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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第273話 ケジメ

「俺、ガチになるわ」

 リュウヤはそう言うと、顔を上げた。そして、Zの瞬間移動を許さずに、顔面に一発打ち込んだ。

『ぐぁっ!き、貴様!コノ聡明なる私の顔ニ、何ヲ──』

 しかしZの言葉など無視して、リュウヤは無言で殴った。殴る。殴る。ひたすら殴る。髪を持ち上げて、間髪入れづにモニターへ顔面を叩きつける。
 5度叩きつけたかと思うと、今度は机のボタン群に勢いよく叩きつけ、その上から肘鉄を食らわせた。
 ドゴッ!バキッ!グガッ!鈍く痛々しい音が部屋中に響き渡る。その度にZの顔面は歪み、蜂に刺された後のような膨れ顔になっていった。最早、あの狂気顔の面影すらもそこにはない。

「確かに人間の命に価値は無いかもな。特に、お前みたいなゲス野郎にはな」

 そう言うと、今度はアッパーを顎に与え、椅子に座らされたZを再び殴った。その顔は、今までに見たこともないくらいに怒りに震えている。しかし、全身から出る黒いオーラによって顔は雲に隠れてしまい、血のように真っ赤に光る目と、服にこびりついた返り血以外、何も見えなかった。
 まさに、逆鱗を剥がされた邪竜が如し。あまりの凄惨なやり方に、おタツや吾郎も目を伏せてしまう。確かにこんなのは、ナノには見せられない。

『ひゅ……ひゅ……』
「これまでがエンドポリスの人達の分。次は、ハルトマンさんの分だ」

 怒り唸る竜が如き低い声で言うと、今度は回し蹴りでZの全身をモニターに叩きつけた。そして、落ちてきた所の首を掴むと、そのまま拳を叩き込んだ。
 その拳も、限界を突破して血塗れになり、少し青くもなっていた。
 確かに、俺達はハルトマンさんを殺された復讐心も持っていた。きっとオニキスも、今まで同じ気持ちだったのかもしれない。復讐して、仇を討つんだって。
 しかし見ていられなかった。例えゲスだとしても、このままやればリュウヤが人殺しになってしまう。そう思った頃には、タクマの体は勝手に動いていた。
 タクマは、リュウヤを羽交い締めにしていた。

「リュウヤ!もうやめろ!」
「……止めてくれんなよタクマ。コイツは俺が、責任を持って討つ」
「ダメだ!お前を人殺しにはさせたく無いんだ!」
「離してくれ。でないと、お前も殴る」

 だったら好きなだけ俺も殴れ。そう言いたかったが、リュウヤの気持ちも分からなくもない。それに、本当に殺されそうな気がして怖かった。
 けどここで引き下がって、リュウヤを解放したらどうなる?Zはもうボロボロだ。ゾンビよりも酷い顔になっている。だが、まだ息はある。けど後何発か打てば、Zは死んでしまう。
 そうなればそれこそ、リュウヤは人殺しだ。例え殺したのがZ1人だとしても。
 でも、そんなことしても、誰も喜ばない。

「こんな事しても、ハルトマンさんは喜ばねぇよ!!」

 一瞬の考えで頭が沸騰してしまい、つい怒鳴り声を上げてしまった。しかし、タクマの言葉を聞いたリュウヤからは、力が抜けた。拳も優しく解けて、タクマに背中を預けた。

「リュウヤ殿、大丈夫でござるか?」
「……ああ。そう、だよな。こんな事しても、おやっさん、心配させるだけだもんな」

 駆け寄る仲間たちに囲まれて、リュウヤは涙を流した。隠したり強がったりするでもなく、純粋に泣いていた。
 そしてゆっくりと立ち上がり、タクマに顔を向けた。

「タクマ、親友としてお願いがある」
「何?」
「俺を殴ってくれ!」
「OK!」

 ドガっ!
 タクマは躊躇う事もなくリュウヤの頬にビンタを食らわせた。勿論、反動でタクマにもビンタの感覚が帰ってきた。
 側から見れば、衝撃的だ。だがタクマは、この殴ってくれがどう言う意味かを理解していた。それは、今までピエロのフリをしていた自分を叩いて直してくれ、遠回しにそう言っているような気がしたのだ。
 するとリュウヤはバグを起こしたロボットのように「ガガッ、ピー」と言ったかと思うと、元のリュウヤに戻った。
 だが、そんないいことばかりではなかった。なんとZは自身の身体に薬を打ち込み、そこから生まれたオーラをオーブに与えたのだ。
 
『(訳:お前ら、よくも私の顔に傷をつけてくれたな)』

 怒りに震えたZはコブで潰れた口でフゴフゴと話す。しかし、オーブによる治癒能力でコブは瞬時に縮み、斬られた腕も復活した。
 そして、ポケットから赤い薬品の入った注射器を取り出すと、それを肩に注入した。すると、Zの体はみるみるうちに大きくなり、瞬く間に天井を突き破った。
 
「な、何や?何が起きとるんや?」
「皆さん!ここにいては危険です!逃げましょう!」
「けど、逃げると言っても来た道を戻っては助からないでござる!」
「いや、やれる!皆、こっちだ!」

 タクマは急いでワープゲートを展開し、そこからエンドポリスの入り口まで脱出した。しかしその入り口の前には、不自然にバイクが3台用意されていた。
 座席には置き手紙が置かれている。

『暇があったので私のコレクションをあげよう。自転車と同じと考えて乗りたまえ。α』
「じてんしゃ?鉄の鹿の間違いでは?」
「む?おお、この鉄の鹿、角を触ると鳴くでござる!」
「なるほどな。よーし、タクマはその銀髪のゾンビちゃん、吾郎爺はナノ、タツは俺の後ろに乗れ!」

 さっさと急かされたタクマ達は、リュウヤの言う通りにバイクに跨った。タクマとフラン、吾郎とナノ、リュウヤとおタツ。バイクと自転車は全く違うと思うが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
 タクマ達は一斉に、城へと爆速で駆け抜けていった。

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