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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第258話 メグる真実

 ────あれ、ここは?
 目を覚ますと、そこは紫色に染められた部屋だった。いや、正確には紫色に“灯された”部屋だ。それに、何だか外がひんやりとしている。雪や氷の寒さではない、何かが居そうな、背筋に来るタイプのひんやりだ。
 それに、よく聞くとグツグツゴポゴポと、何かを煮込むような怪しい音も聞こえてくる。

「うっ、うぅ……」
「タクロー、お前大丈夫か?」

 起き上がって早々、アリーナは訊いた。振り返ると、そこには長机の上でタクマとノエルの復活を待つ6人の姿があった。
 まさか、さっきのブツ切れの記憶も、夢だったのか?いや、頭は痛いし、何より夢なら宿屋で目覚めないとおかしい。
 そんな風に考えていると、ガチャリと扉が開いた。そして、タクマはそこにいた人物を見て目を丸くした。
 何故ならその男は、オリーブだったのだ。

「オマエ、大丈夫ダッタノカ?」
「丁度あの後、気絶したアンタらに薬飲ませて、家に上がらせてくれたんよ。この人だろ、オリーブって兄ちゃん」

 リュウヤの問いに、訳もわからず頷いた。戦ったことがあるからよく分かる。目の下の隈、ボサボサの髪、メア顔負けの悪趣味ロッド、完全にビンゴだ。
 
「頭打ッテ、死ンダト思ッタノニ」
「頭を、打った?それって、夢の?」

 タクマが訊くと、オリーブは一瞬硬直しつつも、うんと頷いた。

「オマエ、多分アノ時一回死ンダ」
「は?」
「アレハ、夢ジャナイ」

 その時、タクマの頭が再び痛み出した。さっきまで感じていたものではなく、無理矢理記憶を引き出されているような、そんな激痛だった。
 しかし、その痛みによって、夢の記憶が鮮明に浮かび上がってきた。メアがシュシュを無くして髪を下ろしたまま聞き込みに行った世界線、アリーナが恐ろしい買い物をしようとしていた世界線、そしてオリーブを追って頭を打った世界線。どれも今日だと“思い込んでいた”記憶ばかりだった。

「ど、どう言うことなのじゃオリーブ。此奴は死んではおらぬぞ?」
「それにウチら、昨日エスジネスに来たばっかやで」
「……はぁ、これだからアホ共は」

 頭にハテナを浮かべていると、突然オリーブは人が変わったように低い声で話し出した。あまりの豹変っぷりに、タクマ達は硬直してしまった。

「ここからは真面目に話させてもらおう。俺達は今、どういう訳か同じ日を繰り返している」
「同じ日を、繰り返す?何それ無限ループって奴か?」とリュウヤ。
「まあ、そんな考え方で間違ってはいない。しかも、厄介な事に最近はどこで振り出しの時間に戻るか、俺にも分からなくなった」

 そう言って一旦話を区切ると、オリーブはノエルが寝ているベッドの下から集めのノートを取り出した。そこには、これまでの同じ日が繰り返し続いた時の時間が記されていた。
『11月XX日 1回目 午後22時40分』
『11月XX日 2回目 午後19時27分』
 こういった調子で、ループが発生した時間が書かれていた。しかも、その一番下の新しく書かれた記録には、驚くべきものが記されていた。

「11月XY日、4回目、午後18時42分。11月XY日、5回目、午後15時59分。この日付、今日の事でありんすよね……」

 読み上げたおタツの顔が、段々恐怖に怯える顔へと変わっていくのがよく分かった。それもそうだ、ついさっき今日が始まったと思った矢先に、突然同じ今日を何度も繰り返していたと言われ、その証拠も見せられたのだ。
 嘘だと思いたくても、あのオリーブがこんな真面目に話して、タクマの頭にもその記憶が残っていると分かった今、そんな逃避は通用しない。

「しっかしまぁ、何でアンタはその事知ってんだい?」
「まさか、今この時を含め、今日を6度も繰り返していたなど、見当もつかなかったでござる」

 不覚そうに、吾郎は目を瞑る。するとオリーブは、まあ仕方がない、と首を横に振り、腕を捲った。
 すると、腕に付いていた文字型の傷が露わになった。

「痛そう。この傷、どうしたんだ?」

 タクマが訊くとオリーブは、もう一方の腕を見せた。そこにも同じく、傷文字が刻まれている。

「ノートをなくして困っていた日に、試しに腕に掘った傷だ。夢でつけたはずの傷が、それも文字型のが付いている事に違和感を覚えて、俺はこの繰り返し現象を発見した」
「じゃあつまり、タクマと野江ちゃんが、頭痛が痛いって泣いて倒れたのも、その何度目かの今日に傷を負うようなことがあったから、って事か?」
「そういう事だ」

 その話を聞くと早速、リュウヤはオリーブの手を強く握り、顔を近付けた。

「教えてくれ!今の俺たちにはエンドポリスの場所を知る必要があるんだ!」

 唐突なお願いに、オリーブは固まってしまう。何故ループの話からエンドポリスの話になる。
 オリーブも最初は引き剥がそうとしていたが、リュウヤは真剣な表情で「頼む」と連呼し、遂には机に頭を叩きつける勢いで頭を下げた。理由はどうあれ、必死である様子はひしひしと伝わった。

「おいもうやめとけってリョーマ。お前も頭痛が痛い?ってのになるぞ」
「頭痛が痛くてもなんでもいい、とにかく頼む!この通り!」
「ああもう!わかった、分かったよ!ほら、エンドポリスはここにある!」

 押し負けたオリーブは、苛立ちながらも壁に貼ってあった地図を叩きつけ、星印の描かれた場所を指さした。
 そこは、エスジネスから北北西、ペルドゥラス最果ての崖の上に描かれていた。しかもその上には、オリーブの字で「エンドポリス」と記されていた。
 するとリュウヤは、唐突に近くのナイフを抜き取り、奥の個室に逃げてしまった。

「りゅ、リューくん!」
「お前様、どこにいくでありんすか!」
「来ないでくれ!エンドポリスの場所が分かったんならこれで万々歳だろ。だったら、ちゃんとメモしねぇと!」

 ザク、ガス、痛々しい音と共に、リュウヤの痛みを殺すような声が聞こえてくる。更に、血の匂いまで漂ってくる。
 まさかリュウヤ、あのナイフで……

「リュウヤ!」

 タクマは名前を叫び、扉を開けた。しかしその時、突然意識がプツリと途切れた。

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