コピー使いの異世界探検記
第251話 ゼットの計画
【メルサバ 宿屋】
無事にメルサバの中に避難することができたタクマ一行は、メルサバの外で起きた事をナノとおタツに伝えた。
魔物の凶暴化と大量発生、死んだ人間から新たに魔物が生まれたこと。
「そんな、人間が魔物に……?」
「信じたくねぇけど、マジな話だ。人間が──」
「アリーナさん、それ以上はナノに悪影響です」
ノエルは、ナノの心に傷を付けないよう、アリーナの言葉を遮った。アリーナは不服そうに口を膨らませ、へいへいと気の抜けた返事を返した。
「なぁタっくん、人が魔物になるって、おっちゃんは大丈夫なん?おっちゃんも、魔物になってまうん?」
「それは……」
答えられない。まだ答えも分かっていないのに、もしここでいい加減な事を答えてしまったら、それこそナノに悲しい思いをさせるかもしれない。仮に違うと言って、その「違う」といった結論が間違いでハルトマンが土の中から現れてしまったら。
つい嫌な想像をしてしまい、喉の奥に酸っぱいものが込み上げてくる。
『その心配はない。彼は既に土の中、ウィルスには侵されない筈だ』
「何奴じゃ!」
抑揚のない声に、メアはナイフを投げた。そして、彼女の怒鳴り声に、全員が扉の方に視線をよこした。
やはりそこには、αが居た。しかも、メアの投げたナイフを格好良く指の間で受け止めている。相も変わらず、隙がない。
「α!?アンタ、怪我してた筈じゃ」
『少し時間はかかったが、すぐに治せた。少々、魔物の軍勢を倒すのに手こずってしまってね』
αは言いながら、しれっとゲートから木の椅子を召喚してタクマ達の会議の輪に加わった。
最高に気分が悪くなりそうだ。現に、彼が輪に入った瞬間から、テーブルの周りに暗雲が立ち込めた。和ませ屋のリュウヤも帰ってきてから一言も発していないし、仲間の表情がわかりやすい程険しいものへと変わっていく。
室内が静まり返って早1分。沈黙とαへの不信感からか、時間が長く感じる。
「オッサン、今日は何の用で?」
沈黙を破ったのはリュウヤだった。隔てのない口調と共に急須を取り、α用のお茶を出した。
αはお茶を受け取り、そのまま深刻そうに手を組んだ。
『結論から言おう。この事件の元凶はウィルスによるものだ。それも、このウィルスを撒いたのはZだ』
「なんですって!?」
「ウィルス、じゃと」
するとその時、アリーナが勢いよく席を立ち、αの胸ぐらに飛び込んだ。そして、怒りに身を任せ、兜を何度も殴った。
「テメェふざけてんのか!オッサン殺されてるくせに、何の対策もしねぇでよぉ!アイツを一番説得できたのはお前だけじゃなかったのか!」
『すまない、本当にすまない』
「すまないだぁ?そんなもんで許されてたらこんな事になってねぇだろうが!」
「アリーナ殿、やめるでござる!」
「待て、落ち着いてくれアリーナ。とにかく、話を聞こう」
吾郎はアリーナの腕を抑え、彼女の怒りを鎮めさせた。アリーナも、吾郎に止められたからか、身体を吾郎に預けて倒れた。ぽたりぽたりと、殴った右拳から血が垂れる。
「ねぇαのおっちゃん、どうしてZがやったって分かったん?」
『実は、彼が私のアジトで反逆を起こした際、このようなものを落としていった』
言うとαは、小さなガラス瓶に入れられた紫の液体を見せた。毒のようだが、どこか澄んでおり、ぱっと見ドッキリで入れられたグレープジュースに見える。
そして、続けて研究データらしき紙も見せた。
『そして私は、彼が残した機器で検査を行った。その結果、これが新たなウィルスである事が分かった』
「人間を魔物に変えちまうウィルス、何かバイオハザードみてぇだな。Tなんとかって奴」
興味を示したリュウヤは、再起動したかのように動き出し、まじまじと小瓶を覗いた。
「つまり、“Zウィルス”と言うところでありんすな」
Zへの皮肉を交えつつ、おタツは一言呟く。すると、αはその名前に反応し、『以降はそれを使わせてもらおう』とおタツに頭を下げた。
「しっかし、こんなウィルスがばら撒かれたとなると、もう取り返しが付かぬじゃろうな」
『いいやメア君、現状このウィルスはまだ弱い。発症するのは、自らの意思で過量に摂取、若しくは深い傷を負った人間のみだ』
「じゃあ、Zがこのまま改良を重ね続けたら……」
ノエルが言う。
αは途中で切った彼の言葉に繋げるように、あまり考えたくはないが、と前に置いてから呟くように言った。
『骨折から始まり、切り傷逆剥け、終いにはただ生きているだけで発症してしまうだろう』
「こんな事になるって分かってたんだろ?あんなゲス野郎、さっさと殺しちまえば良かったのに」
アリーナは決断を渋ったαを睨みながら言った。
「アリリン、そんな酷い……」
『いや、その通りだ。殺すまでは行かなくとも、私がやめさせるべきだった。しかし、それを躊躇ってしまった』
「──何か、躊躇う理由があったでござるか?」
訊くとαは、スーッと息を吐き、無言で頷いた。
『もう隠し通すのも疲れた。本当はオニキス君にも出席して欲しかったが、全てを話そう』
「全て?αのオッサンの、計画とか?」
『あぁ。私の目的は──』
無事にメルサバの中に避難することができたタクマ一行は、メルサバの外で起きた事をナノとおタツに伝えた。
魔物の凶暴化と大量発生、死んだ人間から新たに魔物が生まれたこと。
「そんな、人間が魔物に……?」
「信じたくねぇけど、マジな話だ。人間が──」
「アリーナさん、それ以上はナノに悪影響です」
ノエルは、ナノの心に傷を付けないよう、アリーナの言葉を遮った。アリーナは不服そうに口を膨らませ、へいへいと気の抜けた返事を返した。
「なぁタっくん、人が魔物になるって、おっちゃんは大丈夫なん?おっちゃんも、魔物になってまうん?」
「それは……」
答えられない。まだ答えも分かっていないのに、もしここでいい加減な事を答えてしまったら、それこそナノに悲しい思いをさせるかもしれない。仮に違うと言って、その「違う」といった結論が間違いでハルトマンが土の中から現れてしまったら。
つい嫌な想像をしてしまい、喉の奥に酸っぱいものが込み上げてくる。
『その心配はない。彼は既に土の中、ウィルスには侵されない筈だ』
「何奴じゃ!」
抑揚のない声に、メアはナイフを投げた。そして、彼女の怒鳴り声に、全員が扉の方に視線をよこした。
やはりそこには、αが居た。しかも、メアの投げたナイフを格好良く指の間で受け止めている。相も変わらず、隙がない。
「α!?アンタ、怪我してた筈じゃ」
『少し時間はかかったが、すぐに治せた。少々、魔物の軍勢を倒すのに手こずってしまってね』
αは言いながら、しれっとゲートから木の椅子を召喚してタクマ達の会議の輪に加わった。
最高に気分が悪くなりそうだ。現に、彼が輪に入った瞬間から、テーブルの周りに暗雲が立ち込めた。和ませ屋のリュウヤも帰ってきてから一言も発していないし、仲間の表情がわかりやすい程険しいものへと変わっていく。
室内が静まり返って早1分。沈黙とαへの不信感からか、時間が長く感じる。
「オッサン、今日は何の用で?」
沈黙を破ったのはリュウヤだった。隔てのない口調と共に急須を取り、α用のお茶を出した。
αはお茶を受け取り、そのまま深刻そうに手を組んだ。
『結論から言おう。この事件の元凶はウィルスによるものだ。それも、このウィルスを撒いたのはZだ』
「なんですって!?」
「ウィルス、じゃと」
するとその時、アリーナが勢いよく席を立ち、αの胸ぐらに飛び込んだ。そして、怒りに身を任せ、兜を何度も殴った。
「テメェふざけてんのか!オッサン殺されてるくせに、何の対策もしねぇでよぉ!アイツを一番説得できたのはお前だけじゃなかったのか!」
『すまない、本当にすまない』
「すまないだぁ?そんなもんで許されてたらこんな事になってねぇだろうが!」
「アリーナ殿、やめるでござる!」
「待て、落ち着いてくれアリーナ。とにかく、話を聞こう」
吾郎はアリーナの腕を抑え、彼女の怒りを鎮めさせた。アリーナも、吾郎に止められたからか、身体を吾郎に預けて倒れた。ぽたりぽたりと、殴った右拳から血が垂れる。
「ねぇαのおっちゃん、どうしてZがやったって分かったん?」
『実は、彼が私のアジトで反逆を起こした際、このようなものを落としていった』
言うとαは、小さなガラス瓶に入れられた紫の液体を見せた。毒のようだが、どこか澄んでおり、ぱっと見ドッキリで入れられたグレープジュースに見える。
そして、続けて研究データらしき紙も見せた。
『そして私は、彼が残した機器で検査を行った。その結果、これが新たなウィルスである事が分かった』
「人間を魔物に変えちまうウィルス、何かバイオハザードみてぇだな。Tなんとかって奴」
興味を示したリュウヤは、再起動したかのように動き出し、まじまじと小瓶を覗いた。
「つまり、“Zウィルス”と言うところでありんすな」
Zへの皮肉を交えつつ、おタツは一言呟く。すると、αはその名前に反応し、『以降はそれを使わせてもらおう』とおタツに頭を下げた。
「しっかし、こんなウィルスがばら撒かれたとなると、もう取り返しが付かぬじゃろうな」
『いいやメア君、現状このウィルスはまだ弱い。発症するのは、自らの意思で過量に摂取、若しくは深い傷を負った人間のみだ』
「じゃあ、Zがこのまま改良を重ね続けたら……」
ノエルが言う。
αは途中で切った彼の言葉に繋げるように、あまり考えたくはないが、と前に置いてから呟くように言った。
『骨折から始まり、切り傷逆剥け、終いにはただ生きているだけで発症してしまうだろう』
「こんな事になるって分かってたんだろ?あんなゲス野郎、さっさと殺しちまえば良かったのに」
アリーナは決断を渋ったαを睨みながら言った。
「アリリン、そんな酷い……」
『いや、その通りだ。殺すまでは行かなくとも、私がやめさせるべきだった。しかし、それを躊躇ってしまった』
「──何か、躊躇う理由があったでござるか?」
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