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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第268話 何とかに付ける薬はない

【隠し部屋 研究室】
 下の階へ降りると、そこには見慣れない沢山の機械で埋め尽くされていた。広い、学校の理科室のような広さのその空間には、ビーカーは勿論のこと、怪しい薬品が机や棚に乱立して、足元にも叩き割られたフラスコなどの破片が散らばっていた。
 臭いも、それはもう鼻がもげてしまいそうなほど、不思議な臭いに包まれていた。

「うっ、なんですかこの部屋……」
「これがアイツの研究室か。何か、理科室みたいだな」
「なんでありんしょうか、この感じ。何かドキドキするでありんす」
「確かに。悔しいけど、ちょっと綺麗だな」

 アリーナは棚に並び、後ろのブルーライトで照らされた薬品を見て呟いた。
 彼女の言う通り、認めたくはないが綺麗に見える。まるで、液状の宝石が溜め込まれているように錯覚してしまう。
 しかし、中には全ての元凶であるウィルスの素となったものが入っているのだろう。

「しかし見たところ、これだけでござるな」
「扉がないのぅ。おい女もどき、もう1発さっきの奴をやってくれぬか?」
「馬鹿言うな。さっきの《クリムゾン・アイ》は血の消費が激しいんだ。悪いがこんな場所が死に場所なんて、俺はごめんだ」

 そう言うとオニキスは、近くにあったフラスコを持ち、匂いを直で嗅いだ。やめろ、それは鼻を壊す奴が出る危険な行為だぞ。と言いたかったが時既に遅し。鼻にツンと来たのか、鼻血を吹き散らかしながらフラスコを落としてしまった。
 中の薬品が散乱するのも良くはないが、その臭いが広がって、タクマ達の鼻にもダイレクトアタックをしてきた。

「ごはっ!な、なんやこれ!すっぱい、鼻がすっぱい!」
「オニキスさん、勝手に動くからこうなるんですよ!げほっ!げほっ!」

 地獄絵図になったことなど、言うまでもない。だが、全員の鼻から鼻血が出ると、嫌な臭いはピタリと止まった。

「な、何なのじゃこの薬は……」
「多分、コレは鼻血を出させる薬だな」
「何だそりゃ。ったく、ビビって損した」

 アリーナは露骨に肩を落とした。薬品の色が鮮血のような赤色だったこともあり、ゾンビになってしまう薬と勘違いしたのだろう。
 しかしその時、背後からメアの悲鳴が聞こえてきた。

「メア、どうした!?」
「おいコレ、タクマ覚えておるか?」

 振り返ると、メアは隠し棚の中からゆっくりと培養ポッドを取り出した。その中には、ドクロ型の果実が実っていた。
 それを見た刹那、タクマは初めてメアと共闘した時のことを思い出した。更に、あの時の嫌な感覚を思い出して、頭に痛みが走った。

「タクマさん、何か知っているのですか?」

 フランは訊く。
 ──間違いない。この形状、この色、俺は前にコイツを見た事がある。

「これは、不死身の果実だ」
「不死身でござるか……まさか!」
「……うむ。食えば不死の体を得る代わりに、恐ろしい怪物に変わり果ててしまう危険な果実じゃ。それも、妾の国アルゴで唯一封印していたもの」

 そう、俺がこの世界に来て間もない頃、奴はコレを狙ってアルゴ王に成りすましていた。
 しかし、メアは続けて「唯一、だったのじゃ」と、抱えていたポッドをノエルに押し付けると、もう一つポッドを取り出した。なんとその中には、もう一つの不死身の果実が入っていた。そう、Zは不死身の果実の培養に成功していたのだ。
 とその時、突然部屋の中が赤く染まり、警報が鳴り響いた。

「な、なんやなんや!」
『皆さん、よくぞ私の城においで下さいまシタ。どうでシタか?エンドポリス観光の方ハ』

 Zは天井から降りてきたモニター越しに話しかけてくる。

「フン、どこもかしこも腐ってて居心地が悪いったらありゃしなかったな」
「Dr.Z!早くリュウヤさんを返してください!」

 するとZは、ノエルの言葉に反応してゲラゲラと笑い出した。体を退け反らせ、狂ったような笑い声を上げる。その声はあまりにも大きく、地下の方から本人の声が聞こえてくるほどだった。
 一体なにがおかしいと言うのだ。するとZは、身体を起き上がらせたかと思うと

『私のような科学者が笑う時、それはどう言う時でショウ?』

 と、質問してきた。それに対してアリーナは少し考えてから成程と手を打った。

「アタシらみたいなネズミが、まんまと罠にかかった時、とかか?」
『クッカッカッカッカ、やはり私がかつて買収しただけはアル!バリアーシステム作動!』

 すると、タクマ達の間に青いガラスのようなバリアが入り、分断されてしまった。
 右側にはタクマ、おタツ、ナノ、吾郎。左側にはメア、ノエル、オニキス、アリーナ、そしてフランと分けられてしまった。

「くそっ、おい!なんのつもりじゃ!」
『君達にはこれからゲームをしてもらいマス。両者お互いの扉を下り、その先の迷宮を攻略してもらいますヨ』
「悪いがそんなのに参加するつもりはねぇ。俺だけでも帰らせてもらう」

 Zの説明を遮り、オニキスはバリアを破壊しようと剣を振った。しかし、剣がバリアに触れた瞬間、オニキスの身体に電流が流れ込んだ。
 あまりの衝撃に、オニキスは剣を落として跪いてしまった。しかし、特にオニキスを注意するわけでもなく、ルール説明を続けた。

『しかし、私のもとにたどり着けるのハ、一組ノミ。片方ハ、迷宮内の仕掛けによって必ず死ヌ』
「何ですって!?」

 恐怖したノエルは、口を開けたままタクマ達の方を見た。自分達の行動で仲間を殺す、若しくは殺されるかもしれないのだから、無理もない。
 しかし、タクマ達は今更そんな脅しには屈しなかった。むしろ、殺されるのなら俺達が犠牲になると言わんばかりに、キリッとした目をしていた。

「お兄様!どうして、どうしてこんなことを!」
『フラン、お前なら分かるはずデス。私が天才である事を信じていたお前ナラ』
「よせトキ娘。お前らも、ボサっとしてんな」
「ちょ、オニギリ!何すんだ!離せ、おい!」

 オニキスはZのにやけ顔をもう見たくないために、アリーナ達4人を持ち上げると、次々と左側の扉にぶち込んでいった。
 そして最後に、オニキスはタクマ達の方を向くと「約束破ったら分かってんな?」と言い残し、下の階に消えた。

「タクマ殿、覚悟の方は……いや、聞くまでもないでござるな」
「あぁ。待ってろDr.Z。すぐにでも辿り着いて、リュウヤを返してもらう」
『ホォ、友を見捨ててマデ、の覚悟デスね。面白い』
「そこで見とけ!ウチらは必ず、両チーム生きてクソジジイの所行くから、覚悟しぃ!」
「リュウヤさんをいじめる悪い子は、虫の息にするでありんす」

 すこし物騒な事を言っているが、ともあれお陰様で元気が湧いてきた。
 例え死ぬ運命だったとしても、死んでもリュウヤを助けに行ってやる。その覚悟を胸に、タクマ達も地下迷宮へとダイブしたのだった。

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