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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第249話 屍踊るヘルヘイム

「あ、α!どうしてお前がここに!」
『大変な事になった。すぐにメルサバの平原に向かってくれ……』
「平原?平原に、何かあったのか!?」

 タクマは訊く。しかし、αは緊急事態を報告するとすぐに気絶してしまった。いや、正確には機能停止だろうか。
 違う、そんな事はどっちでもいい。アリーナはαの言葉を信じ、急いで病室を後にしてしまった。

「あっ!おいアリーナ!ごめんなさい、その人の看病お願いします!」

 ──【メルサバ平原】
 アリーナの後を追って門を潜るが、その先に緑一面の平原はなかった。魔物の軍勢が跋扈し、野は焼け、屍肉が転がる地獄と化していた。突然魔物と人間の戦争が始まったように、鍔迫り合いや銃の音が聞こえてくる。
 たった二日にして、こんな事になるなんて。タクマは言葉を失い、硬直することしかできなかった。しかしその時、奥の方で小さな悲鳴が聞こえた。

「助けてー!」
「お願い行かせて!うちの子が取り残されてるの!」
「いけません!民間人は早く市街地へ向かってください!」

 振り向くと、急いでメルサバに戻ってきた親子が離れ離れにされてしまっていた。しかも、転んで取り残されてしまった少女に、ゆっくりとトカゲ型の魔物が近付いてくる。
 兵士達も、子供と多勢の民衆の命を天秤にかけ、彼女を放置している。
 ──グルルァァ!!
 トカゲが少女に襲いかかる。危ない!
 声が出るよりも先に、足に力が入った。そして──

「〈閃の剣〉!」

 トカゲの首筋にあったロウを切り裂き、タクマは少女を救った。
 驚いて止まっている時間はない。とにかく原因究明なんて後だ、出来るだけ多くの魔物を倒して悲劇を起こすな!
 タクマは自分の心に言い聞かせ、少女のもとから離れた。
 すると、やっと状況がギルドに伝わったのか、緊急アナウンスと一緒に、武装したギルド冒険家達が躍り出た。初めから外で狩りをしていた冒険家に加え、押され気味だったギルド陣営は互角の勝負に持ち込んだ。

「タクマさん、なんですかこの騒ぎ!てか、アリーナさんは?」
「この祭りに乗じてどっか行っちまった!そっちは頼む!」

 偶然会ったノエルに言いながら、新手のトカゲを斬り、タクマも平原の奥へと走り出した。足の怪我が悪化するのも覚悟で、敵陣に潜り込む。
 
「ったく、なんなんだコイツら!」
「見たこともない魔物ばかりだ!まさか、魔王が復活でも……ぐわぁ!」
「アニキ!がぁっ!」

 近くで交戦していた冒険家が目の前で八つ裂きにされ、周囲に血を振り撒く。すると、血の匂いを察知した魔物がこちらを振り返り、標的を変えた。
 トカゲだけでなく、モグラやカマキリ、闘牛を模した魔物達が目を光らせて近付いてくる。

「嘘だろ、こんな量を俺1人で……」

 絶望しかなかった。まるで、特撮に出てくるような怪人が、ヒーローのいない世界に現れたような、そんな絶望感が背筋を伝った。
 しかしその時、奥に居たトカゲが細切れになって崩れ落ちた。更に、闇の爆発が魔物の軍勢を襲った。

「タクマ殿、まさか拙者達をお忘れ、なんて言わないでござるな?」
「そうじゃそうじゃ。嫌な予感がしたなら、せめて妾達に一声かけてから行けい」
「吾郎爺、メアも!」
「とにかく全員集合しているはずじゃ!妾も此処に混ぜい!」

 言うとメアは投げナイフを指の間に出現させ、それを牛の角に連続で投げた。続けて、吾郎も地面から現れたモグラを見切りで回避し、袈裟斬りで押し斬った。
 そして、タクマはカマキリの方に刃を向け、接戦を繰り広げた。

「ぐっ!つ、強い……」

 生物的な武器のため、斬ってしまえばどうにでもなると考えていたが、それは誤算だった。なんとカマキリの刃は、斬られても瞬時に再生し、更に強固な物へと変化した。
 最初は包丁程度だった切れ味が、今ではタクマの剣とほぼ同じくらいの切れ味になっている。しかも、鉄のない100%の自然素材であるため、切れ味が落ちる心配がない。

「ダメだ、マトモにチャンバラなんてやってたら相手が強くなってくだけじゃあねぇか!」
「マズイ!タクマ殿、後ろ!」
「何っ!?」

 吾郎の警告を聞いたタクマは、瞬時にそれが敵からの襲撃だと察し、剣を振り下ろしながら振り返った。すると、そこに綺麗に真っ二つにされた自然属性のツタだったものが残っていた。
 一瞬見落としそうだったが、微かに魔法の力がある事を剣から感じ取ることができた。

「よし、これなら!《コピー・リーフィ》!」

 タクマは指を鳴らしつつ後退し、地面に向かってコピーした魔法を放った。
 すると、放たれた気弾は意志を持ったツタとなり、カマキリの両足と両鎌の付け根を拘束した。

「喰らえ!〈閃の剣〉!」

 放たれた剣は、見事頭の真ん中に命中し、頭部から真っ二つ割れた。強靭な再生能力を得ていたとしても、それを統括する脳が割れてしまえば、それも意味がなくなってしまう。
 しかし、そんなカマキリも実際はただの軍の歩兵に過ぎなかった。なんと今度は、魔法を主軸に戦うタイプの魔物達が、タクマの前に現れた。
 サラマンダー、巨大スライム、泥人形、そして雷獣。まさに、主な属性を持つ四天王的存在が現れた。
 
「ちっ、次から次へと、キリのない奴じゃ!」
「そういえば吾郎爺、ナノはどこに?」
「ナノ殿を戦場に連れて参上するのは危険と判断し、おタツ殿に任せて宿屋に避難しているでござる」

 こんな戦禍の中、幼い少女を巻き込む訳にはいかないと危惧していたタクマは、ホッと一息ついて剣を新手の魔物達に構え直した。
 しかしその時、タクマの足元で、ピキピキと嫌な音がした。足元には、先程トカゲの魔物によって八つ裂きにされた2人の冒険家が横たわっていた。だが、その姿は膨張を始めつつあった。

「うわぁ!」
「タクマ殿、どうしたで……こ、これは……」

 なんと、遺体の皮膚が繭のように破け、新たに魔物が産まれた。少し人間の面影は残しつつ、二足歩行のサメとなり、生前使っていた武器を手に取った。
 そう、人間が魔物になったのだ。

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