。

「タツ!無事か?」
「えぇ、何とか助かったでありんす」
『ヤハリ貴様ラノ魔法、ナンノ面白ミモナイ!』
「しまった!リュウヤ、逃げろ!」

 タクマは叫んだ。しかし、遅かった。Zがクリスタルを青色に変えると、リュウヤの水の魔力を吸収してしまった。
 そして、今度はその力を爪へと誘導させると、リュウヤに向かって腕を振り下ろし、大きな荒波を発生させ、おタツごと流してしまった。

「リューくん!タツ姐!」
『グハハハハ、実ニ愉快!私ハ今、地球ト接続サレタ!ツマリ、地球上全テノエレメントハ、コノ私ノクリスタルニ吸収サレル!故ニ、私ニ魔法ハ通用シナイ!』
「なん……だって……」

 タクマは絶望した。魔法を使ったことで、却って相手を強化させていたことに。しかも、ただでさえ普通に強くなったZが、リュウヤの刀に宿った力一つで街一帯を焼き払う魔法に変換させたのだ。1をなにかしらの力で強制的に10にするように。
 最早、目の前の黒屍龍に常識は通用しない。魔法では、科学には勝てないのか。
 いや、勝てる筈。勝たなきゃいけない。誰かの為にとか自分のためにとかじゃない。このエンドポリスの“死の運命”を断ち切るのだ。そのために、タクマは立ち上がった。

「大体分かってきた気がする。リュウヤ、皆、樹属性の力でアイツに立ち向かってくれ」
「えっ?けどそれじゃあ……」
「……いや、多分行けるでありんす。お前様、行くでありんす!」

 了解してくれたおタツは、リュウヤを連れてタクマと離れた。ナノはタクマと共に離れ、Zの外周を2チームで駆け回った。
 Zに聞かれると困るために細かくは話せなかったが、察しが良くて助かった。多分リュウヤはまだ訳が分かってないが、それでも緑の宝玉で樹の力を刀に宿し、おタツと共に長篠の舞を繰り出した。

『冥土ノ土産ニ教エテヤッタト言ウノニ!吸イ尽クス!』
「それがどうしたァ!」
「「《長篠の舞・双星乱舞》!!」」

 2人が攻撃を仕掛けたその瞬間、Zのクリスタルが緑色に変わり、リュウヤの刀から樹の力を吸い取った。だが、それは罠だった。
 
「《コピー・ギガフレア》!」

 タクマはクリスタルが緑に変わった瞬間を逃さず、そこにコピーした炎魔法を放った。すると、樹の力を宿したクリスタルにヒビが入った。
 そして、まさかの事態に混乱している隙に、ナノはクリスタルを叩き、2人の剣技が炸裂した。

「どんなもんや!」
「属性が変わるなら、そこに有利な魔法を放てばいいまでのことだ!」
『ソンナ、マサカコノガキ共ニ、コンナ知能ガアッタトハ……』
「何とか骨が出てきたぜ。あんま骨出汁にはしたかねぇけど」
「けどこれで弱点の取り方は分かったでありんすな」

 Zは弱点を見破られた事に動揺を隠せず、目が泳いでいる。まるで、想定外の事が発生したパソコンのようだ。
 そこで、リュウヤはタクマを連れ出し、目の前に出た。

「よしタクマ!久しぶりにアレ、やろうぜ」
「しょうがねぇなぁ。スベるの嫌だけど、仕方ない」

 そうだ。これでこそ、いつも通りのリュウヤだ。タクマは元の元気が戻ったリュウヤを見て、なんだかんだ言いつつもリュウヤのノリに乗った。
 そして、2人でそっと人差し指を出し合い、Zに顔を向けた。

「「さぁ、おまんの罪を数えるぜよ!」」

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