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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第269話 デスゲームする奴は基本話が通じない

【迷宮 A】
 扉を抜けると、そこには近未来的な内装の小部屋が待っていた。目の前に認証式の扉があるだけで、それ以外はまるでSF映画の宇宙船のような空間になっている。
 すると、突然後ろの扉が閉まったかと思うと、その扉はすっと姿を消した。

「引き返すことは不可能、と言うことでありんすな」
「一体どんなゲームをするつもりなんや……?」

 ナノは怯えながら、おタツの脚にしがみついて震えている。幼いながらに、こんな趣味の悪いデスゲームに強制参加させられたのだ。それも、どちらか片方は死が確定している悪夢のようなゲーム。死を覚悟で突入したとはいえ、怖いものは怖い。
 タクマは彼女の心の負担を軽くしようと、優しく頭を撫でながら様子を伺った。
 すると突然、左側の壁がクルリと回転したかと思うと、現れたモニターに迷宮の地図が映し出された。

【Bルート】
『これより皆様には、相手の命を賭けたゲームを行ってもらいます。ルールは簡単、どちらかが先に迷路をクリアすれば勝ちとなります』
「迷路ぉ?そんなのアタシが超有利じゃねぇか。アタシ、迷路なら簡単に解けるぜ!」

 一方、メア達のチームはアリーナが目を輝かせて聞いていた。しかし、次にモニターからの言葉に、そんな自信も消え失せてしまった。

『ただし、どちらかがゴールに辿り着いたその時、ゴールできなかった相手の所の人達は死んでしまいます』
「そんな、じゃあもし私達が勝っちゃったら、タクマさん達の方は……」
「無事に生きて帰れはしないだろうな」

 オニキスは無慈悲にそう告げる。
 すると、画面にゴングが写されると、カーンと言う音を合図に扉が開いた。しかし、ノエルは足が震えて、動けなかった。

「ネコ娘、なにグズグズしてやがる」
「だって、だって、どっちかが死ぬなんて……そんなの嫌です」
「ノエルさん……」
「妾だって嫌じゃ。じゃがこの状況、やる以外の選択肢はないぞ」

 ──ノエルの意見もごもっともじゃ。しかし、ここで留まっていても、今更引き返すことはできない。とどのつまり、自分達が死ぬか、若しくはタクマ達を殺すか、その二択しかないのじゃ。
 メアはノエルの前にしゃがみながら、彼と目を合わせる。
 
『そうそう。制限時間は10分、それまでに辿り着けなかった場合、両方ゲームオーバーで死んでしまいまーす!』

 とその時、モニターからとんでもない宣告をされ、タイマーが現れた。10:00から1秒、また1秒と減っていく。
 Zのやる事だ。奴は本気で殺しにかかってくる。それも、自分が確実に勝つ事を知っているからこそ、こうして舐めて命を弄んでいるのだ。

「あの野郎、とことんクズだな。反吐が出るぜ」
「勝手に出してろ。とにかくネコ、トキ、死にたくねぇならさっさとゴールに出るぞ!」

 そう言うとオニキスは、メアを押し退けてノエルとフランを両肩に軽々と担ぐと、アリーナの方を睨みつけた。

「はぁ!?オニギリお前、分かってんのか?」
「うるせぇ。悪いがこんなクズの根城が俺の墓場なんてゴメンだ。恨むんならあのイカれ科学者でも恨むんだな」
「オニキスお主、それでも人間か!」
「……信じてやれよ、バカ共が」

 ただ一言、オニキスはそう言って一歩扉の外に足を踏み入れた。そして、アリーナにアゴで指示を出し、オニキスの前に立たせた。

「得意だってんなら道案内はニワトリ、お前に任せた。あとタヌキ、お前はネコのおもりでもしてろ」
「にっ……オニギリ、後で覚えとけよ?」

 少しギスギスしつつも、オニキス達は出発した。

【Aルート】
 Bと同時に出発したタクマ達もまた、どちらかが死ぬ恐怖を押し殺しながら、迷路の中を進んでいた。
 
「中は思ったより普通の迷路……だな」
「そうでありんすな。これといって変なところは見当たらりんせん」
「ご安心を。何かあれば、拙者がこの刀で相手いたすでござる」
「じぃじだけにはやらせへんって。ウチも壁ぶっ壊す勢いでやったるでー!」

 そう言いながらナノはハンマーを取り出し、意気揚々と壁を殴った。しかし、物理的に抜ける裏技には完全対策が為されていたようで、壁はナノのハンマーなどものともせず、最も簡単にカンッと弾き返してしまった。
 
「痛ったぁ〜!」
「ナノちゃん、大丈夫でありんすか?」
「う、うん。何とか大丈夫やで。あんがとな」
「まだ時間は……ちょっと少ないけど、やるしかない」
「ささ、ナノ殿。拙者にしっかり掴まってるでござるよ?」

 そう言って、吾郎はナノを背負い、タクマ達の前に出た。

「ナノ殿、ここはどっちに?」
「うーん……あっちや」

 道中の分かれ道はナノの鼻を頼りに、ガンガンと突き進んでいった。時折間違って行き止まりに付いてしまったが、時間的にも余裕でゴールできそうな気がして来た。

 ──────
 ────
「クックック、どちらかノ死がかかっていルト言うのニ、勇敢デスネ。実ニ、ワインの良き肴!私の求めた娯楽!手の上で命を転がすこの愉悦!アァ、ラストのラストで絶望する彼奴等の顔を思い浮かべるト、笑いが止まらナイ」
 
 一方で、Zは両チームのデスゲームショーを余興代わりに、1人αのアジトからくすねた極上ワインを嗜んでいた。しかも、くすねたのはワインだけではなく、椅子の近くには開けて間もない色々な酒の瓶が置かれている。
 そう、Zは邪魔者を遂に潰して、世界が滅んで行く様が見れる悦びのあまり、豪快に酒を呑み出したのだ。しかし、彼の身体が人間とかけ離れつつあるが故か、致死量のアルコールを摂取していても、平然と生きていた。だが、余興が楽しいのは変わらない。Zは血走らせた目で恍惚とした表情を見せながら、浴びるようにワイングラスをひっくり返す。
 とその時、隣の方から靴の音がした。振り返ると、虚な目をしたリュウヤが立っていた。

「Dr.Z様。ただいま、洗脳が完了いたしました」
「おやオヤ。これはリュウヤ君、実に素晴らしい出来ダ。どうデスカ?気分の方ハ」
「最高。実に、最高」

 リュウヤはZの足元に跪き、忠誠のポーズを取る。まるで君主に全てを捧げる誓いのように、創造主に創られたロボットのように。
 その変わり果てたリュウヤの態度を見たZは、酒のまわりで気分が良くなったこともあり、口が裂けるくらい口角が上がった。

「リュウヤ君、デハ最後の仕上げデス。コノ、オニキスを実験台に作成したこの最凶化の薬、コレを君に与えまショウ」

 そう言うと、Zはリュウヤの首に薬を打った。するとリュウヤは、薬の作用に苦しみ、目元から額を持ち上げるようにして苦しんだ。
 だが、薬が効き終わった頃、リュウヤはゾンビのように白濁とした目を見せて、再度Zの前に跪いた。

「ありがとうございます」
「ククク、ハーハッハッハッハ!」

 Zは笑った。その目は、綺麗なまでに、緑色に輝いていた。
 しかしZの事など気にせずに、リュウヤはゆっくりと立ち上がり、刀を抜いた。

「リュウヤ君、どこニ?」
「……外のゾンビで、少し肩慣らしをしてきます」

 そう言って、リュウヤは壁の中へと姿を消した。

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