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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第266話 食材と料理は勇気の産物

『良いだろう。ならばオレサマも、計算が正しいと証明するため、検証してやろう!』

 ガラシーザーは、得意げにハサミを打ち付け、先制攻撃を仕掛けた。オニキスは瓦礫を身代わりにガラシーザーのハサミを封じ、その上から剣を叩きつけた。
 しかし、ガラシーザーの甲羅は鋼鉄よりも硬く、オニキスの剣を瞬く間に跳ね返した。

「何っ!」
『甘いな。はぁっ!』

 すると、怯んだ隙を突かれ、オニキスは一撃を喰らってしまった。
 
(くそっ!コイツ、硬いぞ。俺の鍛え上げた剣技でも通さないとは)

 オニキスは焦っていた。自分の剣が全く効かない事を知って。しかしそれは、同時にオニキスの闘争心を掻き立てた。
 俺の剣が効かない。つまりそれは、コイツを斬れば俺は更に強くなれる。復讐の死神をやめたとしても、力を上げて損をする事などない。それに、時間も稼いでかつ力も上がるのなら、これほどまでにお得なものはない。

『押されているのに笑えるのですか。分からない、実に分からない。オレサマにはお前の考えることが理解し難い』
「オレも、テメェがどうしてそこまで自分が勝てると錯覚してるか、全っ然わからねぇけどなァ」
『人間ごときが、Z様の最高傑作に敵うはずがない!オレサマは最強なのだ!』
「最強?なら尚更、テメェを潰さないとなぁ!」

 オニキスは目を血走らせ、ガラシーザーの頭に頭突きを食らわせた。甲羅に覆われていないガラシーザーの頭は、オニキスからの衝撃をもろにくらい、一瞬星が回った。
 その隙を突き、オニキスはガラシーザーの首を斬り落とし、後ろに回った。

『そこかッ! 《地獄バサミ》!』
「なんのこれしき、《クリムゾン・アイスエイジ》!」

 主人の血と共鳴した剣は、周囲の雪とマイナスの気温をかき集め、氷の刃に進化させた。それに対抗するように、ガラシーザーのハサミは炎で真っ赤に熱した刃で応戦する。
 ハサミが剣に当たる度、溶けた水が蒸発する音と共に、茹で蟹の美味しそうな匂いが漂う。そのせいで、オニキスの腹の虫が余計に騒ぎ出す。
 そう、クリムゾンは己の血を消費するだけでなく、エネルギーも多く消費する。つまり、すぐに空腹に陥ってしまう捨て身の能力。エンドポリスへカチコミに来てから何も食べていないオニキスにとっては、まさに背水の陣と同等の状況に立たされているのだ。いや、自ら立っている。

『最後の言葉は腹の虫か。最期まで無様な男だ』

 一旦距離を取り、腹を押さえるオニキスに彼は語りかける。最早腹の減った死神に負けるなど有り得ない。ガラシーザーは心の中で勝ちを確信した。どれだけ頑張った所で、オレサマには逆転の呪いがかかっている。つまり、死なない。その証拠に、今ちょうど首が帰ってきた。もう慣れすぎて、痛みも忘れた。
 しかし一方で、オニキスもただでは引かなかった。気合いで氷の刃を維持し続け、ここから挽回する策を考えていた。流石のオニキスでも馬鹿ではない。ガラシーザーが死なないことくらい分かっている。だが、死ななかったとしても、奴の復活を遅めたり阻止したりする方法はあるはず。

(……けど、腹減って頭が働かねぇ。ダメだ、奴のハサミから来る蟹の匂いが余計に虫を刺激しやがる)
『さぁ死ぬが良い!貴様のその屍肉、このガラシーザー様がゾンビ共の餌にしてくれる!』
「くっ……ん?」

 その時、オニキスに電流が走った。
 屍肉?肉?餌?食べ物?食う?蟹?蛇?ゾンビ?
 そして、全てが一本の線となった時、オニキスは顔を上げた。その顔は、まるで今目の前にステーキを出された、空腹の犬のように、目を爛々と輝かせ、ヨダレがだらしなく出ている顔だった。

「背に腹はかえられねぇ!うぉぉぉぉ!!」
『なっ、やめろ!何をする!』

 なんとオニキスは、勢いでガラシーザーの甲羅ごとハサミを斬り落としたかと思うと、まんまヘビのようになったガラシーザーの首に歯を突き立てた。
 そう、オニキスは空腹に耐えかねて、蛇肉もといガラシーザーを食おうという発想に至ったのだ。
 後で腹壊しても自分の責任でどうにかなる。とにかく今は、腹に入れば何でもいい。それに、腹に入れて消化しちまえば、食った肉体は元に戻らない。腹も膨れて敵も復活できないのならば、それこそ一石二鳥。

「ほぉん、なかなかうはいな(うまいな)」
『貴様、オレサマを喰らうなどどうかしているぞ!』
「うっへ、のほくいひひるそ(うっせ、喉食いちぎるぞ)」

 そんな事を言いながら、オニキスはガラシーザーの喉を裂き喰らう。その隙を突いて、ガラシーザーは復活したハサミを使ってオニキスの首を斬ろうと試みたが、オニキスはガラシーザーの喉肉を咥えてぬらりと避け、目の前でゴクリと美味しそうに音を立てながら飲み込んだ。
 そして、喉がガラガラになり、喋れなくなったガラシーザーは、それでもまだ食い足りなさそうに獣の目を向けるオニキスに、恐怖していた。

(この男、どうかしてやがる!このガラシーザー様を喰らっておいて、まだ満足していない!まずい、このオレサマが、Z様の最高傑作たるオレサマが、喰い殺されるだと?しかも人間ごときに!あり得ない、奴は“化け物”だ!)

 ガラシーザーは最早、Zを守ると言う使命を捨てて、逃げようかと考え、ゆっくりと後ずさっていく。しかしその時、オニキスの腹の虫が再び鳴いた。

「おいおい。まだ腹減ってるのに、肉が逃げてんじゃあねぇぞ?」
『っ!』
「次はハサミの肉だぁぁぁぁ!!」

 時既に遅し。ガラシーザーの腕は瞬きする暇もなく斬り落とされ、オニキスはぷりっぷりの蟹肉にかぶりつく。それはもう美味しそうに、誰しもが夢見た蟹天国のような食い方を楽しんでいた。
 しかし、ガラシーザーから見れば、人を貪り喰らうゾンビや、人喰い魔物の食事にしか見えなかった。それもそうだ。自分の身体を喰われているのだから。それに、部位はオニキスが手でがっちりと掴んでいるため、復活させようにもさせられない。

「美味ぇなァ。もっとテメェの肉、食いたくなってきたぜ」
(い、イヤァァァァァァァァァ!!)

 こうして、ガラシーザーはオニキスによって腹一杯になるまで貪られてしまいましたとさ。めでたしめでたし。

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