コピー使いの異世界探検記
第244話 部下の失態、私の失態
「αお主!どの面を下げてここに来た!」
「メア殿、落ち着くでござる」
「落ち着いてられるか!このっ、このっ!」
ナイフを片手に、メアは襲いかかる。しかし、吾郎に止められ、寸前の所で止められる。どれだけ手を伸ばしても、届かない。
だが、タクマ達も同じ気持ちを抱いていた。何故なら、Zは彼の部下。とどのつまり、逃げた先に彼を置いて、あの凶行に走らせたのではないかと。
「今更何のつもりだ、α」と、オニキスは戦闘態勢に入りながら訊く。
『Zが、君達に取り返しのつかない事をしたみたいでね。お邪魔させてもらうよ』
「今更何がお邪魔だ馬鹿野郎!お前のせいで、オッサンが死んだんだぞ!落とし前もクソもねぇよ!」
抑揚のない声に腹を立て、アリーナは水の入ったコップを投げた。それに対して、αは飛んでくるコップを止めようとはせず、兜に水を与えた。
しかも、アリーナの目は真っ赤になり、涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまっていた。
「アリーナ、なんて事をしてるんだ。気持ちは分かるけど、投げる事はないだろ」
「タクマさんは悔しくないんですか?この人の部下が、命を奪ったんですよ!」
「だけど、殺したのはZだ。上下関係はあっても、少なくともこの人は関係ない。とりあえず、話だけでも聞こう」
こうして、タクマは皆の怒りを鎮め、誤解を解くために話をすることとした。αの前には、タクマ達+フラッシュとリオの11人。それに対し、αは大人しく1人ちょこんと座っているのみ。
側から見れば、αに対して陪審員付きの裁判でも行うのかと思うほどに、バランスが悪かった。
「お茶です、ごゆっくり」
『ありがとう。ストローも付いて、最高のおもてなしだね』
何故かメイド服を着たフラッシュからお茶を受け取り、αは早速いただきますと丁寧に礼をしてから、兜の隙間にストローを差し込んだ。ちゃんと管の中をお茶が通っており、飲めている。
しかし、あまりにも場違いすぎる彼の姿に、フラッシュはそそくさとタクマ達の後ろに隠れる。
「ちょっとフラッシュさん、何してるんすか」
「いやだって、私お茶淹れるの初めてだし、あの人がリュウヤ君をミイラにした人でしょ?無理無理、今度は私が殺されちゃうよ」
情緒不安定になっているようなので、タクマは戻って良いと伝え、フラッシュを部屋の外に出した。友を失っている状態でこんな鎧男を前にしたら、現実と夢がごっちゃになりそうだもんな。
冷静を保つタクマの後ろで、怖い顔をした9人が居る。そんな彼らの代表として、タクマは気持ちを押し殺して、彼との対談に臨んだ。
「α、まずこれだけ確認させて欲しい。アイツは、アンタの差し金じゃあない、そうだな?」
タクマは早速、話を進めやすいように、我々の持つ前提──Zはαの差し金説を覆す質問をした。まずこの一問で、もし違うとなれば皆からの矛先は彼に向かなくなる、そう考えての行動だった。
皆が耳を揃えてαの返答を待つ。
『本当に申し訳ない』
開口一番、αは答えた。その瞬間、背後で誰かが席を立つ音が聞こえた。
「ではやはり、ぬしの差し金でありんすね!」
「待っておタツさん。申し訳ないって、どう言う?」
『彼の凶行は、私の差し金ではない。しかし、家族の失態は私の失態でもある。だから今日、謝罪をしに来た』
おタツを抑え、詳しく訊くと、αは深々と頭を下げた。
私の差し金ではない。その言葉に、タクマはまず安堵した。確かに、もしタクマを殺そうとしていたのであれば、彼にやらせず、自身の腕を汚してでも葬り去る筈。しかもあの状況、全員疲労困憊だったあの時なら、皆殺しも容易だった筈だ。
「謝罪、ですって?」
「許す訳がない。テメェがアイツのケツ拭った所で、状況は変わらねぇんだ。いくら強いからって調子に乗るな」
オニキスの言葉が、αの体に刺さる。
『君達の言う通り、私も彼も取り返しのつかない事をした。何なら、私は君達の敵でもある。許してくれとは言わない。ただし、お詫びとして持ってきた品々だけでも、受け取ってはくれないか?』
そう言うと、αは和風な風呂敷包みを暗黒ゲートから取り出し、それを開けようとした。しかし、袋の結びが一つ取れた所で、ナノの声がした。
小声だが、何かを叫ぼうとしている。
「……けんな」
「ナノナノ、どったの?」
「ふざけんな!」
心配したリュウヤを突き飛ばし、ナノは叫んだ。その声は強く、部屋の外にまで届いていた。
その横で、リオが倒れたリュウヤの肩を担ぐ。
「リュウヤさん、大丈夫?」
「何でも物で解決しようとして、ホンマに意味わからんわ!こんなん貰うても、おっちゃんは、おっちゃんは、帰って来へんのやで!馬鹿、馬鹿、ばか……」
「ナノちゃん、もういいでありんすよ。うっ」
ナノの声は、段々と涙ぐんだ声に変わっていき、三度目のばかを言った直後に、わんわんと泣き出した。それを胸の中に入れたおタツもまた、つられて泣き出した。
それに加えて、メアやノエルも涙を流し始める。
『気を害してしまって申し訳ない。タクマ君、すこし良いかな?』
「えっ、はい」
αは立ち上がり、タクマの頭の前に手を出した。すると、αの手を通じて、脳内に新たな記憶が生まれた。
黒レンガを基調とした家々、コウモリや魔女の帽子を模した街頭の並ぶ街道。それでいて、街には雪が降り、黒と白が綺麗な街を飾る。まるで、年中ハロウィンをしているような、不思議な世界が広がっていた。
そんな綺麗な街の中で人々は、ロシア人が着てそうなコートと魔女の三角帽子を被り、幼児達は楽しそうに雪合戦をしている。
楽しそうだと世界観に浸っていると、上空から撮影されたような景色に変わった。東に城、西に学校、南に図書館、そして北に黒い塔。この国が四方の巨大建造物に見守られている事を見せられる。しかも、その4つの建造物全ては、皆魔王城や魔女の屋敷のように黒く輝いていた。民家もそうだが、国を象徴する巨大建造物は特に豪華な見た目となっていた。
「おいαのおっさん、タクマに何してんだ」
「タクマ殿、しっかりするでござる」
「タクマ君、起きなさいってば!いつまで寝てるのよ」
リュウヤ達の声に、タクマは呼び戻される。さっきまで本当に謎の国に行っていたような感覚があった筈が、葬儀場の待合室に戻っていた。
夢でも見ていたのか、それとも幻覚魔法でも使われたのか、考えようとすると頭がぼんやりとしてしまう。
『君にはエスジネスの記憶を与えた。本来カプリブルグの北東に位置していた国だ。しかしカプリはもうクレーターになってしまった。故に、いつでもペルドゥラスに戻れるよう、君に教えておく』
「やっぱり、滅んで──」
「リオ王女様、そろそろハルトマン様の送別会の開始時間でございます」
リュウヤの言葉を遮るように、タイミング悪く葬儀屋が現れた。ふと時計を見ると、時刻は既に13時を回っていた。そろそろ送別会が行われる時間、ハルトマンの棺を土の中に入れるのだ。
足取りがおぼつかない中、タクマは吾郎の肩を借りて席を立つ。辛うじて歩けるように応急処置は施したが、やはり立つ時には力がかかるため痛みが走る。
「なぁ、おっちゃんは来うへんの?」
『いや。これは全て私に責任がある。彼に合わせる顔はない。終わった頃に、花を持ってまた来る』
「ささ、どうぞこちらに」
彼の要望を汲み、タクマ達はαを部屋に残したまま、葬儀屋に促されて会場へと向かった。
そして、1人残ったαは、開きかけの風呂敷を手に、タクマ達が出て行った出口をゲートに変え、アジトへと戻った。
『Z、なぜこんな真似を』
「メア殿、落ち着くでござる」
「落ち着いてられるか!このっ、このっ!」
ナイフを片手に、メアは襲いかかる。しかし、吾郎に止められ、寸前の所で止められる。どれだけ手を伸ばしても、届かない。
だが、タクマ達も同じ気持ちを抱いていた。何故なら、Zは彼の部下。とどのつまり、逃げた先に彼を置いて、あの凶行に走らせたのではないかと。
「今更何のつもりだ、α」と、オニキスは戦闘態勢に入りながら訊く。
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抑揚のない声に腹を立て、アリーナは水の入ったコップを投げた。それに対して、αは飛んでくるコップを止めようとはせず、兜に水を与えた。
しかも、アリーナの目は真っ赤になり、涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまっていた。
「アリーナ、なんて事をしてるんだ。気持ちは分かるけど、投げる事はないだろ」
「タクマさんは悔しくないんですか?この人の部下が、命を奪ったんですよ!」
「だけど、殺したのはZだ。上下関係はあっても、少なくともこの人は関係ない。とりあえず、話だけでも聞こう」
こうして、タクマは皆の怒りを鎮め、誤解を解くために話をすることとした。αの前には、タクマ達+フラッシュとリオの11人。それに対し、αは大人しく1人ちょこんと座っているのみ。
側から見れば、αに対して陪審員付きの裁判でも行うのかと思うほどに、バランスが悪かった。
「お茶です、ごゆっくり」
『ありがとう。ストローも付いて、最高のおもてなしだね』
何故かメイド服を着たフラッシュからお茶を受け取り、αは早速いただきますと丁寧に礼をしてから、兜の隙間にストローを差し込んだ。ちゃんと管の中をお茶が通っており、飲めている。
しかし、あまりにも場違いすぎる彼の姿に、フラッシュはそそくさとタクマ達の後ろに隠れる。
「ちょっとフラッシュさん、何してるんすか」
「いやだって、私お茶淹れるの初めてだし、あの人がリュウヤ君をミイラにした人でしょ?無理無理、今度は私が殺されちゃうよ」
情緒不安定になっているようなので、タクマは戻って良いと伝え、フラッシュを部屋の外に出した。友を失っている状態でこんな鎧男を前にしたら、現実と夢がごっちゃになりそうだもんな。
冷静を保つタクマの後ろで、怖い顔をした9人が居る。そんな彼らの代表として、タクマは気持ちを押し殺して、彼との対談に臨んだ。
「α、まずこれだけ確認させて欲しい。アイツは、アンタの差し金じゃあない、そうだな?」
タクマは早速、話を進めやすいように、我々の持つ前提──Zはαの差し金説を覆す質問をした。まずこの一問で、もし違うとなれば皆からの矛先は彼に向かなくなる、そう考えての行動だった。
皆が耳を揃えてαの返答を待つ。
『本当に申し訳ない』
開口一番、αは答えた。その瞬間、背後で誰かが席を立つ音が聞こえた。
「ではやはり、ぬしの差し金でありんすね!」
「待っておタツさん。申し訳ないって、どう言う?」
『彼の凶行は、私の差し金ではない。しかし、家族の失態は私の失態でもある。だから今日、謝罪をしに来た』
おタツを抑え、詳しく訊くと、αは深々と頭を下げた。
私の差し金ではない。その言葉に、タクマはまず安堵した。確かに、もしタクマを殺そうとしていたのであれば、彼にやらせず、自身の腕を汚してでも葬り去る筈。しかもあの状況、全員疲労困憊だったあの時なら、皆殺しも容易だった筈だ。
「謝罪、ですって?」
「許す訳がない。テメェがアイツのケツ拭った所で、状況は変わらねぇんだ。いくら強いからって調子に乗るな」
オニキスの言葉が、αの体に刺さる。
『君達の言う通り、私も彼も取り返しのつかない事をした。何なら、私は君達の敵でもある。許してくれとは言わない。ただし、お詫びとして持ってきた品々だけでも、受け取ってはくれないか?』
そう言うと、αは和風な風呂敷包みを暗黒ゲートから取り出し、それを開けようとした。しかし、袋の結びが一つ取れた所で、ナノの声がした。
小声だが、何かを叫ぼうとしている。
「……けんな」
「ナノナノ、どったの?」
「ふざけんな!」
心配したリュウヤを突き飛ばし、ナノは叫んだ。その声は強く、部屋の外にまで届いていた。
その横で、リオが倒れたリュウヤの肩を担ぐ。
「リュウヤさん、大丈夫?」
「何でも物で解決しようとして、ホンマに意味わからんわ!こんなん貰うても、おっちゃんは、おっちゃんは、帰って来へんのやで!馬鹿、馬鹿、ばか……」
「ナノちゃん、もういいでありんすよ。うっ」
ナノの声は、段々と涙ぐんだ声に変わっていき、三度目のばかを言った直後に、わんわんと泣き出した。それを胸の中に入れたおタツもまた、つられて泣き出した。
それに加えて、メアやノエルも涙を流し始める。
『気を害してしまって申し訳ない。タクマ君、すこし良いかな?』
「えっ、はい」
αは立ち上がり、タクマの頭の前に手を出した。すると、αの手を通じて、脳内に新たな記憶が生まれた。
黒レンガを基調とした家々、コウモリや魔女の帽子を模した街頭の並ぶ街道。それでいて、街には雪が降り、黒と白が綺麗な街を飾る。まるで、年中ハロウィンをしているような、不思議な世界が広がっていた。
そんな綺麗な街の中で人々は、ロシア人が着てそうなコートと魔女の三角帽子を被り、幼児達は楽しそうに雪合戦をしている。
楽しそうだと世界観に浸っていると、上空から撮影されたような景色に変わった。東に城、西に学校、南に図書館、そして北に黒い塔。この国が四方の巨大建造物に見守られている事を見せられる。しかも、その4つの建造物全ては、皆魔王城や魔女の屋敷のように黒く輝いていた。民家もそうだが、国を象徴する巨大建造物は特に豪華な見た目となっていた。
「おいαのおっさん、タクマに何してんだ」
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リュウヤ達の声に、タクマは呼び戻される。さっきまで本当に謎の国に行っていたような感覚があった筈が、葬儀場の待合室に戻っていた。
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「やっぱり、滅んで──」
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リュウヤの言葉を遮るように、タイミング悪く葬儀屋が現れた。ふと時計を見ると、時刻は既に13時を回っていた。そろそろ送別会が行われる時間、ハルトマンの棺を土の中に入れるのだ。
足取りがおぼつかない中、タクマは吾郎の肩を借りて席を立つ。辛うじて歩けるように応急処置は施したが、やはり立つ時には力がかかるため痛みが走る。
「なぁ、おっちゃんは来うへんの?」
『いや。これは全て私に責任がある。彼に合わせる顔はない。終わった頃に、花を持ってまた来る』
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